市販されている日本酒のナンバーワンを決める「SAKE COMPETITION」。その純米吟醸部門で2015, 16年と2年連続で栄冠に輝いたお酒があります。
宮城県仙台市にある仙台伊澤家勝山酒造(以下、勝山酒造)が醸す純米吟醸酒「勝山 献(かつやま けん)」です。
並み居る有力蔵のお酒を抑えて2連覇を果たした「勝山 献」はどのように造られているのか、探ってきました。
仙台・伊達家の御用蔵がさらなる高みを目指して再スタート
元禄年間(1688~1704年)に創業した勝山酒造は伊達家の御用蔵として実績を積み、戦後も数々の成果を上げました。また、蔵元が宮城県酒造組合の会長を務めていた時に、宮城県を"純米酒の県"として売り出すなど、宮城清酒を引っぱるリーダーでした。
特定名称酒だけに絞った酒造りをいち早く始め、お酒の評価がそもそも高かった勝山酒造ですが、酒質がさらに飛躍的に向上したのは、酒蔵を仙台市内から郊外へ移転したのがきっかけでした。
もともと市内にあった蔵の地下水に不安を感じて、40年前から仙台市の北西にそびえ立つ泉ケ岳の山麓に水源を確保し、タンクローリーで運んでいました。しかし、より高いレベルの造りを目指すため、2005年12月水源から近い場所に新しい蔵を建てたのです。
新蔵を造るに当たって、醸造アルコール添加のお酒はやめ、全量純米酒の蔵に変わることを決めました。さらに、もっとも高価な純米大吟醸酒の品揃えをより強化していくことに。
ただ、それには課題がありました。
移転する前の蔵では、冬の短い期間に1500石(一升瓶換算でおよそ15万本)を集中的に造っていたので、毎日のように仕込みがありました。蔵人は作業に忙殺され、細かな点に目配りできないこともあったそうです。設備面でも問題があり「美酒を造るには限界を感じていました」と12代目の伊澤平蔵さんは語っています。
そこで「1本1本、大事に造ろう。仕込みは週1回に減らし、その代わり秋から初夏まで3季醸造できる設備をつくる。高級酒路線に注力するための設備を入れ、他の地酒蔵と競合しないようにする」ことを基本方針としたのです。
移転した1年目はそれまでの5分の1である300石から再スタートを切りました。
シンプルに愚直に、理想的な酒造りを目指す
週1本の仕込みになることで、米は全量、小ロットで洗い、限定吸水も厳密にできるようになりました。米の蒸し具合がその後の工程に大きな影響を与えるとの判断から、米を蒸している間はずっと蔵人が張り付き、甑(こしき)に被せた布が蒸気で膨らむ様を常時監視。細かな調整を加えるようにしています。
米を蒸している約1時間は蔵人の朝食に当てているケースも多いと聞きますから、勝山酒造の本気度がうかがえますね。
また、搾りはヤブタと呼ばれる自動圧搾機から、昔ながらの槽に切り替えました。搾り終わるたびに袋をしっかりと洗い、乾燥させています。仕込みが週1回のため、麹室の道具もすべて、洗濯・清掃を入念に行っています。
伊澤さんの「無理な冒険はしない。シンプルに愚直に、理想的な酒造りを目指す」という方針から、原料米は山田錦とひとめぼれのみに絞り、酵母も宮城酵母だけ。ブレの少ない酒造りを実現しようと努力してきました。
商品ラインアップも増やさずに、通年変わらないお酒を安定的に供給することに専念しています。
加えて、移転をきっかけに3季醸造に切り替えたことで、蔵人全員が社員になることができました。造りは4人でやっていますが、40代前半の後藤杜氏を筆頭に全員がすべての情報を共有し、細かな改善に取り組むという流れができあがりました。問題解決までの時間はびっくりするほど短くなったそうです。おかげで、年々お酒の水準が上がっており、とりわけ「勝山 献」の伸びが著しいそうです。
輝かしい実績は、より良い造りに徹した結果
勝山酒造として目指している「献」の味わいについて、伊澤さんは次のように話します。
「蔵のお酒すべてに共通する透明感のあるきれいな旨味をベースにしながら、『献』には派手すぎず、華やかすぎず、強すぎず、穏かで清楚だけど芯がある味わいを付加させています。刺身に合うとか、天ぷらと相性が良いとか限定的なマリアージュは意識せず、和食に幅広く合うように造っています。尖った個性は追求せず、愚直に優等生のようなお酒を心掛けています」
また、SAKE COMPETITIONについては「上位に入賞するにはどうすればいいか、蔵内で相談したことは一度もありません。造りに徹することで、結果として何度もベスト10に入ることができたのだと受け止めています」と語ってくれました。
勝山酒造は、2012年から始まったSAKE COMPETITIONに1年目から参加しており、純米吟醸部門には毎回「勝山 献」を出品しています。2012年が7位、13年は選出されず、14年が5位、そして15年から2連覇を果たしました。
この結果について、伊澤さんは冷静に分析します。
「『献』の酒質は年々向上していると思いますが、今回の結果は山田錦の出来にもあると考えています。日本酒の場合、米の出来による酒質への影響はわずかなものですが、SAKE COMPETITIONのような紙一重の評価で1位にも10位にもなってしまう激戦では、その年に収穫された酒米の出来による酒質の変化も重要だと思っています」
それでもやはり、手ごたえは大きかったそうで、
「実は15年と16年については、杜氏とともに、僕らが目指している『献』の理想を実現できたと感じて出品していたのです。その手ごたえがそのまま2連覇という結果になって心から嬉しいですね」と、喜びをかみしめていました。
28BY(醸造年度)の山田錦について後藤杜氏は「今年の米の出来はあまり良くない」とこぼしていたそうで「3連覇はありえません」と伊澤さんは断言されています。
しかし、昨年10月に宮城県酒造組合が実施した宮城県清酒鑑評会で、勝山酒造のお酒が純米酒部門と純米吟醸酒部門の両方で、ナンバーワンとなる宮城県知事賞を獲得しており、その実力はますます盤石なものになっています。
これからも我々、呑み手を満足させてくれる素晴らしい酒を仕上げてくれると確信しています。
(取材・文/空太郎)
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