ニューヨークで醸造された「DASSAI BLUE」が日本上陸—数々の苦難を乗り越えて「獺祭」は次のステージへ

日本を代表する日本酒「獺祭」の旭酒造(山口県)が、アメリカのニューヨークに建設した新しい酒蔵「DASSAI BLUE Sake Brewery」。ニューヨークのマンハッタンから2時間ほど北上したハイドパーク市にあります。

現地に移住した同社の会長・桜井博志さんの指揮のもと、2023年5月から、ハドソンバレーの水と日本の山田錦を使用した純米大吟醸酒のみを醸造しています。

同年9月には、ニューヨーク州で「DASSAI BLUE Type 23」「DASSAI BLUE Type 50」の販売をスタートしました。

「DASSAI BLUE」というブランド名は「青は藍より出でて藍よりも青し」ということわざに由来。日本で醸造されるオリジナルの「獺祭」を超えることを目指しています。

そんな「DASSAI BLUE」が、2024年4月23日(火)から、日本国内でも数量限定で販売されることになりました。

発売の前日である4月22日(月)に、各種メディアの関係者を集めたお披露目会が開催され、これまでの苦労やこれからの展望が話されました。その様子をレポートします。

「獺祭」が抱いた、日本酒の未来に対する危機感

お披露目会の冒頭で、旭酒造の社長・桜井一宏さんは、ニューヨークに酒蔵を建設した理由を話しました。

「実際に『なぜニューヨークなのか』という質問を多くいただきました。もっと費用を抑えられる場所のほうが良いのではないかと言われることもあります。ただ、この『DASSAI BLUE Sake Brewery』は、ただ単にコストを抑えるための現地工場ではなく、もっと大きな挑戦として建設したのです」

旭酒造の挑戦とは、アメリカにおける日本酒市場の拡大。日本酒造組合中央会が発表した日本酒の2023年の輸出実績では、アメリカは国別の輸出数量が第1位で、日本酒市場の海外展開にとって重要な存在です。

同じく日本酒造組合中央会が発表した2022年の輸出実績をもとに計算すると、日本酒全体のアメリカへの輸出数量の約16%を「獺祭」が占めています。「獺祭」の輸出は順調に成長し、日本酒の海外展開を牽引する酒蔵になっていることは間違いありません。

しかし、桜井社長は、アメリカの日本酒市場に危機感を抱いています。

「アメリカのアルコール市場における日本酒のシェアは、たったの約0.2%。最近、海外で日本酒が人気というニュースを見るようになりましたが、それでも実際のシェアはこれしかありません」

日本酒のシェアが低い理由について、桜井社長は「日本食のお供としてしか認知されていないから」と話します。

「実際に、私たちの『獺祭』も和食とともに広がっています。ただ、本当の意味で世界に『獺祭』を広めるためには、現地に踏み込んで食文化をいっしょにつくっていかなければなりません。そこで、ニューヨークに酒蔵を建てることを決めました」

アメリカでの酒造りは苦難の連続

そんな想いで、2023年5月に醸造を開始した「DASSAI BLUE Sake Brewery」。日本と環境が違うアメリカでの酒造りは、仕込み水などの原料だけでなく、そこで働く人々の精神性や考え方も異なるため、想像以上に苦戦しているとのこと。

「アメリカ全体で、いわゆるブルーカラーと呼ばれる現場の労働者は下に見られています。ただ、日本酒造りにおいてもっとも大事なのは、製造の現場にいる人々。だから、ブルーカラーがホワイトカラーよりも上にいるような組織でなければなりません」(桜井会長)

酒造りの現場について、「DASSAI BLUE Sake Brewery」の蔵長・三浦さんは、「最初は見ぶり手ぶりでの指導でしたが、最近は少しずつ英語でやりとりできるようになってきました。酒蔵のメンバーとは、うまくコミュニケーションをとれていると思います」と話します。

また、お披露目会の中で流れた動画には、施工業者のミスで雨漏りしている様子や、瓶の栓を締める機械が上手く稼働していない様子など、さまざまな苦難が映し出されていました。CTO(最高技術責任者)を務める松藤さんは、現場での苦労をこのように語ります。

「最初は、私たちが考える“良い設備”とは何かを理解してもらうのが難しく、どうしたらいいかわかりませんでした。蔵内の扉に鍵を付けようと思ったら、チェーンの長さが足りなくて鍵がかからないということもありましたよ」

日本で販売される「DASSAI BLUE Type 23」「DASSAI BLUE Type 50」は、日本産の山田錦をそれぞれ精米歩合23%・精米歩合50%まで磨いた純米大吟醸酒。従来の「獺祭」と飲み比べてみると、華やかで上品な甘味のある香りは大きく変わりませんが、全体的に味わいが軽い印象でした。

松藤さんは「お客様に自信をもって出せる品質ではあるが、まだまだ味が“薄い”ので改良していきたい」と話します。

今回の「DASSAI BLUE Type 23」「DASSAI BLUE Type 50」は日本産の山田錦を使用していますが、将来的にはアメリカ産の山田錦も使用したいと考えているのだとか。アーカンソー州の山田錦を使った仕込みはすでに始めているとのことで、最初は思うようにいかなかったものの、何度か試行錯誤するうちに品質の高いものが造れるようになってきたそうです。

「やるからには、世界一にならなければならない」

「たくさんの失敗がありますし、悔しい思いをすることも多いですよ。ただ、その中で日本の『獺祭』を超えるものを造っていきたい。まだまだ苦戦していますが、これまでの『獺祭』を知っている方にも納得してもらえる品質になりましたので、新しい挑戦のひとつの到達点として、この『DASSAI BLUE』を日本のみなさまにも飲んでいただきたいと思っています」(桜井社長)

「日本からやってきた日本のブランドとして、世界一にならなければならないと思っています。本当に美味しい酒でアメリカの方々をびっくりさせたい。それが私たちの思いです。今はたくさんの苦労がありますが、それらが数年後に笑い話になるようにやっていきたいですね」(桜井会長)

日本国内では、成熟した日本酒ブランドとなっている「獺祭」が、新天地で試行錯誤を繰り返して誕生した「DASSAI BLUE」。桜井社長も桜井会長もその苦労を笑いながら話しますが、誕生の背景には、想像もできないような困難があったに違いありません。

日本酒の未来をつくるために必要な新しい挑戦に、常に先陣を切って取り組んでいく「獺祭」の存在に大きな頼もしさを感じると同時に、今回の国内販売をひとつの通過点として、次のステージに向かってどのように成長していくのか、期待が高まります。

(文:SAKETIMES編集部)

◎商品概要

  • 商品名:DASSAI BLUE Type 23
  • 原料米:山田錦(日本産)
  • 精米歩合:23%
  • アルコール度数:14%
  • 容量:720mL
  • 希望小売価格(日本):10,000円(税抜)
  • 販売場所:日本国内の「獺祭」販売店(一部)
  • 商品名:DASSAI BLUE Type 50
  • 原料米:山田錦(日本産)
  • 精米歩合:50%
  • アルコール度数:14%
  • 容量:720mL
  • 希望小売価格(日本):3,800円(税抜)
  • 販売場所:日本国内の「獺祭」販売店(一部)
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