豊臣秀吉も求めた能登の美酒
これまで紹介してきた老舗蔵の中でも、最古の歴史を持つ酒蔵です。創業は16世紀末の安土桃山時代と言われていますが、室町時代以前には白山宮の御神酒を造っていたという記録もあります。霊峰白山の雪解け水が源流となる手取川を仕込み水に醸す美酒は、古来より「加賀の菊酒」として重宝され、豊臣秀吉の花見酒として献上されたとも言われています。
歴史から何から、能登を代表する地酒蔵と言えるでしょう。
農口杜氏の「山廃仕込」で名を馳せる
戦後、菊姫が一躍名を馳せたのは何と言っても「山廃仕込」でした。昭和36年(1961年)から同蔵の杜氏として、能登の名杜氏・農口尚彦さんが良酒を醸し続け、昭和53年(1978年)、日本酒業界で初の「山廃仕込」を表示した純米酒を世に送り出しました。
その琥珀色の姿や、当時の良い酒のセオリーとは真逆を行く熟成と酸を生かしたフルボディの味わいは、業界や消費者に衝撃を与えました。その翌年には「山廃吟醸」を発売し、賛否両論を巻き起こしながら、現在では山廃仕込みは蔵の代表酒となりました。昨今の純米酒や生酛系酒の人気の先駆けとなった名作と言えると思います。
また、菊姫がこだわるのは酒米です。純米酒から大吟醸まで、すべて兵庫県吉川町特A地区産の特上山田錦を使用しています。今回紹介の先一杯も全量山田錦を使用しています。
菊姫ではもっとも優しい味わい
菊姫の各銘柄は熟成されて世に出され、味わいは濃醇旨口ですが、先一杯はその中で非常に軽く呑み易い味わいです。軽いというか、山田錦らしい丸いふくらみと米の旨みを感じながらも、まろやかな味わい。
一切引っかかることなく、喉をスッと通り過ぎていきます。落ち着いたホッとする味わいで、お燗にするといくらでも杯が進みそうです。繊細な加賀料理など、和食には幅広く合わせることができると思います。
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