兵庫県の老舗酒蔵・菊正宗酒造が、実に130年ぶりとなる新ブランド「百黙」をリリースして早2年。地元県内限定で先行販売されているこの新銘柄は、着実に根強いファンを獲得してきました。
そんな「百黙」の次なる展開は、世界進出。今回は、その皮切りとなる、フランス・パリで開催されたお披露目パーティーの様子をお伝えします。
会場は、パリを代表する三ツ星レストラン
パリで行われた「百黙」のお披露目パーティー。司会を務めたのは、元フジテレビアナウンサーで、現在はパリ在住の中村江里子さんです。会場は、シャンゼリゼに位置する、1792年創業のミシュラン三ツ星レストラン「ルドワイヤン」。かの偉人・ナポレオンとその妻・ジョセフィーヌがこよなく愛したレストランとしても知られています。
会場は、国内外の著名なシェフを始め、多くの招待客でにぎわっていました。
最初に、菊正宗酒造の代表取締役社長・嘉納治郎右衞門氏から挨拶がありました。
「日本では、米づくりを司る『田の神』の存在が古来から信じられてきました。人々は神に豊作を祈り、そして、豊穣に感謝する儀式やお祭りを行ってきたのです。その伝統を引き継ぎながら、兵庫県の吉川町では、最上級の酒米が育まれてきました」
「本日ご紹介する『百黙』は、特Aランクに格付けされた最高の土壌で育まれた米と、伝統と革新による酒造りによって生まれたお酒です。自然と人間がていねいに織りなした物語をグラスの中に感じていただけたら、こんなにうれしいことはありません。私たちの夢は、このお酒が『世界の食と人を繋いでいくこと』、そして『心をつなぐ酒になること』です。その物語は、今日のこの小さな会から始まるのです」
嘉納氏の言葉とともに、この会のために限定で醸造された「百黙 純米大吟醸 無濾過原酒」で乾杯。日仏友好160周年となる今年、日本酒がフランスと日本の友好関係に貢献できることを祈りながら、グラスを合わせます。
「百黙」のラインアップは3種類
今回のお披露目パーティーで提供されたのは、「百黙 純米大吟醸」(画像中央)、4月から地元・兵庫県で先行してリリースされた純米吟醸(画像左)とAlt.3(画像右)の3種類。海外事業部の良津智成氏から、それぞれの特徴について、解説がありました。
百黙 純米大吟醸
兵庫県の特A地区で収穫された大粒の山田錦を39%まで精米した一本。華やかで広がりのある果実香、上品な甘味、いきいきとした酸味、そして、心地良い苦味を伴い全体を引き締める余韻が特徴です。
百黙 純米吟醸
同じく、特A地区の山田錦を59%まで精米しました。熟した洋梨を思わせる味わいの後、プラムや黄桃のような甘味が全体に厚みをもたらし、口の中が華やかに充実していきます。米の旨味とほのかな酸味が、濃醇な味わいのなかに、ドライで軽やかな余韻を残しています。
百黙 Alt.3(オルトスリー)
「Alt.3」とは、"第三の選択"という意味。最高品質の山田錦で醸された複数の原酒を、熟練のブレンダーが高い技術と研ぎ澄まされた感覚でブレンドしました。華やかさのなかに、ふくらみのある甘味と苦味、そしてフレッシュさと旨味が渾然一体となった、絶妙なバランスの一本です。
これまで100年以上、菊正宗酒造と契約栽培を続けている嘉納会によって生産された特A地区の貴重な山田錦。そして、銘醸地・灘の酒造りに欠かせない六甲山系から流れる「宮水」。地元・兵庫県の原料にこだわった「百黙」は、どのタイプも、地域のテロワールを充分に感じられる味わいに仕上がっていました。
「百黙」に合わせて、パリでもっとも注目されているシェフのひとり、ヤニック・アレノ氏と、その右腕である廻神(めぐりかみ)氏が、数ヶ月の構想を経て準備した特別メニューも提供されました。
百黙とオリジナル料理の素晴らしいマリアージュに、会場からは歓喜の声が上がります。参加した現地の方々は、存分に百黙を堪能している様子でした。
厳選された米と水で造られる「百黙」
菊正宗酒造の総合研究所所長・山田翼(やまだ たすく)氏からは、原料である米と水についての話がありました。
「私たちが使用しているのは、特A地区で育てられた山田錦です。この酒米の真価を発揮させるためには、大粒になるまで成長を促し、大きな心白(米の中心にある半透明の部分)を形成することが必要。つまり、何が何でも山田錦であれば良いというわけではありません。
最高品質の山田錦の栽培には2つの条件があります。8月から10月にかけて、昼夜の気温差が大きいこと。そして、土壌が粘土質であること。日本ではこれを満たす地域が少ないですが、兵庫県三木市吉川の特A地区と呼ばれるエリアは、この条件にぴったりと合致しています」
「仕込みに使う水については、蔵から少し離れた西宮の湧き水『宮水』を使用しています。カリウム、マグネシウム、リンなど、酵母の働きを助ける成分が多く含まれる一方で、鉄分など、日本酒の醸造に好ましくない物質が少なく、酒造りに適しているのです」
最高の米と最高の水。「百黙」の上質な味わいには、地域のもたらした最高の原料がありました。
食のトレンドを発信している国々へ
「百黙」のブランディングや今後の展開について、嘉納社長は「『百黙』の開発には、構想も含めて5年以上の歳月を費やしました。菊正宗というと、辛口の純米酒や樽酒など、"伝統的な日本酒"のイメージが強いと思います。『百黙』は、こうした従来のイメージを一新したいという思いで開発しました」とのこと。
たしかに「百黙」のラベルには、「菊正宗」の文字がありません。新たなブランドとしての意気込みが、強く感じられます。
冒頭の言葉にあった「私たちの夢は、このお酒が『世界の食と人を繋いでいくこと』、そして『心をつなぐ酒になること』です」という思いを、これからどのようなかたちで実現していくのか、わくわくしながら注目しましょう。
今後、食の都・パリでの発表会を皮切りに、シンガポールやニューヨークなど、食のトレンドの発信地となっている市場へと挑戦していく予定だそう。
世界へ羽ばたく「百黙」のこれからに、期待が高まります。
(文/SAKERINA)