新潟県新発田市に蔵を構える菊水酒造は「ふなぐち菊水一番しぼり」や「菊水の辛口」など、多くのロングセラー商品をもつ酒蔵です。コンビニやスーパーで気軽に手に取ることができ、暮らしに寄り添った日本酒でありながら高品質。菊水酒造は、そんな"大衆の酒"を造り続けてきました。
しかし、菊水酒造の魅力はそればかりではありません。デイリーな日本酒を造る一方で、四合瓶で1万円を超えるプレミアム日本酒も造っているのです。創業以来、菊水酒造が培ってきた酒造りの技術を注ぎ込んだ純米大吟醸酒こそが「蔵光(くらみつ)」です。
「蔵光」とは、どんな日本酒なのでしょうか。商品コンセプトや酒米の選定、造りのこだわりなど、さまざまな角度から「蔵光」を紐解きます。
原点に立ち返った「蔵光」
「蔵光」が誕生したのは2012年。「ハレの日、人生最良の日を祝える贈答にふさわしい酒をつくろうというところから始まりました」と話すのは、「蔵光」の商品開発に携わった研究開発部の水澤正成さんです。
「当初、大吟醸クラスの別商品がありましたが、もっと菊水酒造の個性を打ち出した商品を造ることになったんです。新商品を造るのなら、私たちの技術を総動員して最高の一本にしたいと考えたのが最初のコンセプトです」
使用する米は、魚沼産コシヒカリを選びました。高価格の日本酒には、食用米ではなく酒米が使われることが一般的ですが、この選択にも菊水酒造らしい考えが表れています。
「自分たちのお客さんは、日本酒マニアの方々ではないんです」と話す水澤さんの言葉どおり、菊水酒造は一般の方々から広く愛されている酒蔵。だからこそ、誰もが知るブランド米「魚沼産コシヒカリ」を選びました。
また、「蔵光」の印象的なポイントは、真っ黒で凛とした装いのシンプルな瓶。贈答用というと、金や銀の華やかなパッケージが浮かびますが、シンプルなデザインです。
「『蔵光』というのは新発田市の地名で、菊水酒造が創業した地です。そこから名前をとった『蔵光』には、原点に立ち返ろうという思いも込めています。なので、豪華絢爛なものは創業者・髙澤節五郎のイメージにそぐわないと、シンプルなデザインを採用しました」
中央にある金色の部分は、初代節五郎の酒造りに対する気概が、大きな灯となって上昇しているイメージ。さらに、注ぎ口の下には和紙が貼られています。曲面に和紙を貼り付けるのは、かなり繊細な作業が必要とのこと。
「これは、風呂敷などで『包む』という日本の文化を表現しています。デザイン、パッケージ、ボトル......そのひとつひとつに意味が込められているんです」
復活を遂げた酒米「菊水」を23%精米
「蔵光」の大きな特徴のひとつが、23%という精米歩合です。
「当時、試したことがあったのは、精米歩合35%まで。そこから先は予想ができませんでした」と話すのは、精米を担当する生産部の橋本幸次さんです。初めての挑戦でしたが、橋本さんは見事に23%まで米を磨き上げました。
「蔵光」が世に出てから5年が経った2017年、さらなる挑戦が待っていました。使用する原料米を、それまで使用していた魚沼産コシヒカリから酒米「菊水」に変えることになったのです。
菊水酒造は地元である新発田市とともに歩んでいくために、さまざまな取り組みを行っています。酒米「菊水」の栽培もそのひとつ。「菊水」は新潟県を代表する酒米の五百万石や越淡麗の祖先で、戦時中に一度途絶えた酒米です。
偶然にも同じ名前を冠することに深い縁を感じた菊水酒造は「菊水」の復活に関わり、毎年米を育て、主に大吟醸酒の原料米に使用しています。
菊水酒造としても特別な想いを持つ酒米「菊水」で「蔵光」を醸すことは、菊水酒造の念願であり、同時に大きな挑戦でもありました。
しかし、酒米「菊水」はコシヒカリよりも脆く、割れやすい特徴があります。今までと同じ精米方法では、米が粉々になってしまう恐れもありました。「正直なところ、『菊水』を23%まで磨くのは無理ではないかと思いました」と橋本さんは当時を振り返ります。
それでも、不可能と思われていた精米は無事に成功します。
「私の力なんて微々たるものです。農家さんの協力がなければ、今の『蔵光』はありませんでした」と話す橋本さんは、精米方法の工夫だけでなく、米自体の質も上げようと、酒米「菊水」の生産者の方々との協力体制も築いていきました。
ゆっくりていねいに磨きながらも、時間をかけ続ければ米が砕けてしまいます。日頃、12時間かけて行われるのに対して、100時間にも及ぶ精米は緊張の連続です。
夜通し動き続ける精米機のもとへ、毎朝足を運ぶ橋本さん。米の状態をつぶさに確認し、「もう少し磨けるだろうか」「もう少し優しく磨こうか」と、精米の具合を調整していきます。
そんな繊細な仕事を経て、ようやく「菊水」を精米歩合23%まで磨き上げることに成功したのです。しかし、これで終わりではなく、橋本さんはさらに上を目指します。
「米の質はもっと上げられるはずなんです。精米歩合は同じ23%でも、米が砕けるのを極力防ぐことや、米の形を均等にすることなど、まだまだ改善できる部分はある。『蔵光』がもっと良い酒になるように、これからも力を尽くします」
究極のバランスを「お客様目線」で追求する
精米のあとは、造りの工程へとバトンが渡されます。「蔵光」が生まれた時からずっと造りに携わってきた生産部の伊藤淳さんに話を伺いました。
「酒造りは米にどのくらい吸水させるかが命です。米は磨けば磨くほど、それだけ米が小さくなり、水をよく吸ってしまう。吸水は特に気を使いますね」
通常の吸水時間は30分ほどですが、「蔵光」ではなんと5〜6分。ただし、米の状態や天候によって微調整が必要なので、目で見て、手で触れて、ベストな時間を探っていくとのこと。
「蔵光」が目指す味わいを伺うと、「すっきりとしすぎず、甘みが入りすぎず、バランスのとれている味わいが理想」とのこと。米を磨くにつれて、すっきりとした味わいになっていきますが、そればかりを追求しているわけではないといいます。
「お客様がこの酒に求めているのは、すっきりとした味わいを極めたものではなく、麹そのものの甘さが感じられるような味わいじゃないかと思うんです。『どこまで磨くことができるか』というのは、言ってみれば造り手のチャレンジにすぎない。酒はお客様のものであり、飲んでくださる方がいなければ成り立ちません。菊水の米と技術で究極のバランスを求めながらも、常にお客様のことを考えて造っています」
価格だけを見れば、「蔵光」は菊水酒造のなかではトップクラス。しかし、「それは気にしないでほしい」と伊藤さんは話します。
「値段が高いから良い酒というわけではないですよ。そこは好みです。『ふなぐち菊水一番しぼり』や『菊水の辛口』の方が好きな方もいるでしょう。そのなかで、たまに『蔵光』も良いなと思ってもらえたらうれしいですね。まずは一口、飲んでみてください」
"挑戦し続ける蔵"を体現した一本
「蔵光」のコンセプトづくりを担当した水澤さんは「これまでの経験の域を超えた異次元の酒造りだったので、どんな味わいが生み出されるのか予測がしきれず、正直なところ不安でたまらなかったんですよ」と微笑みます。
しかし、完成したものをひと口飲んで、その不安は一気に払拭されたといいます。これこそが「蔵光」。想像を遥かに超えた菊水酒造の究極である、と。
「試飲にいらっしゃったお客様が、一口飲んで、無言でニヤッとされたことがあったんです。そんな反応を見るのは初めてだったので、とても印象的でした。お客様の期待を超えたと確信することができたんです」
「ふなぐち菊水一番しぼり」や「菊水の辛口」などの開発を通して、菊水酒造は慣習や常識を打ち破るさまざまな挑戦を行ってきました。これまで紡いできた酒造りの歴史と思いがあったからこそ、「蔵光」は世に出ることができたのでしょう。
菊水酒造の技術を結集させた「蔵光」は、「挑戦し続ける蔵でありたい」という思いが詰まった一本です。大切な人への贈り物に、がんばった自分へのご褒美に。とっておきの一本を、ぜひご堪能ください。
◎商品概要
- 商品名:純米大吟醸「蔵光」
- 容器容量:750ml
- 原材料:米、米こうじ
- 原料米:新潟県産「菊水」100%使用
- 精米歩合:23%
- アルコール分:15度
- 価格:10,000円(税別)
(取材・文/藪内久美子)
sponsored by 菊水酒造株式会社