入手しやすく家庭で気軽に楽しめる日本酒といえば、パック酒を思い浮かべる方も多いと思います。
パック酒は、毎日の晩酌のおともとなるお酒なので、どんな料理にも合い、万人受けしやすい酒質が求められます。そして、購入しやすい手ごろな価格とどこででも買える入手しやすい点も特徴。しかし、それらの条件を満たすためには高い醸造技術が必要な、実はすごいお酒なのです。
パック酒とひとことにいっても、現在は一般酒から特定名称酒といった幅広いラインナップに加え、お燗向きのお酒や糖質カット等の機能性の高いものまでそろっています。
そこで、さまざまな種類のパック酒を飲み比べ、その味わいをテイスティングしてみました。
灘エリアの生酛と速醸酛を飲み比べ
菊正宗酒造と白鶴酒造は、ともに兵庫県・灘エリアを代表する酒蔵です。それぞれの主力商品である本醸造クラスのお酒を飲み比べてみました。生酛と速醸酛の良さを非常に引き出していて、なおかつ、飲みあきない味わいに上手に仕上げられていました。
菊正宗酒造「菊正宗 上撰 さけパック 本醸造 」(生酛)
全体:
ふくらみがあり、しっかりとした旨味を持ちシャープな味わいの醇酒
主体の香り:
原料香主体で、淡い柑橘香とハーブ香あり
具体的な香り:
炊いた白米、サワークリーム、マシュマロ、千歳飴、スダチ、甘夏、和梨、シャルドネ、スペアミント、若草、瓜、クレソン、ミネラル、ピーナッツ等
具体的な味わい:
ふくらみがありキレのよい飲み口、ふくよかでしっとりした旨味が主体、後味はシャープにキレる。サワークリームや千歳飴、スダチ、スペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
20℃前後でふくらみがあり、シャープでキレの良い味わいを引き出す。または、50℃前後で、ふくよかで柔らかくなめらかな味わいを引き出す。
白鶴酒造「上撰 白鶴 サケパック」(速醸酛)
全体:
ふわりとなめらか、柔らかい味わいの醇酒
主体の香り:
原料香主体で、淡い柑橘香とハーブ香あり
具体的な香り:
炊いた白米、カスタードクリーム、マシュマロ、千歳飴、グレープフルーツ、スダチ、和梨、シャルドネ、スペアミント、若草、瓜、クレソン、ミネラル等
具体的な味わい:
ふわりと滑らかで優しい飲み口、ふくらみがあり柔らかい旨味が主体、後味のキレはよい、すだちやスペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
0℃前後でふわりと滑らかでキレの良い味わいを引き出す。または、45℃前後にて柔らかくなめらかな味わいを引き出す。
酒質が柔らかい伏見のパック酒を飲み比べ
「月桂冠 上撰 さけパック」も「黄桜 辛口一献」も、どちらも普通酒規格のお酒で、共通するのは酒質の柔らかさです。昔から「灘の男酒、伏見の女酒」とよくいわれますが、伏見の柔らかい酒質を実感することができます。
ただ、伏見の水自体は一般にいわれる軟水ではなく、実際は中硬水(硬度6~7)。他地域をみると、灘の宮水(硬度8~9)、新潟(硬度3)、静岡(硬度1)となっており、灘と比べると確かに柔らかいですが、新潟や静岡の水と比べると水の硬度は高い部類にあたります。
月桂冠「月桂冠 上撰 さけパック」
全体:
柔らかくなめらか、ふくよかな味わいの醇酒
主体の香り:
原料香主体で、淡い柑橘香とハーブ香あり
具体的な香り:
炊いた白米、カスタードクリーム、マシュマロ、ミネラル、スダチ、甘夏、ライチ、スペアミント、クレソン、大根、瓜、檜、水飴等
具体的な味わい:
柔らかくなめらかな飲み口、ふくらみがあり柔らかい旨味が主体、後味はさらりと消える、水飴やスペアミント、甘夏を思わせる含み香
おすすめの温度帯:
20℃前後にて、柔らかくなめらかな味わいを引き出す。または45℃前後にて、ふくよかで柔らかい味わいを引き出す。
黄桜「黄桜 辛口一献」
全体:
シャープでスッキリ、繊細で柔らかい味わいの爽酒
主体の香り:
原料香主体で、淡いハーブ香あり
具体的な香り:
白玉粉、生クリーム、マシュマロ、水飴、アルコール、スダチ、グレープフルーツ、クールミント、シャルドネ、クレソン、瓜、若草、ミネラル等
具体的な味わい:
スッキリキレの良い飲み口、繊細で柔らかい旨味が主体、シャープでスッキリした後口、クールミントやスダチを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
12℃前後にて、スッキリシャープな味わいをひきだす。又は、40℃前後にて、繊細で柔らかい味わいを引き出す。
広島「賀茂鶴」と秋田「高清水」のパック酒を飲み比べ
賀茂鶴酒造は広島の銘醸地・西条の酒蔵で、明治~昭和初期に行われた全国清酒品評会にて、優等一等~三等までを独占した唯一の酒蔵です。当時の品評会は入賞酒が4段階にわけられていて、優等は全体の0.2%ほど。技術力が高い酒蔵というのもうなずけます。また、当時、主流だった協会5号酵母は賀茂鶴酒造の酒母から採取された酵母です。
一方、「高清水」を醸す秋田酒類製造は、銘醸地・秋田で、1944年に12の酒蔵が合併し発足した酒蔵です。比較的大きい酒蔵ですが、こちらも酒造りの技術に関しては非常に高いものがあります。
賀茂鶴酒造「上撰賀茂鶴 パック」
全体:
ふくよかでなめらか後味のキレの良い醇酒
主体の香り:
原料香主体、淡い柑橘香とハーブ香あり
具体的な香り:
炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、千歳飴、スダチ、甘夏、白ユリ、和梨、スペアミント、若草、クレソン、ミネラル、カシューナッツ等
具体的な味わい:
ふわりとしつつスッキリとした飲み口、ふくらみがあり滑らかな旨味が主体、後味はスッキリキレる、千歳飴やクレソン、ミネラルを感じる含み香
おすすめの温度帯:
15℃前後にて、スッキリキレよく柔らかい味わいを引き出す。または50℃前後にて、ふくよかで柔らかいキレの良い味わいを引き出す。
秋田酒類製造「高清水 さけパック」
全体:
なめらかで柔らかく、スッキリした味わいの醇酒。
主体の香り:
原料香主体、淡い柑橘香とハーブ香あり
具体的な香り:
炊いた白米、カスタードクリーム、マシュマロ、水飴、スダチ、スウィーティー、ミネラル、白ユリ、アルコール、スペアミント、若草、瓜、クレソン、カシューナッツ等
具体的な味わい:
なめらかでスッキリした飲み口、ややふくらみがあり柔らかい旨味が主体、後味はスッキリしている、スダチやスペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
20℃前後にて、なめらかでスッキリした味わいを引き出す。または45℃前後の燗にて、ふくらみがあり柔らかい味わいを引き出す。
「白鶴 まる」と「白鶴 米だけのまる 純米酒」を飲み比べ
CMでもおなじみの白鶴酒造の「白鶴 まる」といえば、パック酒の代表格と言えるお酒。2017年には「白鶴 米だけのまる 純米酒」が新たにラインナップに加わりました。軽い味わいでありながらしっかりとしたうまみを感じ、酒造りに関する技術力の高さに驚きます。
一方の従来商品の「白鶴 まる」には、非常に軽い飲み口ですっきりした味わい。冷やしても燗にしても安定感が高く、非常にコストパフォーマンスの高い味に仕上がっています。
白鶴酒造「白鶴 まる」
全体:
柔らかくなめらかスッキリした味わいの爽酒。
主体の香り:
原料香主体、淡いハーブ香あり
具体的な香り:
白玉粉、カスタードクリーム、マシュマロ、アルコール、水飴、スダチ、グレープフルーツ、クレソン、スペアミント、若草、瓜、ミネラル等
具体的な味わい:
柔らかくなめらかな飲み口、ふくらみがありなめらかな旨味が主体、後味はキレよくスッキリ、水飴やスペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
10℃前後にて、スッキリさわやか味わいを引き出す。または、40℃前後にて、柔らかくなめらかな味わいを引き出す。
白鶴酒造「白鶴 米だけのまる 純米酒」
全体:
スッキリしつつ、柔らかくふくらみのある味わいの醇爽酒。
主体の香り:
原料香主体、淡いハーブ香あり
具体的な香り:
炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、米糠、スダチ、甘夏、和梨、スペアミント、若草、瓜、クレソン等
具体的な味わい:
スッキリしつつ柔らかい飲み口、ややふくらみがあり繊細な旨味が主体、後味はさらりと消える、クレソン、スダチ、スペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
20℃前後にて、スッキリしつつ、柔らかい味わいを引き出す。または、50℃前後にて、スッキリしつつふくらみのある味わいを引き出す。
大吟醸酒と純米酒のパック酒を飲み比べ
続いては、特定名称酒クラス、大吟醸酒と純米酒の飲み比べです。パック酒ということでいずれのお酒も比較的スッキリした味わいで、家庭料理に合わせやすい味わいに仕上がっています。
大吟醸酒は、灘の日本盛と伏見の月桂冠を比較してみました。ともに料理に合わせやすく、清楚でほどよい吟醸香を楽しめます。月桂冠の大吟醸酒は若干の柔らかさを感じます。
沢の鶴「沢の鶴 米だけの酒 純米酒」
全体:
柔らかくなめらかな味わいで、後味がシャープにキレる醇爽酒。
主体の香り:
原料香主体、淡いハーブの香りあり
具体的な香り:
炊いた白米、サワークリーム、マシュマロ、水飴、スダチ、甘夏、和梨、ミネラル、スペアミント、若草、瓜、クレソン、カシューナッツ等
具体的な味わい:
なめらかでキレの良い飲み口、柔らかくなめらかな旨味が主体、キレよくシャープな後味、スペアミントやスダチを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
15℃前後にて、柔らかい味わいと後味のすっきりシャープな味わいを引き出すか、または、燗にてなめらかでふくらみのある味わいを引き出す。
日本盛「日本盛 大吟醸]
全体:
シャープでスッキリ、繊細な味わいの薫爽酒。
主体の香り:
原料香主体、清楚な果実香と淡いハーブ香有り
具体的な香り:
炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、和梨、白百合、青りんご、マスカット、白桃、白砂糖、スウィーティー、グレープフルー
ツ、スペアミント、若草、瓜、クレソン、ミネラル、カシューナッツ等
具体的な味わい:
スッキリシャープな飲み口、柔らかく繊細な旨味が主体、後味はシャープで爽やか、白桃やスウィーティー、スペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
12℃前後にて、シャープでスッキリした味わいと清楚な果実香を引き出す。または、45℃前後にて柔らかくふくらみのある味わいを引き出す。
月桂冠「月桂冠 大吟醸」
全体:
シャープでスッキリ、繊細な味わいの薫爽酒。
主体の香り:
原料香主体、淡いハーブ香と清楚な果実香あり
具体的な香り:
炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、水飴、白桃、ライチ、白百合、マスカット、スダチ、甘夏、スペアミント、瓜、若草、ミネラル、カシューナッツ、クレソン等
具体的な味わい:
シャープで爽やかな飲み口、繊細で柔らかい旨味が主体、後味はシャープでスッキリ、スペアミントやスダチを思わせる含み香
おすすめの温度帯:12℃前後にて、シャープでスッキリした味わいと清楚な果実香を引き出す。または、38℃前後にて柔らかく繊細な味わいを引き出す。
新しい醸造技術で造られたパック酒を飲み比べ
菊正宗の「菊正宗 しぼりたてギンパック」は、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ) SAKE部門で、優れたコストパフォーマンスを発揮した酒に与えられる最高位「グレートバリュー・チャンピオンサケ」と普通酒部門の最高位をW受賞したパック酒。
大吟醸のようなフルーティーな香りを引き出す新酵母を使い、しぼりたてを生のまま低温貯蔵しパック詰めした、これまでのパック酒の概念を覆した商品です。日本酒ビギナーからファンの方々まで、幅広くお勧めできるお酒だと感じます。
月桂冠の「月桂冠 糖質ゼロ」は、日本酒でありながら糖質ゼロという、難しい課題に挑戦して造られたお酒です。正直、味わいにもう少し厚みが欲しいところですが、糖質ゼロということを考えると、爽酒タイプでスッキリとしたシャープな味わいのお酒になるのは納得です。あらためて大手蔵の技術力を実感しました。
菊正宗酒造「菊正宗 しぼりたてギンパック 生貯蔵酒」
全体:
シャープでスッキリなめらかな味わいの薫酒
主体の香り:
原料香主体、新鮮な果実香と淡いハーブ香有り
具体的な香り:
炊いた白米、サワークリーム、マシュマロ、青りんご、マスカット、和梨、白百合、水飴、スウィーティー、スダチ、ミネラル、スペアミント、若草、瓜、カシューナッツ等
具体的な味わい:
シャープでスッキリした飲み口、ふくらみがありなめらかな旨味が主体、後味はスッキリ爽やか、白桃、スダチ、スペアミントを思わせる含み香
おすすめの温度帯:
12℃前後にて、シャープでスッキリした飲み口と新鮮な果実香を引き出す。
月桂冠「月桂冠 糖質ゼロ」
全体:
シャープでスッキリした味わいの爽酒。
主体の香り:
原料香主体、淡いハーブ香有り
具体的な香り:
炊いた白米、カスタードクリーム、マシュマロ、水飴、スダチ、スウィーティー、白百合、スペアミント、若草、瓜、クレソン、カシューナッツ等
おすすめの温度帯:
12℃前後にて、シャープでスッキリした味わいを引き出すか、40℃前後にて、繊細で柔らかい味わいを引き出す。
力を抜いて、ゆるく飲みたいパック酒
近年、パック酒に使用される紙の資質が向上していると耳にしますが、軽くて持ち運びが容易で光を通さないという点で、紙パックは非常に理想的なお酒の容器です。ただ、消費者としてパック酒を見た場合、安酒というイメージが付いていることも否定できません。
今回、さまざまなパック酒をテイスティングしながら、データを取ってみましたが、想像していたよりも味が進化していて、新たな発見ができて面白かったです。
珍しいお酒や入手困難といわれるお酒を手に入れるというのも、日本酒の楽しみ方のひとつですが、たまには肩ひじ張らずに、ゆるい感じで、気軽に楽しめるパック酒を楽しむ日があってもよいかもしれません。
(文/石黒建大)