日本酒の味わいは、その銘柄だけでなく、酒器の材質や形によっても大きく変わります。
グラスの違いによって、どのような味わいの変化が生まれるのか。それを体験できる日本酒の試飲販売会が、2021年10月にリーデル名古屋店(愛知県名古屋市)で開催されました。
日本酒を存分に味わうための専用グラス
「RIEDEL(リーデル)」は、創業265年の歴史を誇るオーストリアの名門ワイングラスカンパニー。ワインやスピリッツなど、お酒の特性に合わせたグラスを作り、「飲み物の個性を最も引き出す」と世界中から高い評価を得ています。
そんなリーデル社は日本酒を楽しむための専用グラスを販売しています。
その開発が始まったのは、今から20年以上も前の1997年のこと。金沢の酒蔵・福光屋からの「日本酒のおいしさを正しく伝えるための専用グラスを開発できないだろうか」という依頼がきっかけでした。
その後、複数の酒蔵や日本酒専門家とともに、25回にも及ぶテイスティングのワークショップを経て、2000年に日本酒の味わいをおいしく、そして正しく伝える「大吟醸グラス」が誕生。このグラスは、主に大吟醸や吟醸酒に代表されるフルーティーな香りを持つ日本酒に最適なグラスです。
しかし、日本酒には、様々な味わいがあります。特に純米酒の米のうまみや複雑な味わいを表現するには、「大吟醸グラス」では不向きだったのだそう。
そこで、さらに約8年の歳月をかけ、2018年に誕生したのが「純米グラス」です。縦長で卵型の大吟醸酒グラスと比較すると、形は大ぶりで横長。飲み口の口径も大きくなり、純米酒ならではのふくよかな米のうまみを引き出せる形になっています。
愛知の酒を味わいながら、専用グラスの良さを体験
このように日本酒との関わりが長いリーデル社ですが、複数の酒蔵と一緒に試飲販売会を行うのは初めての試みです。
会場となったリーデル名古屋店には、地元・愛知県の5つの酒蔵(関谷醸造、山盛酒造、山﨑合資会社、金虎酒造、丸石醸造)が集い、ゲストの「2021 Miss SAKEグランプリ」松崎未侑さんとともに日本酒や酒器について、盛り上がりを見せていました。
イベント参加者が試飲に使うのは、リーデル社のステムのないタイプの「大吟醸グラス」。「蔵」と「SAVE THE KURA」の文字が入ったイベント限定の特別モデルです。
「SAVE THE KURA」とは、日本酒の魅力や奥深さを伝えるため、リーデル社が行っている日本酒蔵元応援プロジェクトのこと。リーデル社では、世界へ向けた情報発信や自社製品であるグラスのプロモーションに留まらず、日本全国に点在する日本酒の酒蔵とその地域の活性化や日本酒文化の継承に向けての支援を行っています。
受付を済ませたら、試飲会場へ。会場で多くの方がグラスの効果を実感していたのが、関谷醸造の「HOURAISEN スパークリング」です。
「大吟醸グラス」に注ぐと瓶内二次発酵によるきめ細かい泡が際立ち、見た目にも美しいです。少し口がすぼまったグラスなので、華やかに立ち上る香りを逃がしません。後味のすっきり感は専用グラスならではと感じました。
「普段はワインをよく飲む」という女性がお気に入りだったのは、金虎酒造の「Kotora Citric」。白麹を使って醸した、さわやかな酸味が特徴の低アルコール純米酒です。
日本酒専用のグラスを使うのは初めてのようで、「大吟醸グラスを使って飲んでみると、白ワインのようなスッキリとした香りをより感じました。グラスでいただくと少し酸味がおだやかになって飲みやすいです!」との感想。
リーデルのグラスを愛用しているという丸石醸造の深田さんにお話をうかがうと、「お客様の中には『純米吟醸って何ですか?』と質問が出るくらい、日本酒になじみのない方もいらっしゃいました。それでも、大吟醸グラスを使うことで、日本酒に対するハードルが下がっているように感じます。普段から日本酒を飲む方でも、『グラスの違いでこんなにも味わいが変わるんだ!』と驚く方が多いですね」と、手応えを感じている様子です。
「日本酒に和食を合わせるのは定番ですが、このおしゃれな大吟醸グラスと日本酒に洋食を合わせるのもオススメ。たとえば『純米吟醸 二兎 山田錦55』なら、クラムチャウダーを合わせて楽しめますよ」と、大吟醸グラスに合わせたペアリングの楽しみ方も教えてくれました。
リーデル名古屋店の寺西さんは、この企画のねらいを次のように話します。
「コロナ禍で家飲み需要が進んでいますので、お酒に合った酒器を選ぶことは、自宅での日本酒の楽しみ方を広げてくれると考えています。ただ、グラスや日本酒に詳しくない方にとっては、味わいの変化をイメージしづらく、ハードルの高い選択肢なのかもしれません。
リーデルでは、コロナ禍で販売や製造に影響が出て困っていらっしゃる酒蔵さんの支援として『SAVE THE KURA』という取り組みも進めています。その一環として、酒蔵さんを応援しながらお客様に楽しんでいただける機会を設けたいと考え、今回のイベント開催に至りました。
ご参加いただいたお客様は、リーデルのグラスをご存じで普段はワインを飲まれている方と、リーデルのグラスはあまり使ったことはないけれど参加酒蔵さんの日本酒を愛飲しているという方が半々ぐらいでした。どちらの参加者のみなさんも日本酒専用グラスの魅力に気づいてくださったようです。
専用グラスと日本酒に合わせた料理のペアリングなどについて、酒蔵さんからの解説を直接聞きながら興味深く楽しまれている姿が印象的でした」
酒器が変われば、味わいも変わる
試飲販売会では大吟醸グラスを使いましたが、純米グラスとの違いも気になるところ。イベント後に、グラス違いの飲み比べを試してみました。
用意した日本酒は、山崎合資株式会社の「奥 夢山水十割 十年低温熟成」。年間通して10度以下という低温状態を保ちながら、10年間、瓶内熟成させたというお酒です。イベントに参加していた「2021 Miss SAKE」の松崎さんもイチオシのお酒だとか。
純米グラスに注ぐと、淡いはちみつのような色あいがよくわかります。広い口径のおかげでキャラメルのような香りが穏やかに柔らかく香り、大吟醸グラスに比べて優しい印象です。一口飲むと、お米のうまみをしっかりと感じながら、味わいがじわじわと口の中に広がります。
空気に触れる部分が広いせいか、大吟醸グラスより口当たりがふわっと柔らかく、まろやかで余韻を長く感じました。チョコレートやナッツと一緒に、食後のひと時をゆったりと楽しむのもよさそうです。
大吟醸グラスも、純米グラスも、単なる日本酒専用グラスではなく、それぞれの特性に合わせて作られていることをあらためて実感する体験でした。同じお酒でも酒器を変えて比べられるのが、家飲みならではの楽しみ方です。
グラスを変えると、いつも飲んでいる日本酒の新たな魅力を再発見できるかもしれません。
リーデル社の一部店舗では、グラスの違いによる日本酒の味わいの変化を楽しめるワークショップを定期的に開催しています。みなさんもグラスの形の違いによって、日本酒の味わいが大きく変わることを、ぜひ体験してみてください。
(取材・文:spool/編集:SAKETIMES)