2019年にフランスに子会社を立ち上げ、パリ近郊に設立した醸造所「KURA GRAND PARIS(クラ グラン パリ)」で現地醸造を始めたWAKAZE。そこで造られるのはフランス・カマルグ産の米とミネラル分の多いフランスの硬水を使った“100%フランス産のSAKE”ということで、大きな注目を集めています。

「WAKAZE PARIS」のタップからグラスに注ぐSAKE

フランスで3期目のSAKE造りを迎えたWAKAZEは、2022年5月20日に待望の直営レストラン「WAKAZE PARIS」をオープン。居酒屋スタイルのこの店舗の最大の特徴は、しぼりたてのフレッシュな生酒を飲めることです。

醸造所発足当初から直営レストランのオープンを思い描いていたという稲川琢磨社長に、お話をうかがいました。

現地醸造のフレッシュな生酒を提供

「WAKAZE PARIS」の外観

直営レストラン「WAKAZE PARIS」は、フランス・パリ5区、観光客で賑わうサン・ミッシェルエリアの喧騒から離れた静かなパルシュミヌリー通りにあります。

存在感のある黒塗りのファサードの店頭には、小さな看板とメニューのみ。控えめな袖看板にはWAKZEのキャラクター「ペコ」のイラストが描かれています。通りを歩く人々も、「一体、何の店だろう?」と立ち止まってメニューや店内を覗いていきます。

「WAKAZE PARIS」の看板

プレスや招待客のみを招いたプレオープン当日。黒い作務衣で接客していた稲川社長は、この情報量を絞った仕掛けを「エニグマ(謎や暗号という意味)」と表現します。

「このお店は、ブランドの奥行きを深める機能を求めて設計しています。ここで新しいWAKAZEの一面を見せていきたいです」

「WAKAZE PARIS」に飾られているボトル

壁面には、WAKAZEがこれまで造ってきたSAKEのボトルがずらりと並び、このお店の主役が「SAKE」であることを主張しています。石造りのカーヴ(地下にあるワインの保管庫)のような雰囲気ですが、天井には酒蔵のような黒く塗られた太い梁もあり、フランスと日本の文化が融合したモダンな空間です。

店内は、決して広くはないですが、“日本酒を世界酒へ”という同社の夢を実現するための仕掛けがいくつもありました。

このお店の注目ポイントは、タップから注がれるフレッシュな生酒です。これはパリ近郊の醸造所で現地醸造を行うWAKAZEだから実現できたこと。加熱処理をしていないSAKEを飲めるお店は、ヨーロッパにはほとんどありません。

「WAKAZE PARIS」で提供しているSAKEのラインナップ

定番の「THE CLASSIC」とワイン樽熟成の「THE BARREL」、「YUZU」と季節ごとのSAKEの四種類を提供(写真提供:WAKAZE)

「醸造から販売まで一貫して行う造り酒屋の強みを活かし、『SAKEを飲むなら、WAKAZE PARISで』というブランドイメージをこの1年以内に醸成していきます。パリは、ヨーロッパのSAKE文化の中心地といえる場所。このお店が成長することによって、ヨーロッパ全体のSAKE文化のレベルがひとつ上がるはずです。この生酒には、それくらいのポテンシャルがあると思います」と、稲川社長は話します。

「豆腐の塩麹マリネ」と「野菜の煮浸し」

「豆腐の塩麹マリネ」(5ユーロ)と「揚げ野菜の煮浸し」(6ユーロ)を「THE CLASSIC」に合わせて

SAKEに合わせる料理は、「豆腐の塩麹マリネ」「揚げ野菜の煮浸し」「しめ鯖」など、フランスの食材を使った日本食の数々。SAKEの醸造に使用している麹や、醸造過程でとれる酒粕も料理に用いる、発酵料理です。

他にも「醤油麹角煮と煮卵」「塩麹唐揚げ」「ローストビーフ」「酒粕ベジカレー」などのメイン料理に、「酒粕大福」や「マンゴー羹」などのデザートも用意されています。

「炙りしめ鯖」

「しめ鯖」(10ユーロ)には、人気の「YUZU」生酒と一緒に

料理はどれも10~15ユーロ前後で、SAKEを飲みながら二人でペアリングを楽しむのにちょうど良い価格とボリュームです。日本の居酒屋と同じように、ひとつの料理をシェアして楽しむお客さんがほとんどでした。

カップルで来店していたお客さんにお話を聞いてみました。旅行で日本を訪れたこともあり、SAKEはもちろん、日本料理の大ファンなのだそう。

「SAKEを飲んだこともあるし、日本食も大好きですが、必ずしも日本の料理やSAKEについて、十分な知識を持っているわけではありません。パリにも居酒屋スタイルのレストランはいくつかありますが、料理のクオリティやSAKEの組み合わせの提案などはいまひとつでした。その点、『WAKAZE PARIS』では、SAKEも日本食も楽しみながら学ぶことができますね。料理との相性も完璧です!」

SAKEのストーリーを伝えるためのカウンター席

「WAKAZE PARIS」で楽しむお客さんたち

プレオープンでお客さんと話すスタッフ

「WAKAZE PARIS」の店の中央には、15席の大きなU字のカウンター席があり、SAKEを通して自然と会話が生まれるという仕組みです。

稲川社長は、最初の計画段階で客席の多いテーブル席を想定していましたが、店舗責任者の田辺さんに意見を求めると、現行のカウンター席案を推したそうです。

東京・三軒茶屋の直営レストラン勤務時代に、テーブル席スタイルの「Whim SAKE&TAPAS」とリニューアル後のカウンター席スタイルの「WAKAZE TOKYO」の両方を経験したという田辺さんは、「スタッフとお客さんとの距離が近いカウンター席は、料理とそれに合うSAKEの説明がしやすいんです」と話します。

「『Whim SAKE&TAPAS』では、SAKEや料理について十分に伝えきれていない歯痒さがありましたが、改装してカウンター席にしたことでお客様とのコミュニケーションの量と質が格段に濃くなったんです。WAKAZEのSAKEは、ストーリーを伝えることでより楽しんでいただけるので、絶対にカウンター席がいいと思いました」(田辺さん)

「WAKAZE PARIS」で楽しむお客さんたち

知人と話す稲川社長。プレオープンにはビジネス関係者やインフルエンサーなど多様な客層が来店。

稲川社長も、田辺さんの提案を受けて、納得したといいます。

「席数だけで考えたら、テーブル席のほうがよいのは明らかです。でも、WAKAZEのSAKEを多くの人たちに飲んでいただくことだけであれば、イベントへの出店などでも十分。それよりも、じっくりとSAKEを味わう時間、食事を楽しむ時間、ここに居合わせたお客様同士やスタッフとの語らいの時間が、今後のWAKAZEにとって、とても意味のある価値になると思いました。SAKEや日本の文化について語ってもらう濃厚な体験を通して、WAKAZEにより愛着を持ってもらえればと思います」

SAKEカルチャーをフランスから世界へ

「WAKAZE PARIS」の設計を含め、WAKAZEのブランディングについては、「フランスでビジネスを行なっているからこそ、学ぶことが多い」と、稲川社長は話します。

たとえば、2022年5月には、フランス国家最優秀職人のショコラティエで彫刻家でもあるパトリック・ロジェ氏とのコラボレーションイベントを行い、大きな刺激を受けたのだそう。

「彼は考え方が完全にアーティスト。アートの考え方を、店舗や商品など自身のブランドに落としこんでいます。主張しすぎず、ミステリアスさを残しているけど、適切な情報も発信している。フランスで一流のエスプリに触れられるのは、本当にありがたいことです」

また、稲川社長は、2022年1月から世界最大のスタートアップキャンパス「STATION F」の起業家プログラムに日本人起業家で初めて選出され、世界の起業家たちと寝食をともにしています。

「プログラムに参加して圧倒的に情報の量が変化しました。彼らから見習うのは、“根拠なき自信”。製品もプロトタイプすらできていない状態で、『これで世界一になる』と言ってきます。まだ何の実績もないのに良い意味の図々しさがあり、周りもそれを受け入れる土壌があり、投資もそこに集まってくる。視野も常に世界基準で、起業してフランス国内に留まっている人は、まずいません。半年でヨーロッパへ、来年はアメリカへ進出とスピード感がとても早いんです」

フランスでの活動が4年目となるいま、WAKAZEというブランドをどう深めて、どのようにヨーロッパで伝えていくのか。これは稲川社長にとっても、大きなチャレンジだと言います。

「WAKAZE PARIS」の外観

オープン後の店内はシックなバーのような雰囲気

すでにヨーロッパを中心に11ヵ国に輸出を行っているWAKAZEは、2022年6月に、さらに3ヵ国への輸出も決まり、グローバルブランドとして急速に成長しています。また、フランスで行われた日本酒の品評会「Kura Master 2022」では、同社の「THE CLASSIC」が、海外醸造酒で唯一のプラチナ賞を純米酒部門で受賞しました。

グローバルブランドとして急速に成長するWAKAZE。直営レストラン「WAKAZE PARIS」のオープンを機に、新しいフェーズに入ったといえるでしょう。勢いに乗るWAKAZEが、フランス・パリから世界に向けてSAKEカルチャーの熱を送り出しています。

(取材・文:TK/編集:SAKETIMES)

※ トップ画像提供:WAKAZE

編集部のおすすめ記事