SAKE DAYの様子
SAKE DAYの様子

国外最大規模のSAKEイベントがついに再開!―アメリカ・サンフランシスコで2年ぶりに開催された「SAKE DAY '21」

2021年9月25日、米カリフォルニア州サンフランシスコの「ホテル・カブキ」にて、日本国外最大の一般向けSAKEイベント「SAKE DAY ‘21」が開催されました。

10月1日の「日本酒の日」を祝うため、2006年から毎年行われていましたが、記念すべき15回目を迎えるはずだった2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響であえなく中止。2年ぶりの開催です。

主宰のサンフランシスコの酒販店「True Sake」は、どのような想いで開催にあたり、パンデミック下でのイベントを成功させたのでしょうか。同店オーナーのボー・ティムケンさんと、マネージャーでありイベントのディレクターを務めるメイ・ホさんに「SAKE DAY」への想いを聞きしました。

2006年から始まったSAKE DAYの歴史

初代「酒サムライ」としても知られるボー・ティムケンさんが、2003年に米カリフォルニア州・サンフランシスコでオープンした日本酒・SAKE専門店「True Sake」。サンフランシスコのSAKEファンたちと10月1日の「日本酒の日」をお祝いする同店主催のイベント「SAKE DAY」の歴史は、2006年に始まりました。

「当初は、米粒をロゴのデザインに使っていたのですが、SAKEに興味がない人にとってはあまり魅力的ではないんですよね。さらに、当時の日本酒・SAKE業界は男性主導。マニアや男性だけをターゲットとするのではなく、より多くの人を巻き込みたいと思い、女性の瞳をあしらった現在のようなデザインが生まれました」(ボー)

そんな思惑もあり、第1回は会議室で行われ、参加者はたったの75名だった「SAKE DAY」は、第14回となる2019年には、ホテルの大ホールを3部屋も貸し切り、全米から約1,100名もの人が集まる巨大イベントへと成長しました。一般向けのSAKEイベントとしては、日本国外で最大規模の動員数を誇ります。

人気の理由は、アメリカでまだ流通していない商品を含め、300種類近い日本酒やSAKEをテイスティングできること。アメリカ国内のローカル酒蔵やディストリビューター(卸売業者)が出店するほか、日本からも蔵元が参加して、造り手と飲み手が直接コミュニケーションできるのが魅力です。なお、チケットの売上は、在米日本人コミュニティの非営利団体にすべて寄付されます。

そんな「SAKE DAY」ですが、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、中止を余儀なくされました。当時、ボーさんはSAKETIMESのインタビューに対し、「『SAKE DAY』はアフター・コロナの未来への出発点としたかったんです。不安を抱える業界の人々に、希望を提供したかった。人々が出会い、新しい動きが生まれ、成長していくチャンスにあふれている。開催できなかったことを悔しく思っています」と心情を明かしています。

2019年のSAKE DAYの様子

2019年の「SAKE DAY」の様子

それから1年経った2021年9月25日。ワクチン接種率の上昇と、サンフランシスコの感染状況の改善を受け、「SAKE DAY」は2年ぶりに開催することができました。

SAKE業界の市場を支えるために

2020年の中止について、ボーさんは改めて「私たちにとって、『SAKE DAY』を中止することは、家族の集まりを中止するも同然のこと。このイベントを愛するゲストのみなさんは、True Sakeにとっての家族なんです」と語ります。

「サンフランシスコはカリフォルニア州の中でも感染症対策を徹底しており、10万人あたりの感染者数が10人を切るほどで、入院者数はごくわずかです。今日も明日も、サンフランシスコの劇場ではミュージカルやシンフォニーが行われており、何千人もの人々が参加しています。『SAKE DAY』はより小規模なイベントですから、市のルールには100%則っているんです」

True Sakeオーナーのボー・ティムケンさん(左)、マネージャーのメイ・ホさん(右)

True Sakeのオーナーのボー・ティムケンさん(左)、マネージャーのメイ・ホさん(右)

ボーさんは、「True Sakeのためだけのイベントだったら、万一の安全を期して開催しなかったかもしれない」と話します。それでも開催を踏み切った理由については、「私たちには義務があるんです」と強く語りました。

「私たちには、日本酒・SAKE業界の市場と、それに関わるすべての企業、すべての人たちを支え、プロモーションするという義務があります。『SAKE DAY』を開催するかどうかは私たちTrue Sakeだけの問題ではありません。『SAKE DAY』の基本理念は、日本酒・SAKE市場のために手を取り合うということ。True Sakeは、そのリーダー的な役割を担っているんです」

イベントのディレクターを務めるメイさんは、今回の開催にともない、たくさんの人々から喜びの声を受けたと教えてくれました。

撮影:Ken Ko

「今年チケットを購入してくれたお客さんのほとんどは、昨年も参加しようとしてくれた人たちでした。コロナ禍で多くのイベントが中止になったので、こうした機会が訪れたことにワクワクしているみたいでしたね。お客さんだけではなく、ベンダーとして参加する事業者からもたくさんのポジティブなフィードバックを受けました」

日本では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を受け、飲食店での酒類提供が規制され、大きなイベントを開催することができていなかったころ。多くの人が先行きに不安を抱える中での開催は、業界全体にとっての希望になりました。

徹底した感染症対策

現在のサンフランシスコでは多くの屋内イベントが開催されていますが、的確な感染症対策が必要です。イベントを安全に開催するために、2人は毎日話し合いながら、すべての参加者を守るために試行錯誤を重ねたといいます。

「『SAKE DAY』では毎年入口でウェルカム・サケを樽からサーブしていたんですが、今年はあらかじめお酒を注いだカップを配布するやり方に変更しました。そのほか、例年はそれぞれのテーブルの前にお客さんがランダムに集まっていましたが、お互いが安全を感じられるよう、列を作るようにしました」(ボー)

撮影:Ken Koさん

撮影:Ken Ko

「会場のスペースを確保するため、チケットの販売上限は2019年の1,100枚から700枚に減らしました。参加事業者も、75社から45社に変更しました」(メイ)

テーブル数を減らした関係で、招待することができなかった事業者もいたそうです。全米でクラフト蔵による酒造りが勃興しているのを受け、州外の造り手を招く企画もありましたが、諦めざるをえなかったと言います。

「コロナ禍でなければ、彼らが一堂に会するようなイベントにしたかったんです。それが業界の成長を促すと思っていましたから。今回は実現できませんでしたが、いつか、アメリカのクラフトSAKEにとってのスーパーボウルのようなイベントにできればと思っています」(ボー)

撮影:Ken Ko

撮影:Ken Ko

会場に集まる人々は、ベンダーやスタッフはもちろんのこと、すべてのボランティアと参加者がワクチン接種の証明書を提示する必要があります。酒瓶にはスパウト(注ぎ口)が付けられ、お客さんのカップと接触してしまった場合は取り替えます。各ベンダーには、マスクの着用が義務付けられるほか、会場のいたるところに手指消毒用のサニタイザー・ステーションを設置しました。

誰もが待ち望んだSAKE DAYの開催

開催当日となった9月25日、サンフランシスコのジャパンタウンにあるホテル・カブキには、この日を心待ちにしていたSAKEファンたちが集結しました。事前にチケットの返金を求めたのはひとりだけで、当日の参加率は90パーセント以上という快挙です。

毎年参加しているという常連客のケン・コウさんは、「例年と違って、列を作ってお酒を注いでもらう順番を待たなければならないため、飲みたいお酒をすべて飲めないのが残念でした。でも、それ以外はすべてスムーズでしたし、スタッフの人たちは安全のために本当に力を入れていました」と話します。

ベンダーとして参加したディストリビューターのジェシー・プガシュさんも、「いつもと違ってマスクをしなきゃいけなかったし、定員も若干減っていましたが、素晴らしかったです」と太鼓判を押します。

「たくさんのSAKEファンや業界の仲間たちと再会できたことが純粋にうれしかったです。1年半のあいだ、お互いに寂しい想いをしていましたし、こういうイベントはみんなにとって必要だったんだと思います」

撮影:Ken Ko

撮影:Ken Ko

米カリフォルニア州・オークランドの醸造所Den Sakeの迫義弘さんは、「ひとりずつ呼ばれた人からテーブルに来られる方式だったので、お客さんがブースに群がることはありませんでしたし、酔っぱらってしまうような人も見かけませんでした。例年よりは若干こじんまりとしていましたが、よりオーガナイズされてたように思います。いつものことですが、全米から来るSAKE業界の友人たちと再会して話ができることがうれしかったですね」とメッセージを寄せてくれました。

「与えられた状況の中で、市や郡から求められた安全衛生対策以上のことができたと思っています。ホテルのスタッフ、True Sakeのスタッフ、そしてボランティアのみなさんが本当にしっかりと働いてくれました。

お客さんからも、ベンダーの方々からも、お褒めの言葉を際限なくいただきました。『業界を盛り上げてくれてありがとう』『このイベントを求めていた』『屋内で安全にイベントができることを世界に示してくれてありがとう』という声がほとんどでした」と、メイさんは当日の様子を振り返ります。

ボーさんは、「テイスティングをしているお客さんたちから、解放感を感じました。SAKEに飢えていたんだなと思わされるほどの勢いでしたね。SAKEを愛する人々といっしょにいられることに興奮していたのだと思います。

我々が決断し、イベントを開催できたことを誇りに思います。私たちの姿を見た他の人たちが、『SAKE DAYができたんだから私たちもできる!』と言えるようになったんですから」と、話してくれました。

SAKE業界すべてに希望をつなぐ

昨年、「『SAKE DAY』をアフター・コロナの未来への出発点としたかった」とSAKETIMESに語ったボーさん。大きな不安に立ち向かい、成功を収めた今回のイベントは、1年越しにその想いを実現しました。

「SAKE DAY」が誕生してから16年。アメリカでは「日本酒の日」の認知が次第に広まってきており、現在は全米各地でオンラインやオフラインのイベントが開催されています。その現象のきっかけを作ったTrue Sakeは、アフター・コロナの未来を切り拓くため、パンデミック明けのイベント開催という先陣を切りました。今回の成功をはずみに、True Sakeは、これからもリーダーとしてアメリカのSAKE業界を率いていくのでしょう。

(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES編集部)

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