本記事は、昨年開催された「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS 2018」の取材時の情報をもとに記載されております。2019年4月19日(金)~4月29日(月)の期間で開催される「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS 2019」について詳しくはこちらをご覧ください。
2018年4月、六本木ヒルズアリーナで11日間に渡って開催された「CRAFT SAKE WEEK 2018」。今年も大盛況のうちに幕を閉じました。
特に最終日は「チーム十四代の日」だったこともあって、開場前から100人近くの参加者が行列をつくる好評ぶり。イベント期間中は、各ブースで日本酒が提供されるだけでなく、日本酒のソムリエ「唎酒師」の資格を保持するスタッフの方々が常駐し、会場内を回りながら来場者にお酒を提供していました。
今回は、そんな唎酒師の方々に「CRAFT SAKE WEEK」の魅力をインタビューしました。
「日本酒は、世界に通用する間口の広いお酒」
1人目は、並里直哉(なみさと なおや)さんです。
ふだんはお酒の卸会社に勤務し、現在は日本酒とワインを担当しています。もともとはバーテンダーをやっていたそうで、スピリッツの勉強をするために入社したそうですが、当時、担当を任せられたのは日本酒でした。それをきっかけに日本酒を学び始め、唎酒師として個人的にイベントを開いたり、お酒のプロデュースを始めたりするようになったのだそう。
「好きな日本酒は何ですか?」とたずねると「とても難しい質問ですね。お酒の師匠に勧められて飲んだ、黒龍酒造さんの『逸品』は『普通酒でこの味わい!?』と衝撃を受けたので、印象に残っています。また『十四代 秘酒』を飲んだときに、甘味の入り方や、甘味・酸味が溶け合うような絶妙なバランス、香りと熟成感のバランスに驚きました。ベストワンはこれかもしれませんね」と、答えてくれました。
「アルコールがまったく苦手な人は別として、ワインやカクテルをふだんから飲んでいる人であれば、日本酒がまったくダメということはないはず。日本酒の味わいは多種多様なので、唎酒師と話をしながら選んでいけば、きっと好みの味を見つけることができると思います。日本酒は、世界的にはまだまだメジャーな存在ではありませんが、大きな可能性を秘めている懐の深いお酒です。料理の味わいを、日本酒の旨味や甘味がうまく受け止めて調和してくれる。これほどまでに合わせられる料理の幅が広いお酒は、他にはありません。だからこそ、多くの人に知ってほしいですね」
取材をしたこの日は「天狗舞」で知られる、石川県・車多酒造のブースを担当していた並里さん。
「今日は『天狗舞 山廃純米大吟醸』を持って回っています。重たい味わいだと思われがちな山廃」ですが、純米大吟醸らしい軽やかさがあり、おすすめしやすい一品です。最初は、同じ車多酒造さんの『五凛』をおすすめしていました。『車多酒造さんといえば天狗舞』というイメージを崩そうと思って。五凛は、天狗舞の面影を残しながらも、まったく違ったタイプのお酒。天狗舞をすでに飲んだことがある人にも喜んでいただける銘柄ですね」と、唎酒師ならではの提案をしていました。
「CRAFT SAKE WEEK」の魅力をたずねると、「ふだん日本酒を飲まない方が日本酒を楽しんでいるという印象を受けました。このイベントで初めて日本酒を飲んだという方もいらっしゃいましたよ。日本酒ファンを増やすことに、確実に貢献しているイベントだと思います。僕も日本酒の説明をするにあたって、ふだん飲まない方にもできるだけわかりやすく、そのお酒の魅力を感じ取ってもらえるように意識しました。僕の注いだ一杯が、日本酒を楽しむきっかけになればうれしいです」と、話してくれました。
「日本酒との上手な付き合い方を知ってほしい」
2人目は、森美香(もり みか)さん。
すらりとした立ち姿と素敵な笑顔が魅力的な森さんは、国際線の元客室乗務員。その後、ホテルのコンシェルジュなどを経て、現在は唎酒師として、初心者向けに日本酒の講座を開くなどの活動を行なっています。
唎酒師になったきっかけは、和食が好きだったこと。もともと、懐石料理を10年以上学んでいたそうです。和食といっしょに合わせる日本酒についてもっと知りたくなったことから唎酒師の勉強を始めたとのことで「資格をとったことで、日本酒を通じて仲間の輪が広がったことが良かったですね」と、にこやかに語ってくれました。
そんな森さんにとっての"思い出の日本酒"をうかがうと「鳳凰美田が好きです。最初に美味しいと思ったお酒で、飲むとホッとする」のだそう。
「『鳳凰美田 ブラックフェニックス』は、同銘柄のなかでも人気の1本です。新酒の雫をそのままの姿で、ていねいに瓶詰めしています。グッとくる香りと酸味、トロピカルな味わい、そして華やかさが魅力的なバランスの良いお酒です」
専門性の高い説明ではなく、日本酒初心者の方にもわかりやすく楽しく飲んでもらいたいという姿勢で今回の仕事に参加しているようでした。そこで、おすすめの飲み方を聞いてみました。
「日本人ならば、和食と合わせて飲むことでさらに楽しみが広がります。しかし、年代によっては"日本酒は悪酔いする"などの悪いイメージを持たれているのも事実。日本酒との上手な付き合い方を知ることで、もっと好きになれると思いますよ。見方を変えることが必要ですね。また、日本酒を飲むときは、いっしょにお水を飲むのが一番。あと、食べ方も大事です。それさえ気を付けていれば、悪酔いもしないし、太らないですよ!」と、かわいくまとめてくれました。
「CRAFT SAKE WEEK」の魅力をたずねると、「いろいろな蔵元さんと、直接コミュニケーションがとれる点です。また、希少な銘柄やオトクなお酒を唎酒師たちからのアドバイスをもとに探り当てて、コインと交換する。そんなゲームのような楽しさでしょうか」と話してくれました。
「シチュエーションもいっしょに楽しんで」
3人目は、田原和幸(たはら かずゆき)さん。
田原さんは、大学生のときにたまたま見つけたアルバイトが日本酒専門の小料理屋だったことで、日本酒に興味をもち始めたのだそう。大学を卒業し、デザイナーとして独立した後、空いてる時間に知人の飲食店を手伝うようになります。そんなある時、地元で居抜きの店舗が出るから店をやってみないかと声をかけられ、それまでのデザイン業を辞めて、期間限定で日本酒専門店をオープンしました。
「日本酒への偏見やマイナスイメージを払拭し、日本酒本来の美味しさをもっと世の中に伝えたくて唎酒師になりました」
現在は、富岡八幡宮のほど近くにある蕎麦店「深川 萬寿庵」に勤務しています。日本酒の発注や管理など、お客さんにベストな状態で提供することが仕事です。
話をうかがったのは、イベント3日目の「北信越の日」。田原さんの担当は石川県・吉田酒造店の限定品「手取川 Yasu Special Edition 山廃純米大吟醸 原酒」でした。
「次期蔵元・吉田泰之さんが、伝統とモダンの融合をテーマに、能登杜氏の熟練された技術に次世代の情熱と感性をかけ合わせて造ったシリーズです。能登杜氏が得意とする山廃仕込みで、伝統の新しい可能性を開拓したお酒ですね。使用している酒米は蔵の周辺で収穫された五百万石を、酵母は金沢酵母ときょうかい9号をブレンドして使用しています。アルコール度数が14%の低アルコール酒で、ほのかな杉の香りと梨を思わせる風味が楽しめますよ」とのことでした。
おすすめの1本をたずねると、人気銘柄「五橋」を醸している山口県・酒井酒造の「五(five)」を挙げてくれました。
「ラベルの文字は『Z』に見えますが、漢数字の『五』を崩したもの。ピンクラベルはシリーズのなかでももっとも値段が高いお酒で、手作業での洗米、箱を使った麹造り、木桶での仕込みなど、とてもていねいに造られた一品です。山口県産の山田錦がもつ特徴を最大限に引き出し、リンゴのようなフレッシュさとハチミツを思わせるふくよかな旨味のある味わい深いお酒です」
今回のイベントでは、きちんと正装しプロとしての姿で臨んでいました。"お酒をたくさん売る"という発想ではなく、提供するシチュエーションそのものをお客さんに楽しんでもらい、さらに専門的な質問にも答えてくれる、本物のプロという印象を受けました。
「CRAFT SAKE WEEK」の魅力をたずねると「私たちスタッフ自身が、蔵元の方々から直接、話を聞くことができるので、さらにブラッシュアップしたトークでお客様に日本酒の魅力を伝えることができました。また、ふだん出会えないであろうさまざまなお客様と交流できたことも魅力です」と、話してくれました。
「蔵元やお客さんとの交流が、このイベントの楽しみ」
4人目は、中井恵(なかい めぐみ)さん。
中井さんにお会いしてまず目にとまったのは、彼女が身に着けている、米の粒をモチーフにしたピアスやネックレス。なんと、本物の山田錦だそうです。酒蔵から酒米を分けてもらい、アクセサリー作家にオーダーメイドでつくってもらったのだとか。
もともと、和食の料理人として活躍していた中井さん。若い人のなかには、おせちを食べたことのない人がいるという現状を目の当たりにし、「私たちは、米を食べる文化になかにいる。だからこそ、同じDNAが私たちみんなの中にあるはず。なんとかしなくてはならない」と思い立ちました。
そんな中井さんに日本酒の魅力がどんなところにあるかをたずねると「お酒との出会いが一期一会であることですね。口に入れるとすぐになくなってしまう。絵画などのアートは、作品を観て感じ、それを自身のなかで消化する。しかし、日本酒は違います。口に入れた瞬間、本能的に『美味しい!』と感じることができるんです。提供する人とそのお客さんも一期一会。そのお客さんの笑顔が、次につながっていくような気がします」と話してくれました。
外国語対応バッジをつけ、お酒を大切に扱うための手袋まで用意して、常に最高の状態でお酒を提供できるように人一倍の心遣いをしていた中井さん。お客さんとの一期一会を大切にするこうしたコミュニケーションも、お酒のもつ魅力なのかもしれません。
「CRAFT SAKE WEEK」の魅力をたずねると「お客様からたくさんのことを学ばせていただきました。同じ日本酒でも、ある人は甘い、ある人は苦い、ある人は酸っぱい......と、その感想はさまざま。人生の背景、国籍、ジェンダー、体調、その日の天候などによって、感じ方が繊細に変わるので、唎酒師は臨機応変かつ細やかなペアリングを心がけなくてはならないと感じました。また、日本酒がもつ米由来の味わいと料理が口の中で双方の旨味を引き出す口内調理の魅力を再認識し、世界が誇る美食の街・東京で、日本人がもつ『旨味』の感覚を、米から生産された『國酒』を通して実感できたことは、この上ない至福でしたね」と、話してくれました。
会話を通して発見する、日本酒の新しい魅力
今回、インタビューをした4人の唎酒師をはじめ、多くのスタッフが各々の接客方法で、お客さんに楽しんでもらえるよう日本酒を提供していました。
唎酒師のなかには「それ、辛口ですか?」とお客さんに聞かれたときに、自分の持っているお酒を無理やり推すのではなく「それなら、あちらのお酒がおすすめですよ」と、他の銘柄を紹介する人もみられました。お客さんも、勧められたお酒を口にして「本当だ!あのお姉さんに聞いて良かった」と、喜んでいる様子でした。
専門的な知識を伝えるだけでなく、日本酒の魅力を知ってもらうこと。「CRAFT SAKE WEEK」は、そんな唎酒師としてのあるべき姿を考えさせられる時間でもありました。
(文/あらたに菜穂)
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