『夏子の酒』との縁が生んだ「るみ子の酒」
忍者の里として名高い三重県・伊賀上野の北部にあり、水田に囲まれた森喜酒造場。平成11(1999)年から全量純米蔵に変わり、純米酒や燗酒を好む方々を中心にいまや全国的な人気を得た同蔵ですが、蔵が生まれ変わったきっかけは漫画『夏子の酒』でした。
尾瀬あきらさん作の漫画『夏子の酒』は1988~91年に連載され、人気を呼びました。94年には和久井映見の主演でドラマ化もされています。
造り酒屋の娘である佐伯夏子は東京でコピーライターとして働いていました。ある日、幻の酒米「龍錦」を復活させて日本一の酒を造ることを目標にしていた兄が急逝。夏子はその遺志を継ぎ、仕事を辞めて蔵に入り、困難を乗り越えながら究極の酒を目指します。
尾瀬あきらさんの協力で誕生
現在40~50代の方は、同作で日本酒に興味をもった方も多いはず。森喜酒造場の後継ぎである森喜るみ子さんも多大な影響を受けました。るみ子さん自身も、夏子と同じように地元を避け、製薬会社で働いていたそう。また、夏子と同じ2月7日が誕生日であること、蔵元が病気にかかり、夫の英樹さんとともに蔵を継いだこと、若いころから蔵の酒を飲んでいたことなど、まさに「リアル夏子」のようなるみ子さんは同作を読んで感動。尾瀬さんに手紙を書いたことから、ふたりの交流が始まりました。東京で行われた地酒の会で勉強したり、純米蔵の雄である埼玉の神亀酒造に足を運んだりし、るみ子さんは「純米酒」を造ろうと決意します。
夫婦で試行錯誤してできた純米酒には、優しく、それでいて凛とした女性を尾瀬さんがラベルに描きました。もちろんモデルはるみ子さん。このお酒は「るみ子の酒」と命名されました。
米の旨みが味わえる低アルコール酒
この純米酒は麹米に阿波山田錦、掛米に長野県産ひとごこちを使用し、精米歩合は60%。割水してアルコール度数を14度まで下げ、飲みやすくしています。低アルコール酒はふだん夏酒として出され、ブルーボトルの爽やかな印象ですが、今回は「あらばしり」(清酒の上槽時に最初に出てくる部分)の無濾過生原酒を割水した新酒で、グリーンのボトルです。
フレッシュな麹香と柑橘系の香りがありつつも、味わいはいたって穏やか。同蔵のお酒は、米の旨みを存分に味わえ、深みのある酸が特徴ですが、このお酒は米の旨みや芯の強さは感じるものの、スマートで引き締まった味です。酸もそれほど主張せず、後口はスパッと切れていきます。同蔵としては異例の淡麗酒に思えますが、やはり米の旨みも奥から主張してきて、“らしさ”も感じます。
お燗すると米の旨みも出てきて、生酒でもダレません。スルスルと爽やかに呑めてしまうので、呑み過ぎ注意です。食中酒としても適していてウドの酢味噌和えや焼き魚、ヒラメのえんがわなど、脂が多めのお刺身などに合うでしょう。