新潟県長岡市で1830年に創業し、1985年に銘酒「久保田」を世に送り出した朝日酒造は、長らく他企業との日本酒での協業やコラボを行ったことがありませんでした。その歴史が塗り替えられたのは、2017年。同じ新潟に本社があるアウトドアブランド「スノーピーク」とともに、新たな日本酒「久保田 雪峰」を共同開発したのです。

「久保田 雪峰」と「爽醸 久保田 雪峰」

2017年と2019年にリリースされた「久保田 雪峰 (画像左)」と「爽醸 久保田 雪峰 (画像右)」

それまで頑なに自社開発にこだわり、孤高の道を貫いた朝日酒造が、なぜ協業の一歩を踏み出したのか。そして、大手飲料メーカーなどさまざまな企業とのコラボに取り組んできたスノーピークが、なぜ朝日酒造をパートナーに選んだのか。その背景を紐解きます。

「朝日酒造しか考えられなかった」

1985年に誕生した久保田は、品質本位の酒造りを続けてきた朝日酒造のフラッグシップとして、多くの日本酒ファンを魅了してきました。その味わいは、まさに淡麗辛口の王道。飲み飽きないやわらかな口当たりと、すっきりとしたキレのある味わいに、世代や性別にかかわらず、多くの人から愛されてきたのです。

そんな久保田とのコラボを果たしたのは「スノーピーク」。総合アウトドアブランドとしてキャンプシーンを提案し、徹底的にユーザー本位の商品開発を行う姿勢にはファンも多く、現在では日本のみならず、韓国やアメリカなど海外にも店舗を構えています。

スノーピーク本社の外観

スノーピークが拠点を置くのは新潟県三条市。実は、朝日酒造とほど近い距離にあるのです。

「朝日酒造さんほど長い歴史はありませんが、同じ新潟の地に根を下ろし、自然相手の仕事をしています。キャンプは自然がなければ成立しませんし、酒造りも米を育て、水を汲み、ときには空気さえも味方にする。自然を崇拝し、その素晴らしさを世に届けるという意味では共感を覚えていました」

そう語るのは、スノーピーク執行役員・企画開発本部長CPDOの林良治さんです。

株式会社スノーピーク執行役員・企画開発本部長CPDOの林良治さん

「久保田 雪峰」という新たな日本酒が生まれるにあたって、はじめにアイデアの種を蒔いたのはスノーピークでした。さまざまなコラボを行なっているスノーピークですが、そのほとんどはコラボ先からの申し出によるもの。オファーをもらったものの、お断りする場合も少なくないと言います。そんななか、朝日酒造とのコラボは数少ない、スノーピーク発信のプロジェクトでした。

「当時、さまざまな切り口で『キャンプで楽しむ飲み物』を考えていて、爽快でライトに楽しめるものという方向へ進んでいました。一方で『夜、焚き火にあたりながらじっくりと味わう飲み物』が欲しい気持ちも強くなってきたのです。

選択肢に日本酒がふと浮かんだとき、同じ新潟で酒造りを続けてきた、長いスパンでお付き合いできる酒蔵というと、朝日酒造さんしか考えられませんでした。しかも、久保田という確固たるブランドを築き、硬派なまでにそれを守り抜いている。自分たちのブランドを大切している我々にとっても、その姿勢は共感できるものでした」

久保田「萬寿」のボトル

スノーピークが朝日酒造に提案したのは「アウトドアで楽しめる日本酒」の共同開発。自然のなかで日本酒を味わい、友人や家族と語らう時間......そんなキャンプシーンを構成するキーアイテムとして、新たな日本酒を求めたのです。

「キャンプで日本酒を飲むなんて、考えもしませんでした」と振り返るのは、久保田の新商品開発に携わっている朝日酒造の商品開発部部長・田村博康さん。それまで朝日酒造が他企業と手を組まなかったのは、実直なまでに品質本位の酒造りを続けてきた反動もあったのではないかと田村さんは話します。

朝日酒造株式会社・企画開発部部長の田村博康さん

「とにかく日本酒を極め、いかに美味しく飲んでいただけるか。そう考えたとき、我々にできるのは真摯な酒造りを続けることだと信じてきました。ですから、誰かと組むことが美味しさにどう結びつくのか、意識できていなかったのかもしれません。けれど、社長が『久保田をもっと楽しめる可能性やシーンを考えていこう』と掲げた矢先での申し出だったので、良いタイミングでした」

また、同じ地元企業として、スノーピークが主催するイベントにも朝日酒造はここ数年出展していました。お互いの考え方を理解し信頼関係を築いてきたことも、コラボを後押しするきっかけとなりました。まさに相思相愛で、プロジェクトが始まったのです。

"久保田らしさ"から、あえて離れる

コラボの皮切りになったのは「久保田 雪峰」でした。力強く、懐の深い山廃仕込の味わいに、漆黒のボトルに黒のプリントで刻まれた「久保田」の文字。これまでの久保田とは明確に異なる、まさにコラボでしか実現し得ない日本酒となりました。

「久保田 雪峰」とキャンプシーン

「これまでの久保田だったら、この味わいは出せていなかった」と振り返る田村さん。スノーピークのコンセプトであった「夜、焚き火にあたりながら、じっくりと味わう飲み物」に沿った試作品を数種類造り、両社によるテイスティングで選ばれたのは、もっとも意外な日本酒だったと言います。

「最終的に選ばれたものは、久保田を造る側としては『ワイルドすぎる』と候補から外してしまうものでした。しかし、キャンプではバーベキューやグリル料理など、味の濃い料理を食べることも多い。それなら、その味わいに負けないくらい振り切って、山廃の力強さを引き立たせるべきだと納得しましたね」(田村さん)

「多くの商品開発では『なるべく多くの人に支持され、幅広い年代にも好まれるように』と、気軽でライトなものを考えがちかもしれません」と話す林さん。スノーピークの商品開発には、ポリシーがあるといいます。

「我々は商品をつくるとき、いつも『こういうシーンでこういう時間、こういう人のための商品がほしい』と、明確にイメージを限定するのです。今回のイメージは『焚き火を起こすくらい少し肌寒い夜、友人や家族、大切な人と食事を囲むときに飲むもの』。そのコンセプトに沿って試作していただき、『これだね』と一致したものが、この力強い日本酒だったのです」

朝日酒造株式会社・企画開発部部長の田村博康さんと株式会社スノーピーク執行役員・企画開発本部長CPDOの林良治さん

そして、スノーピークによるボトルデザインも、これまでの"久保田らしさ"から少し逸脱したもの。久保田の顔とも言える、手漉きの和紙ラベルを使用せず、夜をイメージした漆黒のデザインが目を引きます。

「朝日酒造さんにはこれまで培ってきた長い歴史がありますから、イメージをがらりと変えてしまうのではなく、和紙を黒く塗ってみたり、白抜きで銘柄名を書いたり......もっとおとなしいデザインもご提案していたのです。けれども実際にプロジェクトを進めていくと、むしろ朝日酒造さんのほうがチャレンジング。このデザインも『ぜひ、これにしましょう』と細田社長が即決してくださいました」(林さん)。

そこには、もともと朝日酒造が持っていたイノベーティブなマインドがうかがえます。

朝日酒造の蔵外観

「朝日酒造はこれまで、当時としては珍しかったスパークリング日本酒やワインに近い味わいの日本酒など、かなり挑戦的な商品開発をしていました。実らないものもたくさんありましたが、そのなかで生まれたのが、『久保田』だったのです。今回、スノーピークさんに提案してもらったからこそ、思い切った決断ができた。私たちだけでは考えつかない、新たな方向性を見出す鍵になったと思います」(田村さん)。

「アウトドアで日本酒を楽しむ。」を文化に

2017年9月に限定発売された「久保田 雪峰」は、双方に新規顧客を呼び込む大きな機会となりました。

「営業時代に担当していた酒屋さんに聞いてみると、『いままで来たことのなかったお客様が買っていくんだよ』と、喜んでいました。居酒屋で飲む以外のシーンをお客様にご提案できたことは、本当に良かったと感じます」と、田村さん。

株式会社スノーピーク(新潟県三条市)と朝日酒造株式会社(新潟県長岡市)が発売する「久保田 雪峰」とアウトドア料理の写真

「もともとキャンパーだったお客様にも『実際に飲んでみたら、本当に美味しかった』と喜んでいただけました。また、『キャンプで日本酒』を体験するために、はじめてキャンプ用品を買い揃えてくださるお客様もいらっしゃいました。

なぜ今までなかったんだろうと不思議に思うくらい、マスターピースとしてぴったりとはまった。夜に自然のなかで仲間や家族と焚き火を囲み、ただお酒を飲んで語らう。それがかけがえのない時間になる。僕ら自身も『間違いない』と思って提案しましたが、多くの人々にその楽しさを実感いただけたと思います」と、林さんも言葉を続けます。

こうして始まった、朝日酒造とスノーピークのコラボ。2019年4月には、新たな商品として「爽醸 久保田 雪峰」が限定発売されました。「久保田 雪峰」と対をなす、「昼」をイメージした純白のボトルデザインに、マスカットやメロンを思わせる爽快な香りと甘味、酸味の調和が取れた味わい。その軽やかな余韻は、爽やかな青空のもと、キリッと冷やして飲むにふさわしい日本酒です。

「爽醸 久保田 雪峰」とキャンプの風景

「『久保田 雪峰』を夜、そして秋から冬にかけて飲むような味わいとするなら、一日と四季のサイクルを表現できるように、もうひとつ日本酒を生み出すことができないか。プロジェクトがはじまったころから、そんな期待感がありました。『爽醸 久保田 雪峰』は、春から夏にかけての陽射しのなかで、スーッと清涼感を感じられるようなイメージ。それを味わいでも、デザインでも表現しました」と林さんは話します。

「昼と夜、そして春夏秋冬。これらをカバーする、ふたつのピースがやっと出揃ったところ。まずはこの2軸で『アウトドアで日本酒を楽しむ。』ことを、キャンプの文化のひとつとして根づかせたいですね」

「相思相愛」のコラボはつづく

2019年は、7月5日に「久保田 雪峰」が発売されます。また、9月29日まで新潟市の信濃川やすらぎ堤で開催される水辺アウトドアラウンジ「やすらぎ堤」では、朝日酒造が「Outdoor bar by 久保田」を7月13日〜15日に限定出店。スノーピークとのコラボレーションは続いていきます。

朝日酒造株式会社・企画開発部部長の田村博康さんと株式会社スノーピーク執行役員・企画開発本部長CPDOの林良治さん

「キャンプで『久保田 雪峰』を飲みながら、いろいろと話していくなかで、またこれからのことが思い浮かぶんじゃないかな」と笑う林さんに、「私たちも日本酒の多様な楽しみ方を体感して、新たなシーンを考え、お客様にご提案していきたいですね。ぜひ、ごいっしょさせてください」と、田村さんも答えます。

朝日酒造とスノーピークとの新たな展開に、これからも目が離せません。

(文/大矢幸世)

sponsored by 朝日酒造株式会社

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます