北海道の開拓が本格的に始まってから150年。そんな北海道では、"創業100年以上"の店や企業は、本州に比べて圧倒的に少ない存在になっています。そんななか、今から120年も前の明治34年(1901年)に創業した酒屋が「銘酒の裕多加(ゆたか)」です。
酒蔵との信頼関係を大切に、日本酒を愛するお客さんを大切に。他店にはない希少な日本酒を多く取り扱う名店が、長年にわたって愛されてきた理由を探ります。
人と人、思いと思いをつなぐ架け橋
「銘酒の裕多加」が南富良野町に創業したのは、明治34年。現在の所在地である札幌市へ移転したのは、昭和40年(1965年)のことです。店を構えるのは、JR学園都市線の八軒駅または新川駅から、徒歩で10分ちょっとの場所。「鮭」ではなく「酒」を抱えた熊が描かれた、ユーモアたっぷりの看板が目印です。
札幌市内といえど、繁華街からは離れていて、決して恵まれた立地とは言えません。それでも、この地に長年根を下ろし、全国に多くのファンをもっている背景には、さまざまな理由がありました。
「銘酒の裕多加」の品ぞろえは、日本酒を中心に焼酎やワインなど約400点。スタッフみずからが全国各地の酒蔵を訪れ、厚い信頼関係を築き上げているため、他店にはない珍しい一品も多く取りそろえています。
「私たちが大切にしているのは『人から人へ、お酒が繋ぐ人の縁』。全国各地の蔵元さんと家族のような付き合いをさせていただいています。ただお酒が行き交う場所ではなく、そこにある心を伝えられる店でありたいと思うのです」と、話してくれたのは、店の運営全般にあたる熊田理恵さん。
夫のカリンさんはカリフォルニアの出身で来日12年目。世界最大のワインコンテスト「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」のSAKE部門で審査員を8回も務めたほか、日本酒や輸出に関するセミナーを行なうこともあるほど、日本酒への造詣が深い人物です。
月1回の試飲会も大人気!
「お客様にゆっくりと商品選びをしていただけるように......」と、あえて、スタッフからの声かけをあまりしない方針だそうですが、お客さんから声をかけると、酒蔵の歴史やモットー、酒質の特徴、相性の良い料理など、どのスタッフも気さくな笑顔で質問に答えてくれます。
たとえば、この「乾坤一」という銘柄なら、「造っているのは伊達政宗の膝元、宮城県の大沼酒造店さんで、創業は正徳2年(1712年)。社長さんご自身は、和菓子が大好きな甘党なんですよ」なんていう小話も聞くことができ、お酒の味わいがよりいっそう深まります。店のホームページにもさまざまな情報が掲載されているので、ぜひチェックしてみてください。
北海道の地酒や季節商品が並ぶコーナーもあります。訪れた日は、2017年に新設された「上川大雪酒造」のお酒が置かれていました。試飲できるお酒もあるため、気になるものがあれば、スタッフに相談してみるのがおすすめです。
また、毎月1回(12月と1月を除く)、予約不要の試飲会を実施。早春の新酒や秋のひやおろしなど、旬のお酒やニューウェーブの日本酒など、回ごとに異なるテーマに沿って、試飲をすることができます。時には、酒蔵から造り手を招くこともあり、毎月楽しみに通うファンも多いのだとか。
店を訪れたら、特に注目したいお酒が「my STORY ヒトツメ」。北海道新十津川町の酒米農家が育てた「吟風」を100%使用し、日本清酒(札幌市)の女性杜氏・市澤智子さんが醸したこのお酒は、店主の熊田理恵さんがプロデュースしたのだそう。
穏やかな香りとフレッシュな飲み口が魅力的な無濾過の純米酒で、ラベルには自由にメッセージを書けるスペースがあります。寄せ書きをしたり、感謝の言葉を書いたり......プレゼントにもピッタリですね。
スパークリング日本酒や熟成古酒、新進気鋭の日本酒など、ラインアップは実に豊富。お酒に合うおつまみや酒器も選び抜かれたものが並び、お酒そのものだけではなく、酒文化を楽しむことができます。
初心者からマニアまで、満足できるひと時が過ごせる「銘酒の裕多加」。北海道にお越しの際は、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
(取材・文/石渡 裕美)
◎店舗詳細
- 「銘酒の裕多加(ゆたか)」
- 電話:011-716-5174
- 営業時間:年中無休 [月~土曜] 10:00~20:00 [日曜・祝日] 10:00~19:00
- 住所:北海道札幌市北区北25条西15丁目4-13