2023年10月5日(木)、東京都の日本橋にあるロイヤルパークホテルで、日本酒の未来に対する考察をテーマとした、日本ソムリエ協会のセミナーが開催されました。

講師を務めたのは、日本在住で唯一のマスター・オブ・ワイン(Master of Wine、以下「MW」と略)である大橋健一さん。このMWはワイン業界においてもっとも権威のある資格です。

日本ソムリエ協会の分科会セミナーの様子

大橋MWは、日本酒業界を牽引する大手メーカーのひとつである宝酒造の事例を取り上げながら、日本酒の未来に対する展望を話しました。

また、セミナーの中では、同社の日本酒ブランド「松竹梅」の新たな象徴となる商品「松竹梅白壁蔵 然土(N・end/ねんど)」のリリースも発表されました。今回は、このセミナーの様子をレポートします。

松竹梅の事例を通して、日本酒業界の現在を知る

ワインの世界的権威であると同時に、海外では日本酒に関するセミナーを行う機会も多いという大橋MW。世界でもっとも影響力があると言われるワインコンテスト「International Wine Challenge(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」では、2007年に設立されたSAKE部門の共同議長として、審査員を務めています。

日本在住で唯一のマスター・オブ・ワインである大橋健一さん

日本在住で唯一のマスター・オブ・ワインである大橋健一さん

「ワインは、大手のナショナルブランドが産業を牽引し、業界のサステナビリティや労働生産性を高めるなどの役割を果たしています。さらに、超一流の小規模ワイナリーや三ツ星レストランも、大手の高い技術をリスペクトしています。

しかし、日本酒業界には、『大手が造るのは安価な商品で、小さい酒蔵のほうが価値が高い』という風潮があります。世界に進出するには、ワインのように品質を公正に見る視点がなければ、日本酒は趣味の領域から出ることはできません」

さらに、「大手酒蔵の動向を見ることは、日本酒業界の全体を見ることになる」と大橋MWは話します。

「宝酒造は、いわゆる“サステナビリティ”の活動に1970年代から取り組んでいます。プルタブが缶の上に付いたままにする『ステイオンタブ(Stay-On Tab)』に国内で初めて取り組み、さらに絶滅危惧種を保護するためのファンドや災害の義援金活動も行っています。

ワイン業界にとって、サステナビリティは大きなテーマのひとつですが、宝酒造の取り組みはワインの大手メーカーに負けていません。この取り組みをもっと発信していくことで、日本酒全体が世界に高く評価されるはずです」

パック酒には、大きな可能性がある

続いて、事例研究として、宝酒造の松竹梅ブランドの4商品をテイスティング。大橋MWが商品の特徴を解説しながら、日本酒が世界に進出するための見解を示しました。

1本目は、スーパーなどでも手に入るロングセラーの定番商品「松竹梅 天」。大橋MWは、パック酒には大きな可能性があると分析します。

松竹梅 天

「ワインのソムリエなら、バッグ・イン・ボックス(紙製の箱に袋に詰めたワインを入れるスタイル)の商品にクオリティの高いものがあることは誰でも知っていて、レストランなどでも取り扱います。ところが、日本酒のパック酒は『安酒』というイメージを持たれてしまっています。

紙はリサイクルすることができ、運びやすく割れることもありません。重さを比較すると、パック酒の容器の重さは瓶に対してわずか6.8%。中身の品質が良いのであれば、紙パックのメリットは大きいんです」

大橋MWは「松竹梅 天」の味わいについて、「アミノ酸やコハク酸、乳酸などが複雑に重なり合い、芳醇な酸をつくっている。干し柿やスターアニスのようなさまざまな要素があるが、アルコール分を下げることによってすっきりと飲ませてくれる」とコメント。

日本酒市場に多く流通しているパック酒について、偏見にとらわれず理解することの重要性を解説しました。

味わいや醸造方法が多様化している日本酒

日本酒の現代のトレンドについて、大橋MWは「ひと昔前のように、精米歩合に価値を置く時代ではなくなり、味わいや醸造方法などが多様化しています。宝酒造の商品を見れば、日本酒の新しいベーシックを理解できます」と説明します。

多様化の具体的な例として、伝統的な製法である生酛造りを採用した「松竹梅『白壁蔵(しらかべぐら)』〈生酛純米〉」と、スパークリング日本酒の「松竹梅白壁蔵『澪(みお)』」が紹介されました。

松竹梅 白壁蔵 生酛純米

「松竹梅『白壁蔵』〈生酛純米〉は、灘にある白壁蔵で造られていますが、灘の伝統的な辛口酒は若い世代が飲み慣れていないので、あえて穏やかな味わいに仕上げられています。生酛造りという伝統製法を用いながら、飲みやすい味わいにすることで、日本酒の入口になるような酒質を目指しているんです」

松竹梅 白壁蔵 澪

「松竹梅白壁蔵『澪』は、日本酒らしくない味わいに思えるかもしれませんが、その見事な米感を感じとってみてください。日本を訪れるインバウンドの観光客は、高級な日本料理店で飲めるお酒が、シャンパンだけではがっかりしてしまう。日本酒のスパークリングが飲めるのは外国人にはうれしいアプローチで、こうした日本酒を飲食店が出すことで、日本の飲料文化が大きく育つのです」

日本酒業界を、よりサステナブルに

最後に登場したのは、大橋MWがコンサルティングした「松竹梅白壁蔵 然土(N・end/ねんど)」です。宝酒造の熟練の技術を用い、日本を代表する最高峰の日本酒を目指して造られた松竹梅ブランドの新商品で、初年度はわずか400本の業務用限定の販売となります。

松竹梅ブランドの新商品「然土(N・end)」

「然土(N・end/ねんど)」を造るにあたり、最初にとりかかったのは契約農家の選定でした。パートナーとして選んだ兵庫県西脇市の藤原久和さんの圃場は、酒米「山田錦」の最高の産地とされる特A地区にはあたりません。

「宝酒造が目指すことを実現するために、専業の農家を探した結果、西脇市の藤原さんと手を組みました。西脇市の気候条件は特A地区とほぼ変わりませんし、実際にできた米の成分と自社で購入している特等米の成分を比較分析してみたところ、整粒率は若干劣るものの、粗タンパクの少なさや心白発現率はむしろ優秀であることがわかりました」

契約栽培にあたって実施しているのが、メタンガス削減の取り組みです。メタンガスは二酸化炭素よりも温室効果が高いと言われ、主に畜産物から発生することが知られていますが、日本においては稲作が最大の発生源となっているそうです。

「稲わらに腐熟促進剤を使うことによって、土壌微生物を活性化させ、メタンガスが生成される前に稲わらを分解し、さらに水田を乾かす中干し期間を延長することで、もっとも成績の良かった試験区では、69%もメタンガスの生成量を下げることができました。こうした方法を他の酒蔵や農家に知ってもらうことで、よりサステナブルな業界になっていきましょうというのが、宝酒造の日本酒業界に対する提案です」

大橋MWは「然土(N・end/ねんど)」の味わいについて、「大手酒蔵としての威風堂々たるエレガントなスタイルに、緻密さと一貫性がある辛口」と評価。「然土(N・end/ねんど)」という名称の由来は「Never end」で、醸造的・農業的な改善に毎年チャレンジするという意思を込めています。

大手ナショナルブランドへの認識を変える

大橋MWはセミナーを聴講するソムリエに対し、「『然土(N・end/ねんど)』のリリースをきっかけに、宝酒造をはじめとした大手ナショナルブランドの取り組みを知り、新たな日本酒業界の扉を開いてほしい」と期待を寄せ、講演を締めくくりました。

松竹梅ブランドの新商品「然土(N・end)」

大手酒蔵として、高い品質の商品を安定して供給するだけでなく、サステナブルな取り組みを通して日本酒産業を牽引してきた宝酒造。新商品の「松竹梅白壁蔵 然土(N・end/ねんど)」は、世界のワイン市場でリスペクトを集める大手ワイナリーのように、大手だからこそできる提案を目指しています。

日本酒がワインに匹敵する世界的なお酒となるためには、売り手や飲み手こそが、社会的な貢献度の高い大手ナショナルブランドへの認識を変える必要があります。同氏が大きな期待を寄せる新商品の動向とともに、宝酒造の今後の取り組みに注目していきましょう。

(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)

お酒は20歳を過ぎてから。ストップ飲酒運転。妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。お酒は楽しく適量を。のんだあとはリサイクル。

Sponsored by 宝酒造株式会社