2023年10月、全国の酒販店員が審査するという新しい形式の日本酒アワード「酒屋大賞」が初めて開催されました。

厳正な審査の結果、最高賞のGOLDに輝いたのは「みむろ杉」の今西酒造(奈良県)。続いて、SILVERは「産土」の花の香酒造(熊本県)、BRONZEは「あべ」の阿部酒造(新潟県)が受賞しました。

写真:中川達也

近年、さまざまな形式の日本酒アワードが生まれている中で、この「酒屋大賞」はどのような役割を果たしていくのでしょうか。実行委員長のカワナアキさんに、話をお伺いしました。

酒販店員が審査する日本酒アワード「酒屋大賞」

「酒屋大賞」は、全国の酒販店員が心からおすすめしたい日本酒に投票し、その年にもっともおすすめの酒蔵を選出するアワード。日本酒の流通のプロフェッショナルである酒販店員の視点で審査することで、消費者が新しい酒蔵を知るきっかけをつくり、日本酒市場を活性化させることを目指しています。

酒屋大賞2023

2023年の審査に参加したのは、酒類販売業免許を持つ事業者で勤務する、アルバイトやパートを含めた酒販店員の方々。投票の対象となる日本酒は、酒造りが一般的に毎年10月ごろにスタートすることから、2022年10月〜2023年9月に国内で市販されたものとされました。特定名称などの制限はありません。

予選のWEB投票では、「今年もっともおすすめしたい日本酒」を3本選んで投票し、もっとも多くの票数を集めた20蔵が本選に進出。本選のテイスティング投票は都内で実施され、予選を通過した20蔵が代表商品を3本ずつ出品し、酒販店員が官能評価で審査しました。

従来の日本酒アワードは、酒蔵や商品に関する一切の情報を隠して、酒質のみを評価するブラインド審査が一般的ですが、この「酒屋大賞」は、酒蔵や銘柄の情報を明らかにしたオープン審査となっているのが特徴です。

日本酒の普及に必要な「酒販店」の力

「酒屋大賞」の実行委員長を務めるカワナアキさんは、日本酒イベント「若手の夜明け」など、さまざまな企画を実施してきました。しかしその一方で、日本酒の魅力を広げるためには、造り手である酒蔵だけでなく、売り手である酒販店の力がさらに必要になるのではないかと感じていました。

「コロナ禍を通して、酒蔵と消費者が直接つながる機会が増えましたが、実際のところ、お客さんへの販売やコミュニケーションに充分な労力を割ける酒蔵は、決して多くありません。酒蔵と消費者の間に立っている酒販店が充分に機能しないと、日本酒市場は停滞してしまう。だからこそ、日本酒のさらなる普及のために、酒販店の役割に期待していきたいと考えました」

造り手と飲み手をつなぐ酒販店を盛り上げることで、日本酒市場を拡大していきたい。そんな思いから生まれたのが、酒販店員が審査する「酒屋大賞」なのです。

「日本酒市場を拡大するためには、日本酒に馴染みがない方々にも興味をもってもらう取り組みが必要です。そういう方々にとっては、自分が求めている日本酒に自力で出会うことは、本当に難しいと思います。

そこで重要になるのが、酒販店の存在。日本酒に興味をもってもらうためには、単に『情報』を伝えるだけでは不十分で、『情緒』を伝える必要があります。少なくとも現在は、それは生身の人間のコミュニケーションでしか達成できないと考えています」

「酒販店の多様性が失われている」

「酒屋大賞」のもっとも大きな特徴のひとつは、本選が、酒蔵や銘柄の情報を事前に明らかにしたオープン審査であること。他の日本酒アワードにはない形式ですが、オープン審査とした理由は何だったのでしょうか。

「前提として、酒販店に求められる能力は『キュレーション力』だと思っています。どんな日本酒を取り扱うかという『仕入れ』のスキルと、その日本酒をどのようにおすすめするかという『提案』のスキルに分けられます。

私もひとりの消費者としてさまざまな酒販店に行きますが、最近は、どの店の棚も同じ銘柄ばかりになってしまっていると感じています。銘柄に依存した商売はキュレーションではなく、ただの後追いでしかありません。どこに行っても同じような銘柄が並び、消費者との大事な接点である酒販店の多様性が失われてしまっていることに危機感がありました」

写真:中川達也

「ブラインド審査は味覚の情報のみで評価しますが、実際の接客の現場では、香りや味わいだけでなく、酒蔵や商品の周辺情報を組み合わせて伝える能力が必要です。

そこで、審査を通してこの能力の必要性を示すことで、全国の酒販店員のスキルアップにつながればと考えました。同時に、酒蔵にとっても、そのような周辺情報を酒販店に伝えるコミュニケーションが必要であることを知っていただくきっかけになってほしいと思っています」

しかしその一方で、酒蔵や商品の情報が事前にわかっているオープン審査では、実際に取り扱っている銘柄を贔屓してしまうのではないかという危惧もあります。

「基本的には性善説に基づいているのですが、審査に参加する酒販店の方々には、以下の事項に同意していただいています」

  • 低迷する日本酒業界を、流通の現場から盛り上げていくこと
  • 自社での取引の有無や社の方針にとらわれず、プロとして公明正大な評価をすること
  • 自身が飲んだことがあり、その上でお客様に心からお薦めしたいと思うお酒を選ぶこと

「自店の取り扱い銘柄を推したい理由もわかりますが、取り扱いの有無にかかわらず、フラットな視点で審査していただきたいと思っています。この点については、開催を重ねる中で、私たちが目指していることが適切に伝わっていくのではないかと考えています」

写真:中川達也

「従来の日本酒アワードの課題は、特定の商品に対して審査を行うため、結果的に受賞酒の供給不足を招いてしまうことです。アワードを通して、特定の商品が注目されたとしても、飲めない・買えない状況が続いてしまえば、その魅力は一般化されません。

だからこそ、予選は商品への投票としましたが、最終的には酒蔵を表彰する形式としました。特定の商品ではなく、その商品を造る酒蔵を評価することで、中長期的な消費をつくることができるのではないかと考えています」

日本酒の新たな飲み手を増やすために

2023年の審査結果について、「日本酒のコアファンから見れば、トップ3はいつもの人気銘柄という印象かもしれませんが、『酒屋大賞』のターゲットは日本酒にまだ馴染みのない方々です」と語るカワナさん。

「日本酒に馴染みのない消費者にとっては、『みむろ杉』も『産土』も『あべ』も、ほとんど知られていない銘柄だと思います。私たちの目的は“新しい飲み手”を増やすことです。日本酒に馴染みのない方々が『酒屋大賞』を通して受賞蔵を知り、日本酒に興味を持ってくれるようになる仕組みをつくることで、日本酒の市場がさらに拡大していくのではないかと考えています」

次回以降の展望については「第2回は来年(2024年)の11月ごろに開催する予定ですが、少なくとも10年は続けていきたいと思っています」と話してくれました。この「酒屋大賞」がこれからどのように成長していくのか、期待しましょう。

(取材・文:SAKETIMES編集長 小池潤)

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