山形県鶴岡市の酒蔵・奥羽自慢株式会社は、4年前に当時26歳の若手が醸造責任者に抜擢され、「吾有事(わがうじ)」という新銘柄の立ち上げを行うなど、新たなチャレンジが光る酒蔵としても知られています。
そんな奥羽自慢の阿部杜氏と同級生で、同じく山形県で地酒専門店・まるはち酒店を営む4代目・大内さんがタッグを組み、イベントを開催しました。
その内容は、ワインの世界では一般的なブレンド技術「アッサンブラージュ」を、日本酒で、さらに自宅で楽しもうというもの。その名も「第0回 おうちでアッサンブラージュ 〜吾有事をみんなで調合〜」です。
8月8日(土)に開催されたこのイベントの模様についてレポートします。
オンラインイベントで日本酒のブレンドを体験
新名柄「吾有事」で知られる奥羽自慢株式会社は、もともとは佐藤仁左衛門酒造という名前で1724年に創業した歴史ある酒蔵でした。代表銘柄は「奥羽自慢」。昔ながらの酒造りを続けていた同蔵ですが、2010年に経営難と蔵元の病気が重なり、蔵を畳むことも検討したそうです。
しかし、同じく山形県にある楯の川酒造は、自社の蔵人を派遣することで佐藤仁左衛門酒造の酒造りを支援。その後、楯の川酒造へ事業譲渡という形をとり、奥羽自慢株式会社として新たに生まれ変わりました。
今回のイベントは、Web会議システム「Remo」を使ったオンライン開催。画面には、主催者の奥羽自慢・阿部杜氏と、まるはち酒店・大内さんが登場すると、チャットで参加者も盛り上がります。
山形県内だけでなく他県からも参加できること、チャットも併用して盛り上がれるのは、オンラインイベントならではの良さですね。
主催者の自己紹介の後、待ちきれない参加者の想いを組んで早速乾杯です。
事前に参加申込をすると、参加者の手元にはまるはち酒店から4種類の「吾有事」の小瓶と小さなビーカーが送られてきます。参加者それぞれが好みの酒器に4種類のうちのひとつのお酒を注いで、乾杯! 発声と同時に最初のひとくちを楽しみます。
今回のイベント用に用意された4種類の「吾有事」はこちら。
「吾有事 夏辛+10」
精米歩合50%、アルコール度数14度、吾有事で初めて醸された辛口の日本酒です。
パパイヤのような酸味のあるフルーツの香りとキリッとした後味が夏らしく感じられます。イベント限定ラベルには、大内さんの名前から「誠」の文字があしらわれています。
「吾有事 純米吟醸13」
精米歩合55%、アルコール度数13度の低アルコール日本酒です。
2年前に醸したお酒を酒蔵の冷蔵庫で熟成したもので、酸味とお米の甘味をバランス良く感じます。まるはち酒店さんの暖簾がモチーフとなったイベント限定ラベルです。
「吾有事 特別純米」
山形県産の酒米・出羽燦々を精米歩合60%、アルコール度数15度で仕上げた、香りと味わいが穏やかなお酒。
食中酒にピッタリですね。イベント限定ラベルは吾有事の「吾」が使われています。
「吾有事 純米大吟醸 雲の上」
山形産の酒米・出羽燦々を精米歩合55%、アルコール度数13度で仕上げた低アルコール日本酒です。
パイナップルや苺のような華やかな香りが特徴的です。イベント限定ラベルには、阿部杜氏の名前から「龍」の文字があしらわれています。
アッサンブラージュを楽しむための3つのポイント
アッサンブラージュ(Assemblage) とは、「ブレンド、調合、組み立てる」という意味のフランス語です。数種類の品種のぶどうを使ったワイン同士をブレンドするワイン造りの手法を指し、どの品種のワインをどのぐらいの割合で組み合わせるかが造り手の腕のみせどころです。
イベントの主催者である阿部杜氏と大内さんはワインにもくわしく、日本酒ではあまり知られていない「アッサンブラージュ」という手法を「吾有事」で試してもらいたいという想いから今回のイベントが実現しました。
参加者は「日本酒のブレンドはやったことがない!」という方ばかり。みなさん興味津々です。
「先入観に囚われず、やってみよう!」と、阿部杜氏が見本を見せます。アッサンブラージュのポイントは、以下の3つです。
1.少量ずつからチャレンジする。
2.3種類以下をブレンドする。
3.高い位置から酒器に注ぐ。
まずは、最初のポイントから。どんな味になるかわからないのがアッサンブラージュ。まずは10mlずつ少量から比率を変えて混ぜてみることで、お酒をムダにすることなく、自分好みの味わい探しが何度も楽しめるそうです。
続いて、ブレンドするお酒の数は、最初は3種類以下がおすすめです。阿部杜氏がいろいろと試した結果、それぞれのお酒の個性を消さず、バランス良くまとまるのが3種類まで。もちろん、たくさんの種類を混ぜて複雑な味わいを試すこともできますが、初心者は、まず2種類か3種類のお酒をブレンドするのがよいそうです。
最後に注ぎ方について。ブレンドしたお酒はビーカーの中で混ざっているように見えて、完全に混ざりあってはいません。高い位置から酒器へ注ぐことで、お酒同士が空気とともに混ざり合い、香りや味わいにまとまり感が出るそうです。
参加者それぞれが思い思いのブレンドにチャレンジし、好みのアッサンブラージュを探ります。途中、阿部杜氏と大内さんがそれぞれ用意した「推しアッサンブラージュ」の紹介もありました。
阿部杜氏のオススメは「純米吟醸13(ベース 40ml)+夏辛(香り 20ml)」のブレンドです。マスカットのような香り、スッキリ感と酸味がバランス良く、味わいは純米吟醸13由来のしっかり目。ロックでも美味しそうです。
大内さんのオススメは「純米吟醸13(ベース 20ml)+ 雲の上(甘み、香り10ml)+特別純米(酸味、まろやかさ10ml)」のブレンドです。特別純米がバランスをとっていて、雲の上の華やかな香りや甘みがあるのに、長く飲めるような安定感がある味わい。実は間違って混ぜて発見したんだそう。
いずれも同じ日本酒をベースにしているにも関わらず、組み合わせた種類と比率の違いで全く違う味わいに。参加者のみなさんも自宅で同じ配合にチャレンジし、それぞれがアッサンブラージュを満喫しているようでした。
阿部杜氏曰く「できあがったお酒を飲むのはもちろん楽しいけれど、アッサンブラージュは、組み合わせを想像しながら考えるプロセスを楽しめるのもオススメしたい理由です」とのこと。できあがりを想像しながらワクワクできるのは新しい日本酒の楽しみ方ですね。
日本酒にあわせた料理もライブクッキング!
まるはち酒店から送られてきた日本酒には、大内さん考案の山形の桃とプロシュート(もも肉)を使った「ももももサラダ」と、阿部杜氏考案のいぶりがっことクリームチーズを使った「ちーず×ちーず がっこ」のレシピがついていました。どちらも簡単なのにとってもおいしそうです。
オンラインで画面を繋ぎながら、ライブでのおつまみづくりも行われました。あっという間にできあがる様子に、「思ったよりも簡単!」「美味しそう」と参加者からも声が。参加者もおのおのが作ったおつまみの写真をチャットで共有し、さらに盛り上がりながらお酒が進みます。
ライブクッキングのあとは、Remo内に準備された複数のチャットルームへ移動し、阿部杜氏と大内さんと直接コミュニケーションを取ることができました。普段はなかなか質問しにくいことも、少人数のチャットルームだと聞きやすいですね。また、参加者同士も「奥羽自慢」エピソードで盛り上がっていました。
2時間というオンラインイベントはあっという間にお開きの時間。まだまだ話し足りない主催者と参加者のみなさんは、二次会でさらに盛り上がったそうです。アッサンブラージュという体験を通じて、参加者の距離が一気に縮まったのかもしれませんね。
杜氏と酒屋4代目、同級生コンビのチャレンジ
大内さんにイベントを振り返っての感想をうかがいました。
「初めての試みでしたが、とても楽しかったです。実は昨年からこのイベントを計画していたのですが、コロナ禍で開催できず2人でヤキモキしていました。でも、こんな時だからこそ伝えられること、楽しいことができるはずだ!とオンラインでのイベント開催に踏み切りました。
この機会がなかったら会えなかった遠方のお客様からも直接言葉をいただけたり、おつまみなどのライブに合わせて一緒に作ってみたり、一体感があったイベントだと思います。今後はインスタライブなども不定期でやっていきたいと思っています!」
参加者にも、主催者にとっても、学びの多いイベントだったようですね。
みなさんも山形のおいしい日本酒に思いを馳せながら、ご自宅で日本酒のアッサンブラージュを楽しんでみてはいかがでしょうか。今までとは違う、新たな日本酒の魅力を発見できるかもしれません。
(取材・文/spool)