飲食店や酒販店など、日本酒が提供されるシーンでは、多くの「唎酒師」が活躍しています。
唎酒師の資格を取得するためには、日本酒を取り扱う上でのさまざまなスキルや知識、消費者へ向けたサービスなどを専用テキストを用いた講義にて学び、試験に合格することが必要です。それでは、具体的にはどのような内容を学ぶことができるのでしょうか。
今回は、SAKETIMES編集部のスタッフが実際に唎酒師の講習会を体験してきました。
日本酒の魅力を伝え、提供するプロフェッショナル
そもそも、「唎酒師」とはどのような資格なのでしょうか。
唎酒師とは、「日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)」が認定し、「NPO法人FBO(Food & Beverage Specialists Organization)」が公認する資格で、日本酒の魅力を伝え、提供するプロの証です。
お店や個人が独自に行っていたテイスティングの表現やサービスのマナー、アドバイスの仕方などを体系化し、一定のカリキュラムを修めた人たちに資格を与えることで、日本酒の価値を適切に伝えて提供できる人材を育成してきました。
SSIが運営する唎酒師のHPには、「お客さまに日本酒をおいしく飲んでいただくための資格」と書かれていますが、いわば日本酒版のソムリエとも言えます。
当初の取得者は、飲食店や酒販店で働くスタッフが約8割を占めていました。しかし、現在は日本酒関連のイベントの担当者、酒蔵の広報やマーケティングの担当者、そしてビジネスシーンで取引先をもてなす機会のある一般企業の方々など、さまざまな職種の方が取得を目指しています。
1991年に制定されてから、今年で30年を迎える唎酒師。これまでに約45,000人が認定を受け、日本酒を提供する側、伝える側のプロとして、さまざまな分野で活躍しています。
「1日通学コース」を体験!
現在、SSIでは唎酒師を目指すための学習コースとして、オンライン完結型や対面式などを含めた5コースを提供しています。今回参加したのは、FBOアカデミー東京校で開催された「1日通学コース」です。
こちらは、実際に会場で講義を受講し、まる一日かけて試験内容を総ざらいするコース。酒造りやテイスティングなど、4つの講義をそれぞれ専任の講師が担当します。
講師の話を直接聞くことができるため、学習に集中できるほか、テイスティング対策として香りや味わいのサンプルも用意されており、自習では難しい「体験」による知識を身につけることができます。
1時限目
最初の講義は、プロとして行うべき「もてなし」と、食品や酒類全般の基礎知識について。唎酒師に限らず、FBOの公認資格を受験する方には共通の講義です。
講師を務めるのは、FBOの副理事長・日置晴之(ひおき・はるゆき)さん。酒税法やサービス業の社会的責任などについても、ご自身の経験を交えてわかりやすく話してくれました。
日本酒の勉強がメインだと思って受講した方にとっては、サービスの話題から講義が始まったことに驚いたかもしれません。ですが、あらためて唎酒師の役割を理解するのにはぴったりな時間。
お酒によるトラブルの対応や日本酒の保存管理のポイントなど、飲食店が実践しやすい具体的な施策にも触れ、お酒を扱う意識を高めてくれる内容でした。
2時限目
続いての講義は、日本酒の原料と製法、表示の見方について。講師は、FBOの研究室長であり、日本酒に関する多くの著書を持つ長田卓(ながた・たく)さんが務めます。ボリューミーな内容が、約2時間にぎゅっと凝縮されていました。
並行複発酵の原理や酵母の役割、生酛造りの工程など、難しいテーマもていねいに噛み砕いて解説してもらえるため、テキストを読むだけよりも理解度が深まります。また、試験に出やすい重要なポイントについても説明があり、自宅での復習も効率よく行えそうです。
特に印象的だったのが、「私たちが日本酒の製法を学ぶのは杜氏になるためではなく、セールスプロモーションに活かすため」という言葉。
消費者の中には「アルコールが添加されているお酒は悪酔いする」など、間違った知識を持っている方も多いとのこと。「製造工程を理解していれば正しく説明することができ、さらに日本酒を飲んでもらうきっかけにもなる」と、長田さんは話します。
一方で、日本酒の輸送コスト問題などをはじめとする「SDGs」に関係した話も。今後、日本酒に携わる人であれば持っておくべき視点です。まさに、対面ならではの"生の情報"が詰まった講義でした。
3時限目
次は、いよいよテイスティング。担当講師は「一般社団法人 日本のSAKEとWINEを愛する女性の会」代表理事・友田晶子(ともだ・あきこ)さんです。
SSIでは、日本酒の香味特性をわかりやすく伝えるために、日本酒を「薫酒」「爽酒」「醇酒」「熟酒」という4タイプに分類しています。まずは配られたサンプルの香りを嗅いだり味わったりしながら、それぞれの特徴を知り、適切な表現方法について学んでいきます。
個人でテイスティングを練習するのはハードルが高いだけに、4タイプのお酒を比較しつつ、講師から香味のポイントを教えてもらえるのは、特に初心者の方にはうれしい内容です。そして、ここでも重要視されていたのは「伝える」こと。
「テイスティングは、その日本酒が好まれる客層や料理との相性、酒器の選定までを考えるためのアクションであり、味わいを判断することだけが目的ではない」と友田さんは話します。また、劣化するとどんな味や香りになるのか、実際のサンプルに触れることができたのも貴重な体験でした。
「唎酒師は造り手と飲み手の橋渡し」とは友田さんの言葉。そのためにはいかにテイスティングが重要なのか、講義を通して実感しました。
4時限目
最後は、保存管理や提供温度など、サービスに関する講義。4タイプのお酒と料理の相性体験や、飲食店を想定した販売戦略の立案方法なども学びます。
講師を務めるのは、高級ホテル「コンラッド東京」のシニアアウトレットマネージャー・北原康行(きたはら・やすゆき)さん。「第4回世界唎酒師コンクール」の優勝者でもあります。
現役のサービスマンである北原さんのお話は、どれも実体験に基づくものばかり。「唎酒師が提供するのはサービスであり、レジ係になってはいけない」など、ひとつひとつの言葉に現場を知っているからこその重みがあります。
料理とのマリアージュを体験するパートでは、焼き豚やチーズ、羊羹などを4タイプの日本酒と合わせ、それぞれの相性を検証。どのような味わいが料理を引き立てるのか、または相殺してしまうのか。北原さんの説明を聞きながら味わいます。
唎酒師の試験では、お客さんの年齢層や季節を設定し、日本酒の提供プランをまとめるといった問題も出題されるため、料理との相性を知ることは必須。北原さんからは「普段から相性を意識して食事をすることが、自分の引き出しを増やすことにつながる」という心強いアドバイスもありました。
会場には香りのサンプルをはじめ、味覚を確認するための水溶液など、自主トレーニングができる教材の準備も。休憩時間や講習会の終了後にも学びを深めることができました。
受講者にインタビュー
今回の講習会に参加していた方々に、感想を伺いました。
まずは、「通信コース」で申し込んだという林寿美(はやし・すみ)さん。講習会には「通信コース」の特典である「無料スクーリング」を利用して参加したといいます。
「もともと日本酒が好きで、よく試飲会などのイベントにも参加しています。今回の講習会を通じて、さらにお酒に対する意識が高まりました。やはり対面で講義を受けると重要なポイントがよくわかるので、『通信コース』でも無料で講習会に参加できるのはありがたいです。
現在は日本酒に関わる仕事ではありませんが、今後は唎酒師の資格を活かした仕事にも興味があります。楽しくお酒と付き合える人を増やしていきたいですね」
次にお話を伺ったのは、すでに日本酒ナビゲーターの資格を取得しているという居戸優太(いど・ゆうた)さん。さらに本格的に日本酒を勉強してみたいと思い、唎酒師に挑戦したのだそう。
「飲食関係の仕事ではありませんが、自分が飲む上でも参考になるお話が多かったです。特に、大雑把に理解していた造りの工程などの知識を深めることができ、とても有意義な機会でした」
また、寿司店で板前をしているという男性は、「適切に日本酒をご案内できるようになりたいと思い、唎酒師の取得を目指しています。実際にお酒を飲みながらのテイスティングはとても勉強になりました。ぜひ店でも活かしていきたいですね」と話してくれました。
飲食業に携わる人はもちろん、そうでない人でも、日本酒と関わりを深めたいなら、唎酒師の取得は選択肢のひとつとなっているようです。
唎酒師がほかの日本酒資格と異なるのは、徹底して「サービス」を重視している点。造りの工程を知ることもテイスティングも、すべては「消費者にいかに満足してもらえるか」に帰結します。
それは裏を返せば、唎酒師になるための過程には、消費者が知りたい情報が詰まっているということ。提供者の目線から日本酒を学ぶことで、普段の日本酒体験がさらに豊かになるのは間違いありません。
「1日通学コース」の次回の講習会は11月20日(土)に開催予定。もちろん、eラーニングコースや通信コースなどでも資格の取得は可能です。気になった方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
(取材・文:渡部あきこ/編集:SAKETIMES)
◎ 参考リンク
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