こんにちは。SAKETIMESライターの梅山紗季です。先日「高倉健の映画に見られる日本酒特集【前篇】」という記事を担当し、名優高倉健さんの映画作品を2本ご紹介しました。

そして、記事の最後に読んでくださっている皆様にクイズを出させていただきました。映画「居酒屋兆治」のラストシーンにあった、演出要素とはなんなのか? そして、この演出要素を同じくとても魅力的に反映している、高倉健主演の有名映画作品とはなんでしょうか? そんな問題を、出させていただきました。早速答えを発表するとともに、後編でもたっぷりと、映画の中のお酒の魅力をご紹介してまいりたいと思います!

お酒と名優と共にある、映画の魅力。その答えは……?

 「居酒屋兆治」のラストシーンでは、日本酒を飲みほした後店を後にする主人公の背中から、流れてくる歌があります。

「この街には不似合いな 時代おくれのこの酒場に 今夜もやって来るのは ちょっと疲れた男たち」

こちらは加藤登紀子さんの「時代遅れの酒場」という曲なのですが、なんとここでは「高倉健さんが」この「時代遅れの酒場」を唄っています。映画を観た人にとっては、まるで主人公・兆治が口ずさんでいるかのような印象を受けるこの演出で、ゆっくり映画は終わります。

映画の内容ともあいまって、何とも印象的なラストシーンです。というわけで、クイズの答え、ラストシーンでの魅力的な演出要素は「唄」でした。

 そして、「日本酒」と「唄」という言葉で、皆さんの頭に浮かぶ「唄」はどんなものでしょうか? 1度は耳にしたことがあるであろう有名なお酒の唄が魅力になっている映画作品にして、高倉健さん主演の名作には、こんな1曲が流れます。

 「お酒はぬるめの燗がいい 肴はあぶったイカでいい 女は無口なひとがいい 灯りはぼんやりともりゃいい」

八代亜紀さんの「舟唄」です。この歌詞の味わい深さが感じられる作品であり、クイズのもうひとつの答え、「唄」が映画を構成する要素となっている映画が、1981年公開の「駅 Station」です。

名作と評判の高いこの映画は、三上英次(高倉健)という警官が、妻と離婚し、射撃の腕を買われ職務と向き合った長い年月と、それを終わりにして職を辞そうと考え、故郷へ戻った際に出会った出来事を描いています。北海道が舞台なので、雪の中をゆっくりすべっていく電車と、その間にある駅で交わされる会話とが映し出されます。

決して派手なことはしていないのに、目が離せなくなる。主人公をめぐる人間模様、それぞれの思い、ひとつひとつがとても濃やかに、そして言葉少なに描かれていて、少しの間や、人物たちの動作、音に惹きつけられていく、そんな引力のある作品だと私は思っています。

 

「1杯どう?」と言い合えるあたたかさ

 そして、この「駅 Station」という映画は、とにかく日本酒を飲むシーンが印象的です。日本酒と「舟唄」とが描かれるのは、「1979年12月 桐子」という幕からです。故郷の雄冬に帰ろうとした道中、主人公は「桐子」という店にふらりと入ります。「1杯やってみて?」と笑顔で迎える桐子(倍賞千恵子)。「イカもあるの、食べてって。」と笑う彼女は、英次に熱燗を頼んだのに猪口がないことを指摘されると「コップのが、いいんじゃない?」といたずらっぽく笑います。「ぬるいかなー?」楽しげに注ぐ彼女の姿を見て、英次も同じように「1杯どう?コップのがいいんじゃない。」と返し、彼女のコップに日本酒を注ぎます。この、お互いに「1杯どう?」とたずねあうやりとりが、なんとも微笑ましいのです。そこで、テレビから流れてくるのが、先ほどあった「舟唄」。桐子はテレビまで近寄って、言います。「この歌好きなの、私」。少女のような顔で、テレビに合わせ一緒に歌う姿に、英次は惹かれていきます。

 次に桐子と英次が共にお酒を飲む際、英次の腕に抱かれた桐子の口からは「舟唄」が流れてきます。少し悲しげに歌詞をなぞる彼女を見て、英次はもう1度、彼女のコップに日本酒を、「白雪」を注ぐのですが、この優しさ、言葉にはしない彼のあたたかさと、「白雪」という日本酒の名前、そして北海道の雪に覆われた情景とがあいまって、より日本酒がおいしそうに映えます。

 このあと、「舟唄」はもう1度映画の中で流れます。とても静謐に、そして高倉健さん演じる英次の男の優しさが染みてくる、今までご紹介した2回とは違った形で奏でられる「舟唄」、ぜひ、これを読んでくださっている皆様の耳で、聴いていただきたいと思います。

故郷と友とだるまストーブ―「駅 Station」もうひとつのお酒

 さて、ここまで「舟唄」と日本酒の登場する場面についてご紹介してまいりましたが、「駅 Station」では、もうひとつ、日本酒の登場する場面があります。

それは、英次(高倉健)が、ふるさと・雄冬に帰ったとき、旧友たちと駅舎で酒を酌み交わすシーンです。自身の先行きについての迷い、先に手紙で打ち明けていた英次に対し、周りの友人たちから言葉が来る場面です。

ここにも、「舟唄」の世界が少し反映されていることがわかります。だるまストーブの上にイカを置き、炙って肴にし、狭い机に集まりながら、いくつもの御猪口をかちゃかちゃと言わせ、会話進んでいくからです特に、英次の正面にいた菅原(田中邦衛)が彼に向けて放つ言葉は真摯で、古くからの付き合いがあるゆえの思いやりにあふれています。昔からの友人だからこそ言える言葉の後で、2人が飲んだお酒は、きっと友人の持つあたたかさや、無口な優しさが染み入る味わいだったのではないでしょうか。

このシーンでは、常にだるまストーブがパチパチと燃え、上で炙られたイカのいい匂いが漂ってきそうな中、いくつもの御猪口をかわるがわる口に運ぶ、決して口数の多くない男の姿が描かれています。ふるさとの友と飲む、久しぶりのお酒。道を迷っている主人公にとって、ここで飲むお酒は少し心に灯を点されて、再びこの「駅」から出発していく気力をもらう1杯だったのだと思います。「舟唄」の流れる「桐子」のシーンも必見ですが、個人的には、この短い、それゆえに魅力的なシーンも、ぜひご覧になる際に注目していただきたいです。

名画にはお酒がよく似合う

出会いのあたたかさを知る「あなたへ」、ぐっと男気溢れる「居酒屋兆治」、そして今回ご紹介した、お酒の唄によってぐっとお酒の魅力が増していく「駅 Station」。前回の記事から高倉健さん主演の映画をご紹介して参りましたが、いかがでしたでしょうか。どの作品もオススメなので、ぜひご覧になってみてください。

そして、もしSAKETIMESの編集部と相談が出来たら、「映画と日本酒」という記事を、今後も書いていけたらいいなと思っています。今回は、高倉健さんに絞って特集しましたが、他の名画の中のお酒も、探してみたいと思っています。もし、「こういった映画に目を向けてほしい」といったご意見や、「映画以外のものでも記事になったらいいのに」というご意見ございましたら、FacebookページやSAKETIMESのページから、ご意見を寄せていただけたらと思っています。

今後も、皆様のお酒を味わうときがおいしく、楽しいものになるような記事を提供していけるよう、日々頑張りたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

◎映画「駅 Station」1981年公開

監督……降旗康男/脚本…倉本聰/製作…田中壽一

高倉健/いしだあゆみ/大滝秀治/ 倍賞千恵子/烏丸せつこ/ 田中邦衛

【関連】 高倉健の映画に見られる日本酒特集【前篇】

 

日本酒の魅力を、すべての人へ – SAKETIMES