日本酒を選ぶ基準が多様化しているなか、商品の背景について深く知ることが美味しさや楽しみ方の幅を広げてくれます。そんな日本酒の持つストーリーをたどることのおもしろさを教えてくれるのが、酒造りを支える酒米農家自身が商品設計し販売する、2016年4月リリース新しい日本酒「SEN」です。

酒米農家が商品設計から販売までを手がける日本酒

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日本酒は、造り手となる蔵元が味や香りなどの個性を設計し商品化するのが普通です。酒の原料となる、米・水・麹は重要な要素ですが、それらの生産者が商品設計に関わることはほぼありません。一般的な日本酒のラベルをみると、酒米の生産者名が記載されているものは少ないはずです。

通常、蔵元は各農家から集められた酒米をJAや米問屋を通して仕入れ、日本酒を造ります。ブレンドされた米の流通が当たり前の業界のなかで、、ひとつの田圃からひとつの日本酒をつくる「一圃一酒」という取り組みをしている酒米農家がいます。それが「SEN」の生みの親・名古屋敦さんです。

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酒米農家の息子に生まれ、サラリーマンとして東京や長野で働いた後、地元の兵庫県加西市にUターンし、米づくりをスタートしました。東京でのサラリーマン時代、帰省して稲刈りを手伝っていた名古屋さんがふと感じた疑問。それは「この米はどんな酒に使われているのか」というものでした。

その後、東京で縁あって出会った茨城の蔵元と、酒米農家を特定した日本酒を造ろうと意気投合し、酒米農家と蔵元がパートナーシップを組んだ日本酒造りがスタートしました。

「一圃一酒」の生みの親!名古屋さんにインタビュー

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名古屋さんはユニークな方です。初対面から友達のように接してくる、ゆるい雰囲気なのですが、仕事の話になれば急に鋭く冷静に。そのギャップがなんとも魅力的です。

― プロジェクトが発足したころ、酒米農家である名古屋さんの父親は取り組み自体に戸惑いもあったと聞きましたが

「30年以上、山田錦を作ってきて、自分の米を直接蔵に納めるという流れは初めてですからね。しかも、自分の名前がラベルに載るなんて本人は考えもしなかったのだと思います。

私としては想いが実現したので喜び勇んでましたが、作っていた父は『わしの米で失敗はできない。そんなプレッシャーを強く感じている』と母づてに聞きました。その父が喜んだのは、全国新酒鑑評会で金賞を取った時です。報告の電話をした時、父の反応は喜びがにじみでていて、印象深く覚えています。

『一圃一酒』の日本酒づくりに取り組んでからは入賞以上の成績を毎年取っています。これは父や私にとって、自信になっています。今では父だけでなく地域の農家も巻き込んでいろいろ進めています」

― 「SEN」の名前の由来は何ですか?

「この酒は、偶然か必然か、兵庫の酒米農家と茨城の蔵元が”線”で結ばれて生まれました。そしてその線は、お酒を贈る人と受け取る人、注ぐ人と呑む人、新たな人たちを結んでいきます。そんな一本の線(=SEN)をイメージしてのものです」

― 酒米農家が手掛ける「日本酒」で、わたしたち消費者が得られるメリットはなんでしょうか?

「メリットを語るには、この取り組みを知る人をもっと増やし反応をうかがわないといけないですね。それにはまだまだ。これからなので、がんばります!」

名古屋さんの取り組みは、 酒米農家の仕事に対するモチベーションを上げることで日本酒の品質を高め、最終的には消費者がおいしい日本酒を飲めることにつながります。酒米農家・蔵元・消費者、日本酒に関わるすべての人たちにプラスの波紋を広げていく、それがこの「SEN」の取り組みの魅力といえるでしょう。

造り手と呑み手を繋げる「SEN」の試み

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― 地域の酒米農家の課題は何でしょうか?

「地元に戻って地域を見渡すと高齢化・後継者不足の課題は、他の地域に違わずあります。そもそも、この課題があるから『SEN』の取り組みを始めました。継ぎ手がいないのは裏を返せば田を耕したい元気のある人がたくさん耕せる状況だとも言えます。

ただ、たくさん耕すにはモチベーションが必要。 お金は大事なモチベーションではありますが、仕事というのはそれだけではありません。私の場合、米を作る父親や近所の農家、杜氏、蔵元、地元や都会の酒屋、飲食店のオーナー、愛飲家の方、いろいろな方と出会い知り合えたことが、地元に戻り、新しい取り組みを始めるモチベーションになっています。酒米を取り巻く人たちを知り、フィードバックを受けられる状況で仕事をするのはおもしろい。酒造りの始まりである酒米を作る立場にいるからこそですね。

『一圃一酒』によって、米を作る人からお酒を呑む人までを、誠実に線で結んでいきたいですね。それがきっと新たな酒米農家を増やすことに繋がるので。小技はいりません。焦らず地に足つけてじっくりやっていく事業だと思っています」

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地域と人を結ぶ「SEN」という取り組みは、大きな可能性を秘めています。ラベルや香味だけでは知り得ない、酒米農家の表情や意志までも感じ取って呑む日本酒。酒好きな友人や家族などに話したくなる日本酒とは、こういうものなんだろうとイメージが膨らみます。

9月20日(火)・21日(水)には、東京・下北沢にて「SEN」の試飲販売会が開催されます。また、12月には兵庫県加西市の酒米生産田が見える場所に、地域住民と日本酒愛好家、酒米農家を繋ぐスペースもオープン予定とのこと。

日本酒のルーツをたどりに、現地まで旅に出かけてみてはいかがでしょうか?

◎「SEN 純米大吟醸」

  • 【精米歩合】40%
  • 【アルコール度数】16度以上17度未満
  • 【原材料名】米(国産)、米麹(国産米)
  • 【原料米】山田錦100%(兵庫県加西市山下町 名古屋義数 責任栽培)
  • 【製造元】白菊酒造株式会社
  • 【価格】フルボトル(720ml) 4,104円(税込)・マグナムボトル(1800ml) 8,208円(税込)
  • 【販売元】株式会社ten

(文/sake_shin)