「このお酒はこの酵母を使っているから」とか、「日本酒度や酸度がこの数値だから」とか、日本酒の味わいは、そのようなスペックだけで決まるものではありません。

広島の地酒専門店「酒商山田」が手がける「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」は、その土地の風土や造り手の哲学が表現されたお酒を、飲み手が自らの感性でもって楽しむことを目指した商品シリーズです。

デザイナーによる印象的なラベルで、見た目も気を引くこの「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」について、仕掛け人である「酒商山田」の平田智久さんに話をうかがいました。

日本酒を感性で楽しんで欲しい

コンセプト・ワーカーズ・セレクション
─ 「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」について教えてください。

「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」は、2016年11月に誕生したオリジナル商品のシリーズで、現在、全国の21蔵から約60種類のお酒を年間でリリースしています。シリーズ商品は、この取り組みに賛同する全国約90店の「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」加盟酒販店で購入することができます。

商品開発で大事なのは、「頭で飲むのではなく、感性でお酒を楽しんで欲しい」という想いです。

「農=農家・農業」「造=造り・造り手」「美=デザイン・芸術」の3つの観点から日本酒を再考察して、「こんな商品があったらもっと面白いのにな」という素直な気持ちを、ひとつの商品としてカタチにしています。

酒商山田
─ 企画立ち上げのきっかけを教えてください。

もともとは「酒商山田」で卸売業免許を取得したことがきっかけでした。せっかく取得できた卸売業免許を、既存の商品の流通のためだけに使うのではなく、取引先の蔵にとって意義のあることに使いたいと思ったのがはじまりです。

おいしいお酒を造っているものの、全国的にはまだ知名度が高くない蔵を、「農」「造」「美」の観点で深ぼると同時に、その蔵の「人」たちが活き活きと造れるお酒を商品化し、全国の加盟酒販店を通じ提供しています。

「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」のオリジナル商品を通じて酒蔵や銘柄を知ってもらい、酒蔵のレギュラー商品にも興味を持ってもらうことを心がけています。

─ 商品企画で大切にしていることは何でしょうか。
コンセプト・ワーカーズ・セレクション感性で飲んでもらう酒を造るために、今までも、これからも「遊び心」を追求していきたいと考えています。

一般的な酒蔵の商品ラインナップは、「純米酒」や「大吟醸酒」などの定番の特定名称酒や、「新酒」や「ひやおろし」などの季節限定酒で構成されることが多いのですが、「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」のお酒は、そのどちらにも該当させる必要はありません。

そのため、「純粋に造りたいお酒」「ワクワクするお酒」「ニーズを満たすお酒」にチャレンジすることができます。酒蔵にとって定番のお酒を毎年変えることは難しいですが、「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」では、造りたいお酒に積極的にチャレンジして欲しいと考えています。

─ 販売面で大切にしていることはありますか。

数多く営業に回って扱ってもらうのではなく、魅力的な商品を造り、酒屋さんから「売りたい」と思ってもらえる商品づくりを心がけています。

そのためには、酒屋さんが消費者に伝えるために必要な情報がしっかりと揃っていることが大事です。銘柄ごとのコンセプトや製造の背景がわかる資料を用意したり、少量の発注でも全商品に試飲ボトルをつけたり、消費者へ提供する前に、まず酒屋自身がしっかりとお酒に向き合える状況を整えています。

ある加盟店の酒屋さんからは「お酒ごとに最適なタイミングを吟味して出荷してくれるので、安心して仕入れることができる」との声もいただきました。

酒蔵が本当に造りたい酒を造り、「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」が責任を持って感性に訴求する商品に仕上げ、そして、その魅力を体感した酒屋さんが楽しく売り伝え、飲み手が感性で楽しむ。この好循環が「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」の目指すところです。

─ シリーズのなかで、特に思い入れがあるお酒はありますか。

コンセプト・ワーカーズ・セレクション

ひとつを選ぶのは難しいのですが、山口県・山縣本店の「山縣(やまがた)」は特におすすめしたい銘柄です。

このお酒を醸造する山縣本店は、かつては1万石の酒を造っていた酒蔵ですが、現在はリキュールも含めても600石ほど。社長の娘である美佐子さんと、美佐子さんの旦那さんで杜氏でもある小笠原さんの若い夫婦が中心になって、魂を込めてお酒を醸しています。

お酒もおいしく、造り手の人柄もいいのですが、商品化などでやや不器用なところがあり、何とか力になれないかと考え生まれたのが、蔵の名前を冠した「山縣」です。

コンセプトは「熟成冷酒をアートラベルとともに楽しむ」。ラベルデザインは、大阪芸術大学短期大学部に所属する学生の作品で、毎年授業の一環として「山縣」のラベルをデザインしてもらっています。熟成冷酒とアートのお酒「山縣」を、ぜひ楽しんでいただけたらうれしいですね。

酒蔵とワイナリーの出会いが新たな味わいを生む

「酒商山田」では、「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」と同様に、日本酒の新しい魅力を目指すブランド「FUSION」も展開しています。

FUSION

2020年8月より始まった「FUSION」は、日本のワイナリーで活躍したワイン樽を酒蔵に送り、そこに日本酒を詰めて熟成させたシリーズで「酒蔵×ワイナリー」の組み合わせで商品化。酒質や樽の種類といった組み合わせは無数に考えられ、その数だけ味わいも色あいも大きく変わります。

これまでに19商品がリリースされ、「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」加盟酒販店を通して販売されています。

樽熟成の日本酒は他にも商品化されていますが、 「FUSION」では、日本の醸造メーカー同士のコラボから生まれる未知の味わいにこだわっています。このシリーズは単にオーク樽の風味が加わるだけでなく、そのワイナリーで詰められたワインの風味も加わるのが醍醐味です。

ワイン樽の容量は約200リットル前後のため、720ml瓶に詰めると、ひとつのワイン樽から1アイテム300本前後が造られる計算です。生産本数が少なく、二度と同じものは造れないという儚さもあり、まさに「一期一会の酒」といえるでしょう。

心を動かす感動の酒を目指して

辞書で「感性」の対義語を調べると「理性」という言葉がでてきます。「理性」が頭脳の動きであるのに対し、「感性」は心の動き。そう考えると、「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」は、「心を動かす酒の感動」を目指した酒ともいえるかもしれません。

日本酒の新しい楽しみ方を切り開く、これからの「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」の取り組みから目を話せません。

(文:小林健太/編集:SAKETIMES)

◎「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」お問合せ先

  • 株式会社 酒商山田
    (コンセプト・ワーカーズ・セレクション担当:平田)
  • TEL:082-251-1013(受付時間:平日10:00~19:00、土日・祝日は除く)
  • ホームページ:あり
  • Facebookページ:あり
  • Instagramページ:あり

◎加盟酒販店

  • 酒商山田までお問合せください。最寄りの酒販店を紹介します。

◎「コンセプト・ワーカーズ・セレクション」商品リスト

  • 「萩の鶴 Rシリーズ」(萩野酒造/宮城県)
  • 「天明 MITSUGO」(曙酒造/福島県)
  • 「来福 くだもの」(来福酒造(茨城県)
  • 「十六代九郎右衛門 還-MEGURU-」(湯川酒造店/長野県)
  • 「遊穂 年輪-NENRIN-」(御祖酒造/石川県)
  • 「百十郎 歌舞伎-KABUKI-」(林本店/岐阜県)
  • 「小左衛門 Dessin」(中島醸造/岐阜県)
  • 「奥 THE MOON」(山﨑合資会社/愛知県)
  • 「萩乃露 風-Kaze-」(福井弥平商店/滋賀県)
  • 「大倉 源流-GENRYU-」(大倉本家/奈良県)
  • 「燦然 きらめき燦然」(菊池酒造/岡山県)
  • 「大典白菊 サンライズ」(白菊酒造/岡山県)
  • 「亀齢 Check」(亀齢酒造/広島県)
  • 「華鳩 味覚音-MIKAKUON-」(榎酒造/広島県)
  • 「西條鶴 鶴-TSURU-」(西條鶴醸造/広島県)
  • 「山縣 Art Label」(山縣本店/山口県)
  • 「原田 オーダーメイド」(はつもみぢ/山口県)
  • 「豊能梅 G×A、S×A」(高木酒造/高知県)
  • 「土佐しらぎく ナチュール」(仙頭酒造場/高知県)
  • 「FLOR(フロール)」(小正醸造/鹿児島県)※焼酎
  • 「白露垂珠 THE白露垂珠」(竹の露合資会社/山形県)
  • 「一代弥山 PEAR365」(中国醸造/広島県)

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