2017年、日本ソムリエ協会が認定する日本酒の資格「SAKE DIPLOMA(サケ・ディプロマ)」が発足し、大きく注目されました。

これまで、ワインの世界に深く関わってきた日本ソムリエ協会。どのような経緯・目的で「SAKE DIPLOMA」を発行することになったのでしょうか。日本ソムリエ協会の副会長である君嶋哲至さんに話を伺います。

「SAKE DIPLOMA」ってどんな資格?

「SAKE DIPLOMA」を発行する日本ソムリエ協会は、飲料販売促進研究会として、1969年に発足しました。1982年からソムリエの認定試験をスタートし、ワインを中心にアルコール飲料の普及や啓蒙、販売促進に広く貢献しています。

「横浜君嶋屋」代表の君嶋哲至さん

「SAKE DIPLOMA」は日本酒に特化した認定制度。日本酒の正しい知識を身につけたうえで、サービスを提供するための高い技量が求められる資格です。初めての開催となった昨年度の受験者数は3,513人。1次試験では、日本酒の基礎知識に関するマークシート形式の筆記試験、2次試験では、テイスティングと論文問題が出題されました。今年度からは、コンピューターを使って解答するCBT方式が1次試験に導入される予定です。

昨年度の合格者は1458人。合格率は41.5%という結果でした。受験者は、すでにソムリエなどの資格を持っているソムリエ協会の会員が約半数。他には、酒類の製造や販売、飲食店などのサービス業に従事する人から一般の愛好家まで、さまざまだったようです。

そもそも、ソムリエやワインエキスパートなど、ワインに関する資格を扱ってきた日本ソムリエ協会がなぜ、日本酒の資格を発足させたのでしょうか。

「『ソムリエ=ワインの専門家』というイメージが強いのですが、すべての飲料に関する知識をもち、料理に合わせた最適な提案をするというのが、ソムリエのあるべき姿です。多くの国々でワインが親しまれているため、ワインが中心になっていますが、実際はスピリッツやミネラルウォーターに関しての知識も必要で、飲料のひとつとして日本酒のことも知っている必要があるんです。

2013年に『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、日本酒の需要が拡大しています。しかし、本家本元である日本人のサービス提供者には、日本酒のことをまったく知らない人が多いのが現状です」

現在、日本酒の輸出量は右肩上がりで増加しています。昨年の輸出額は約187億円。8年連続で過去最高額を記録しました。

「SAKE DIPLOMA」が発足した背景として、世界の需要が拡大したことが大きいと、君嶋さんは語ります。

「ニューヨークやロンドンをはじめとする世界の主要都市を中心に、海外の和食店が増え、高い評価を受けるようになりました。フレンチのレストランでも日本酒が提供されるようになるなど、さまざまな料理との相性の良さが認識されるようになってきています。ワインを中心に学んできたソムリエも、日本酒を知らなければならない状況なんです。

2020年の東京オリンピックでは、海外から多くの観光客が来日することが予想されます。日本酒を楽しみにされている方々に対して、幅広い知識とサービスで満足してもらうことが、日本文化の普及と向上につながると考えています」

また、日本酒が多様化していることも要因のひとつだそう。

「貴醸酒や熟成酒、スパークリングなど、多様な日本酒が広まっています。昔に比べて、味わいの幅が広がったため、お寿司や魚と合わせるという従来のイメージが大きく変わってきています。古い知識を更新し、新しい日本酒を知ることも重要ですね」

「SAKE DIPLOMA」をきっかけに日本酒を学ぶことで、新しい日本酒の魅力を発見してほしいという思いがあるようです。

「SAKE DIPLOMA」が目指すもの

「SAKE DIPLOMA」のテキストでは、日本酒の歴史から醸造方法、各生産地の特徴、テイスティングや料理との相性などが詳しく解説されています。

特に、日本酒の原料である米の生産地については、他の項目よりも細かくていねいに紹介されています。ブドウの種類や土壌が重視されるワインを扱ってきた、日本ソムリエ協会らしいテキストになっているのです。

「SAKE DIPLOMA」の教材テキスト

「フランスのボルドーやブルゴーニュのように、酒造好適米である山田錦の生産地・兵庫県でも、明治20年から酒造家と農家の間で『村米制度』が結ばれ、土壌や地形などのテロワールから栽培適地を見極めて、田んぼの格付けをしてきました。このような情報は、ワインに慣れ親しんでいる海外の方にこそ伝わる魅力でしょう。ワインの出来はブドウが決め手になるのと同じように、日本酒においても、原料である米についての知識は必要です」

昨年は、2次試験のテイスティングにおいても、米の種類や酵母についての問題が出題されました。

「品種の違いによって味わいがどう変わるか。日本酒からフルーティーな香りがするのはなぜなのか。テイスティングの過程で知識が身につき、それぞれの違いが認識できるようになっていきます。幅広く日本酒を知ることで、必然的に新しい提案ができるようになっていくのではないでしょうか」

テイスティングにおける外観・香り・味わいなどの表現にはワインのアプローチを採用し、国際的に確立されたテイスティング用語を使用しているのだそう。海外を軸においていることこそ、「SAKE DIPLOMA」の大きな特徴と言えそうです。

グローバルな資格として世界へ広げたい

今年度からは、国際資格として「SAKE DIPLOMA International」がスタートし、英語での受験も行われます。さらに、ヨーロッパで日本酒の教育・普及活動に取り組む「酒ソムリエ協会」と提携し、最上位資格である「Master of Sake」が開講されることも決まっています。

「国内だけで語ってしまっては、視野が狭くなってしまいます。世界の人たちに日本酒を正しく扱ってもらい広めてもらうことが重要です。また、資格をとって終わりではなく、さらに上を目指して学び続けてもらうためにも上位資格が必要だと考えました」

今後は、世界中の教育機関と連携しながら、資格試験を開催できる国を増やしていくそうです。

「受験をきっかけに、少しでも多くの人が日本酒の素晴らしさに気づいて、その魅力を伝えていってもらえたらうれしいです。また、お酒は料理と合わせることで何倍も楽しさが増して、豊かな気持ちになれます。いかに食生活を楽しむかということも大事にしてほしいですね」

日本酒は、世界で親しまれる"SAKE"となる未来への第一歩を踏みだしたところ。「SAKE DIPLOMA」の普及をきっかけに、日本酒の魅力を知る人がひとりでも増えることが期待されています。今年の出願締め切りは、6月29日(金)まで。日本酒に興味のある方は、ぜひ受験してみてはいかがでしょうか。

(文/橋村望)

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