明治32年(1899年)に北海道小樽市で創業し、まもなく120周年を迎える田中酒造。代表銘柄「宝川」を中心に、北海道産米を100%使用した酒造りを年間を通して行なっている酒蔵です。
自然豊かな天狗山の伏流水に恵まれた小樽市には、かつていくつもの酒蔵がありましたが、現在はこの田中酒造のみとなっています。
道産米100%にこだわる全量純米蔵
JR南小樽駅から歩いておよそ8分ほど。観光客に人気の小樽運河からほど近い場所に、趣を感じさせる「亀甲蔵(きっこうぐら)」があります。
札幌や小樽で採れた軟石による石組みの建物は、明治時代に海産物の倉庫として建てられたもの。小樽市の指定歴史的建造物になっています。
歴史を感じさせる石造倉庫の製造場には近代的なステンレス樽が並び、独特の雰囲気を醸し出しています。
田中酒造の特徴は、1年を通して酒造りを行なう四季醸造であること。北海道の冷涼な気候があってこそでしょう。使用する米は、ニセコ町産をはじめとした酒造好適米「彗星」や「きたしずく」を中心に、100%道産米のみというこだわりです。
仕込み水は、小樽市にある天狗山の雪解け水が長い年月を掛けて伏流水となったものを、地下約70メートルから汲み上げて使っています。冬季には閉鎖されてしまいますが、建物の前で、ミネラル豊富で雑味のないクリアな味わいの仕込み水を飲むこともできます。
生産量は年間およそ500石(一升瓶でおよそ5万本分)と少量ですが、そのすべてが純米酒。手間を惜しまない高品質の酒造りを行なっています。
年中無休の酒蔵見学
亀甲蔵では、酒造りの様子をいつでも見学することができます。店頭のスタッフに声をかければ、説明付きで見学することも可能とのこと。
現場での作業は午前中が多いため、早めの時間に訪れるのがおすすめだそう。タイミング次第では、麹を造る様子を見ることもできます。
地元出身の若い人材を積極的に採用している田中酒造。真剣な表情の蔵人たちがキビキビと働く姿に、思わず背筋が伸びます。
他にも、かつて使用されていた道具類の展示などもあり、大人から子どもまでが楽しく見学できます。
スタッフの多くが酒造技能士の資格者
製造場を見学した後は直売所へ。
ここでは、代表銘柄の「宝川」や現地でしか買えない限定酒など、豊富な種類のお酒がそろっています。四季醸造のため、限定酒が季節ごとに変わるのもうれしいポイント。地元産のフルーツを使ったリキュールも含め、約10種類を試飲することができます。
製造スタッフはもちろん、販売や事務を含めた社員も製造作業に携わり、日本酒の専門知識を持って接客しています。
甘酒や酒まんじゅう、酒粕せんべいなど、お酒を飲めない人が楽しめるコーナーも充実していました。
現地でしか飲めない日本酒も！
亀甲蔵から車で7分ほどのところには、田中酒造の本店があります。亀甲蔵と同じ小樽市の指定歴史的建造物で、1927年(昭和2年)に建てられたものです。
建物正面の軒下は、腕木を手前にせり出す「せがい造り」で、大正から昭和初期にかけて地元の木造商店で多く見られた造りだそう。1989年には小樽市都市景観賞を受賞しています。
田中酒造が創業した明治32年当初はこの「本店」で白酒や焼酎から始まり、みりん製造などを経て、代表銘柄の日本酒「宝川（たからがわ）」が誕生しました。 現在、製造場は亀甲蔵にあり、本店は直売所として活用されています。
昭和の情緒がただよう店内では、「宝川」シリーズや本店の限定酒などを試飲・購入できます。
高品質、かつ少量仕込みが特徴の田中酒造は直販が基本。本店または亀甲蔵でしか手に入らない商品も少なくありません。濾過も火入れも一切しない「超新鮮 搾(しぼりたて)」は、時期になると店頭に並ぶ日が貼り出されるため、このタイミングに合わせて訪れるのもおすすめです。
日本酒以外にも、北海道による「北のハイグレード食品」に選ばれた「魔法の一滴 本みりん」や酒粕、酒まんじゅう、ニシンの甘露煮など、小樽らしさを感じさせるお土産も販売されています。
店長をはじめ、どのスタッフも専門知識が豊富で親切なので、わからないことがあれば気軽に聞いてみてください。
小樽への観光で必ず立ち寄りたい酒蔵
連日多くのお客さんが訪れる「本店」には創業当時の看板や杉玉、古い帳簿などが飾られ、酒を陳列している棚もかつての仕込み桶を再利用したものです。
田中酒造には、昔の造り酒屋の雰囲気を肌で感じられる居心地の良さがありました。これが、人気の理由なのでしょう。
地元限定の美味しい地酒が手に入り、昔ながらの情緒を感じられる田中酒造。小樽を訪れた際にはぜひ足を運んでみてください。
- 住所：北海道小樽市信香町2-2
- 電話：0134-21-2390
- 営業時間：9:00～18:00
- 定休日：年中無休
- 酒蔵見学：可能(※10名以上の団体の場合は要予約)
- 住所：北海道小樽市色内3-2-5
- 電話：0134-23-0390
- 営業時間：9:00～18:00
- 定休日：年中無休
(文／石渡裕美)
