栃木県西方町にある飯沼銘醸では、8代目蔵元杜氏、飯沼徹典さんがお酒を醸しています。

栃木県は越後出身の蔵元が多いのですが、飯沼銘醸もまた、新潟県長岡市(旧越路町)出身の初代蔵元・飯沼岩次郎さんが出稼ぎで来るようになり、創業しました。

以来200年以上の歴史のある蔵で、創業当時は「秋錦」という銘柄を造っていました。そのころの酒造りはとても儲かったようで、“質より量”を優先してお酒を大量に造っていたそうです。

その後、徹典さんのお祖父さんが「富貴」というお酒を、お父さんが「杉並木」という銘柄を造り始めました。「杉並木」は、地元の飲食店などに置かれ、多くの人たちから愛される定番酒となりました。

現在は9代目の徹典さんが「杉並木」と、自身が立ち上げた「姿」ブランドを手がけており、酒質は向上し続けています。

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少人数の蔵ながら、工夫に満ちた酒造り

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洗米は、性能の良い機械を導入してから、機械洗いが基本。吟醸酒に関しては、今でも手洗いの限定吸水を行っています。

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水はすべて地下水。においがつかないよう、ポンプも新しくしたそうです。

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その地下水は年間通して17度前後。仕込み水として使うには高い温度です。そのため、大きなタンクに入れて半日から1日外に置いておきます。すると、冬の仕込みの時期には外の気温で冷やされ、適正な温度になるそうです。

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昔ながらの和釜でお米を蒸しています。

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大吟醸用のタンクは他と区別して小さめの部屋で管理。外気を入れて空気を循環させているだけですが、室内はひんやりとしています。

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麹室も見せていただきました。使用していない時期とはいえ、麹室はいつ入っても神聖な感じがします。

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そして、なんと徹典さん手作りの切返しグッズ。

飯沼銘醸の造り手は4人。1人で作業をすることも少なくありません。そこで、早く的確に作業ができないかと、ホームセンターで材料を買い、自家製の切返しツールを製作したそうです。

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乾いて固まった麹のかたまりを網を使ってばらし、ケースのまま重さを量ることができます。さらに、素材自体は軽いという優れもの。なかなか考えたものです。

搾ってすぐに瓶詰めされる「姿」

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仕込み部屋にあるタンクは、「姿」と「杉並木」の吟醸用サーマルタンクと、それ以外のお酒に使っているホーロータンク。ホーロータンクも、急激な温度変化がないように工夫されています。

今後は、小さめのタンクのみで仕込んでいきたいとおっしゃっていました。仕込み量が変わらず小さいタンクを使うとなると、タンクの数が増えるため手間も労働力も増えていきます。それでも小さいタンクを使おうとする理由は「酒質の管理がしやすいから」。飯沼銘醸が酒造りに対して真摯に向き合っている証拠ではないでしょうか。

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酒母室です。仕込み前のため物置代わりになっていましたが、物置にできるほど広めのスペースです。

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そして、冷蔵室も広い。

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「姿」は搾ってすぐに瓶詰めされますが、瓶での保管にはどうしてもスペースが必要になります。広い敷地をもつ飯沼銘醸の強みといってもいいでしょう。

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瓶詰め作業のあと、蔵人が1本1本ていねいに確認しています。ラベルが貼られ、完成。

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こうして、少ない人数で労力を尽くし質の高いお酒ができあがりました。

米の違いで変わる「姿」の味わいは?

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写真右から順に、酒造好適米である「吟風」「ひとごこち」「雄町」「山田錦」「北しずく」を使った「姿」シリーズ

まずは「吟風」という酒造好適米を使用した季節商品。「浴衣すがた」と名付けられた夏酒です。華やかな香りとすっきりした呑み口。夏らしく冷やして美味しいお酒です。

「ひとごこち」は食中酒に最適。「姿」シリーズの中では辛めに仕上がっていてキレが良く、「雄町」はふくよかな旨みが広がるタイプ。「山田錦」はフルーティな甘い香り、「北しずく」はまろやかですっきりした甘みが特徴的でした。

購入する際は、ぜひ違う種類を選んで飲み比べてみるとおもしろいかもしれません。米の種類でこれだけ味わいが違うのかと驚くはず。

「姿」の名前の由来は地元の伝説の場所「姿見の池」からきています。西方町にちなんだ名前をつけたかったので、「姿」という文字を選んだそうです。今後も西方町から「姿」らしいお酒が生まれるのが、楽しみでなりません。

(文/まゆみ)