市販されている日本酒のナンバーワンを決める「SAKE COMPETITION 2019」の結果が発表されました。
それぞれの部門でトップに輝いた、蔵元や杜氏の喜びの声をご紹介します。
【純米酒部門】「宝剣 純米 レトロラベル」(宝剣酒造/広島県呉市)
宝剣酒造は1872年創業。土井鉄也専務は1997年に21歳の若さで杜氏に就任しました。その後、すぐに広島県の利き酒競技会で3年連続して優勝し、さらに2004年には全国きき酒選手権大会で初優勝するなど、抜群の官能能力を誇っています。
就任当初から、食事に合う辛口系の酒質を追求しており、過去には純米酒部門で2013年4位、2018年10位と、トップ10入りを2回果たしています。今回は3位にも「宝剣 純米酒 広島夢酵母」が入賞し、純米酒において確固たる地位を手にしました。
「私は1993年に18歳で家業の酒蔵に入り、4年後の97年に父親の後を継いで杜氏になりました。以来、ただひたすら理想の酒を造るために、真剣勝負を重ねてきました。酒造りが始まる直前に頭を丸刈りにして、気持ちを引き締めるのはいまも変わりません。
目指す酒は、香りを極端に抑えた、うまくてキレのよい食中酒。それをブレずにずっと目指して造っています。近年はようやく評価されはじめ、売り上げが伸びてきたので、設備改善に資金をどんどん投じてきました。
それが酒質向上につながってきたと感じていた一方で、過去3、4年は上位に入る他の酒蔵のお酒を飲むと自分の力不足を感じ、非常に悔しい思いをしてきました。巻き返すために再度、徹底的に酒造りに没頭してきたので、一番取りたかった純米酒で1位と3位をいただくことができ、望外の喜びです。
特に、『宝剣』の原点ともいえるレトロラベルで1位をいただけたことは感無量です。努力って報われる時が来るんですね。結婚して25年になる妻が、僕の苦しんでいる姿を一番見守ってくれていたので、真っ先にこの結果を知らせました」
【純米吟醸部門】「飛露喜 純米吟醸」(廣木酒造本店/福島県会津坂下町)
廃業の危機に直面した廣木酒造本店で、蔵元杜氏の廣木健司さんが起死回生をねらって1999年にデビューさせたのが「飛露喜(ひろき)」の特別純米無濾過生原酒です。その瑞々しい味わいが人気を呼び、2000年初期からの無濾過生原酒ブームの火付け役になりました。
抜群の酒質を誇る廣木酒造本店は2012年の純米酒部門で1位になったほか、純米酒と純米吟醸酒部門で過去に8回のGOLD(10位以内)を獲得する常勝蔵です。しかし、純米吟醸酒で1位になったのは初めてでした。
「僕はSAKE COMPETITIONの審査員もやらせてもらっており、自分のところの酒と他の酒蔵の酒の出来をつぶさに感じることができる立場にあります。今回は、純米吟醸酒部門に出した『飛露喜 純米吟醸』を酒質で上回るものが結構あるなと感じて、入賞は諦めていました。なので、先行して発表された純米酒部門で9位に入って、ひとまず安堵していたのです。
やや気が抜けた中での純米吟醸の発表で1位をコールされて、正直、驚きました。うちの純米吟醸酒は香りも甘味も大人しく、他の蔵のお酒に比べると目立たない存在と受け止められがちです。もちろん、蔵としては大切にしていますが、賞を取るのは難しいだろうと普段から感じていました。それが今回、自己評価が低い中で認められて意外な気持ちでしたが、それでも嬉しいことには変わりがありません」
【純米大吟醸部門】「作 朝日米」(清水清三郎商店/三重県鈴鹿市)
1998年に「作」がデビューしてから20年が過ぎました。当初から蔵元の清水慎一郎社長とコンビで「作」を成長させてきた内山智広杜氏は、抜群のセンスで酒質を向上させてきました。SAKE COMPETITIONでは第1回の2012年以来、毎年のようにGOLDを獲得しています。
ただし、なかなか1位は取れず、清水社長は内山杜氏に冗談半分で「もう2位以下はいらない」と言ったほど。
「それに発奮したわけではない」と内山さんは笑いますが、2017年に純米酒部門で1位を獲得。さらに翌2018年には純米吟醸部門で1位になり、今回の結果を受け、純米と純米吟醸と純米大吟醸の3大部門すべてで栄冠を獲得したことになりました。しかも、3年連続の1位にはただただ舌を巻くばかりです。
「品評会で受賞するのはなんであれ嬉しいものですが、今回、感慨深いのは岡山県産の朝日米で1位になったことです。朝日米は岡山県では以前から食用米として作られ、寿司店などから高く評価されてきたそうです。近年ではいい酒が造れると、岡山県の酒蔵を中心に使いはじめています。
うちでも数年前から使っていましたが、想像したよりもはるかに魅力的な米です。蒸したお米を仕込みタンクに投入した後の溶解のスピードを溶けやすい、溶けにくいと表現します。溶けやすい米は雑味も出る傾向にあるのですが、朝日米は溶けやすいのに、すっきりしているんです。アミノ酸の含有量が少ないことが主な理由ですが、それ以外にも未解明な要素があるような気がします。できた酒は、山田錦のような高級な酒米にも引けを取らない魅力を放ちます。
うちの蔵や私との相性がいいのかもしれませんが、昨年のSAKE COMPETITONの純米大吟醸部門で4位となって、手ごたえを感じていたところに今回の1位ですから喜びもひとしおです。『作』の重要なラインナップのひとつとして、これからも大切にしていきます」
【吟醸部門】「天上夢幻 大吟醸 山田錦」(中勇酒造店/宮城県加美町)
中勇酒造店は、全国新酒鑑評会で金賞獲得12年連続の記録を更新中の実力蔵。鑑評会に出品しているのは山田錦40%精米の大吟醸酒で、醸造アルコール添加のお酒です。
大吟醸はアルコールを加えない純米酒とは異なり、醸造アルコールの量や添加タイミングなどにノウハウが必要です。そのため、純米部門とは別に吟醸部門があるわけですが、中勇酒造店の上野和彦杜氏は醸造アルコール添加の卓越した技術を持っており、初出品にして栄冠を獲得しました。
「今季(30BY)の造りは、それまで造りの中核を担っていた有望な蔵人が一身上の都合で辞めてしまい、その穴を埋めきれずに造りに臨みました。営業を担当している私も蔵にどっぷりと入って造りを手伝ったのですが、当初は不安を隠せませんでした。しかし、25年のキャリアを持つ上野杜氏のリーダーシップで苦境を乗り切り、大吟醸を搾ってみたらとても良い仕上がりでした。
うちは全国新酒鑑評会以外はあまり出品してきませんでしたが、この出来なら今年はいろんなところに出してみようとなり、今回の出品に至りました。それが高い評価をいただいて、苦労が報われた気持ちです」
【Super Premium部門】「十四代 龍泉」(高木酒造/山形県村山市)
1994年の春に彗星のように登場した十四代は、わずか数年で地酒市場のスターにのし上がり、その後は順風満帆で推移しているように見えます。しかし、売れ行きに問題はなかったものの、造りの面では蔵元杜氏・高木顕統さんのストイックなまでの酒造りへの没入でたびたび体調を崩し、くり返しピンチに遭遇していたそうです。
フルーティーな味わいを魅力とする十四代もGOLDの常連蔵ですが、2012年と2013年の純米大吟醸部門でトップを獲得して以降は無冠でした。
「毎年、入荷してくる酒米の状態に合わせて修正を加え、過去最高の出来になるよう取り組んでいるので、その結果がどう評価されるのかを見るために出品しています。ブランド力アップのために上位をねらうというよりは、純粋にどう評価されるのかを見ているのですが、出品したからにはやはりトップを取りたいです。特に、親しくしている中田英寿さんから直々にトロフィーをいただけるSuper Premium部門の1位はぜひとも取りたかったので、念願が叶って満足しています。
Super Premium部門のお酒は日本酒を代表する高級酒で、輸出の尖兵的な位置づけだと思っています。ですから、他のお酒以上に、外国の方が口にするまでの酒質管理に全力を投じるべき。お酒は我々の手を離れるまで完璧に管理していても、それ以降の流通段階などの扱いによっては簡単に劣化してしまいます。『十四代』のハイエンド商品を飲む内外の方々に120%満足していただくためにも、今後もトップランナーとしてひたすら努力をしていきます」
今年で8回目をむかえ、知名度も徐々に高まっている「SAKE COMPETITION」。出品点数も前年より147点が増えて426蔵から1919点がエントリーする、名実ともに日本最大級の日本酒品評会の地位を固めています。
今回、上位に入ったお酒は一部を除いて、すぐに買える市販酒です。興味のある方は、じっくりと審査員気分で飲んでみてはいかがでしょうか。
(取材・文/空太郎)