土佐辛口酒の代表で歴代首相も愛飲

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土佐の辛口酒といえば、昭和時代の左党にも定番で、新潟の淡麗辛口酒とともに当時の吟醸酒ブームを引っ張る存在でした。「司牡丹」も、人気を呼んだ土佐酒のひとつ。

司牡丹酒造の創業はなんと慶長8年(1603年)。関ヶ原の合戦で戦功を立てた山内一豊に伴って、土佐に入国した筆頭家老・深尾和泉守重良につき従って佐川の地に入った商家に酒造りを行う「御酒屋」がいました。彼らが司牡丹の前身となったそうです。大正7年(1918年)に同地の酒造屋が合併して株式会社を設立。佐川出身の維新の志士で宮内大臣・田中光顕に「司牡丹」と名付けられました。その後、浜口雄幸や吉田茂など、戦前戦後の首相や、文化・芸能人の愛飲酒としてもその名を知らしめています。

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あの坂本龍馬も呑んだ?司牡丹

同蔵には「船中八策」という有名銘柄がありますが、これは坂本龍馬が確立した明治維新の大綱と同名。幕末の主役となった坂本龍馬ともゆかりが深いようです。司牡丹の竹村家は「黒金屋」の屋号で酒造りを行っていましたが、坂本龍馬の本家「才谷屋」とも交流があり、さらに竹村本家には坂本龍馬が甥に当てた手紙も所蔵され代々受け継がれています。佐川町は維新の志士を数多く輩出し、脱藩の道でもあったそうです。司馬遼太郎の名著「竜馬がゆく」にも、龍馬が呑んだ酒として登場しています(当時・司牡丹の名前はない)。

なにも「構わぬ」まま、大自然にゆだねた酒

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ラベルの「かまわぬ」とは日本の伝統紋様の判じ物のひとつで、元禄年間に流行したそう。人工的な添加を一切使わない山廃仕込みで、なにも「構わぬ」まま、大自然にゆだねた酒の意味で名づけられています。使用した酒米も「永田農法」という永田照喜治氏が考案した、無農薬米。水や肥料も極力与えず植物本来の力を引き出し、環境にも負荷を与えない栽培法で育成した、高知県産の「山田錦」です。同蔵は平成8年から永田農法に取り組んでいます。すべて自然仕込み、また、同蔵によると土佐酒唯一の山廃仕込みだとのこと。

香りは乳酸発酵系の穀物香。口に含むと腰の強い米の旨みと乳酸系の酸味、そして山廃でも土佐酒らしい引き締まった味わいで辛みも感じます。ゴツゴツした感じはなく切れ味は上々。お燗にするとやはり真価を発揮します。冷やでは眠っていた米の旨みやふくらみ、複雑味が顔を出し、シャープさとフルボディ感が相まったバランスの良い味わいになります。トラディショナルな山廃という印象ですが、上品さも内包されていて飲みにくさはありません。この腰の強さは肉料理に合うでしょう。甘口の牛すき焼きは最高かもしれません。土佐酒らしい辛さとキレもあるので、肉以外にも土佐名物の皿鉢料理やカツオのたたき、酒盗などにも合うと思います。しっかりした造りなので、2年、3年と常温で熟成させるとより味が乗ってくるでしょう。

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