日本酒造りの重要な工程のひとつである「精米」。
この「精米」の技術が、広島県東広島市の精米機器メーカー・株式会社サタケによって、大きくアップデートされ始めています。サタケが提案する新しい精米技術が「真吟(しんぎん)精米」です。
日本一おいしい市販酒を決める日本酒の品評会「SAKE COMPETITION 2024」の純米酒部門では、この真吟精米を活用した今田酒造本店(広島県)と新澤醸造店(宮城県)の日本酒が、出品酒261点の中で第1位と第2位に輝きました。
真吟精米を実際に活用している酒蔵は、その魅力をどのように感じているのでしょうか。SAKETIMES編集長の小池が、今田酒造本店の代表取締役・今田美穂さんと、新澤醸造店の代表取締役・新澤巖夫さんに話を聞きました。
新しい精米技術「真吟精米」とは
「純米大吟醸」や「本醸造」などの「特定名称」という区分は、消費者が日本酒を選ぶ時の基準のひとつとして機能してきました。
特定名称の主な基準は、米の削り具合を示す「精米歩合」という数値で、一般的に「米を削るほど(=精米歩合の数値が少ないほど)雑味がなくすっきりとした味になる」と考えられています。
サタケが着目したのは、精米する時の「形」。
これまでの精米方法では、米の形が丸くなるように削っていました(球形精米)。対して、サタケの新しい精米技術「真吟精米」は、米をもともとの形に沿って削ることで、平べったいラグビーボールのような形になります。
この精米方法では、お酒の雑味の原因となるタンパク質を効率的に取り除くことができるため、真吟精米を用いた精米歩合60%の吟醸酒で、球形精米における精米歩合40%の大吟醸酒のような香りや味わいを実現できるといいます。
これらの精米方法は、精米する形によって「原形精米」「扁平精米」と呼ばれていましたが、サタケでは、これらの新しい技術を総称して「真吟精米」と名付けています。
「富久長」と「伯楽星」が語る真吟精米の魅力
2024年に開催された日本酒コンテスト「SAKE COMPETITION」の純米酒部門では、第1位に今田酒造本店の「富久長 新橋の男達(おやじ)の酒」、第2位に新澤醸造店の「伯楽星 特別純米」が選ばれました。どちらの日本酒も、最新の精米技術「真吟精米」を活用しています。
全国の酒蔵の中でも、真吟精米をいち早く導入した今田酒造本店と新澤醸造店に、真吟精米の魅力についてお伺いしました。
小池:まずは、真吟精米を活用し始めたきっかけについて教えてください。おふたりの中では、今田さんのほうが先に導入していましたよね。
今田:2018年に参加したセミナーで、サタケの技術者さんが新しい精米技術として「扁平精米」について講演してくださいました。その内容が本当に素晴らしかったんです。
サタケさんは日本で初めて動力式精米機を開発したメーカーですが、それから100年以上が経った今でも、日本酒をよりおいしくするための研究を続けている。その成果として新しい精米方法が生まれたことに感動しました。
今田:近年の日本酒業界は、景気が良いとは言えない状況が続いていますが、そんな中でも常に技術を磨いていかなければならないんだと、広島県の酒造りの歴史や伝統から喝を入れられたような気持ちでしたね。
講演会の直後にお声かけしたら、「テスト機があるので、実際に試してみませんか」と提案してくださって。それから試験的に導入し、現在は最新の精米機が導入されている兵庫県の精米所に委託しています。
小池:新澤さんは、真吟精米で造った今田酒造本店の日本酒を飲んで、導入を決めたんですよね。
新澤:噂は聞いていたんですが、精米機は何千万円もする投資なので、実物を見ずに買うわけにはいきません。そこで、真吟精米に関するセミナーに参加したんです。その場で実際に真吟精米の「富久長」を飲んだら、明らかにすごくて。「精米機ひとつでこんなに違うのか」と衝撃を受けて、その日のうちに2台注文しました。
今田:それはすごい(笑)。
真吟精米が生み出す余韻のキレ
小池:真吟精米によって、日本酒の品質はどのように変わるのでしょうか。
今田:もっとも大きな変化は、雑味につながるアミノ酸が圧倒的に減ることです。アミノ酸は酒造りの終盤に出てくるんですが、どうにかして減らせないかと、ずっと悩んでいたんです。真吟精米を初めて試した時は、本当に夢みたいだと思いました。
新澤:アミノ酸はコンテストの審査で大きく差が出る部分ですね。テイスティングのプロは、最初に感じる香りや味わいと同じくらい「余韻」に重点を置いて審査するんですが、アミノ酸の少ないお酒は余韻がパッと消えるんです。
また、品質が劣化しにくくなるので、飲食店で提供される時も、最後の1杯までおいしく飲めますよ。
新澤:精米以外の工程でアミノ酸を抑えることもできますが、他の必要な成分も出にくくなってしまうので、薄っぺらい味になってしまう。真吟精米を使えば、理想の味を目指しながら、余韻の質を高めることができます。
実際に真吟精米を導入してから、「SAKE COMPETITION」をはじめ、品評会で評価されやすくなりました。品評会で良い成績を収めると業界外からの引き合いが増えるので、その効果を考えれば、すでに元は取れていますね。
新澤:特に精米歩合が55〜70%くらいの商品は劇的に変化します。高価格帯の商品を丁寧に造るのは当たり前ですが、リーズナブルな定番商品もきちんとおいしいものを造りたいので、真吟精米の存在はありがたいです。
うちは委託精米を請け負っているので、知り合いの酒蔵にも「まずは一度やってみて比べてみたら」と提案しています。そうすると、酒米を洗った時に糠(ぬか)が少ないので、みんな驚きますよ。
今田:昨年は高温障害の影響で酒米が固く溶けにくかったのですが、真吟精米をすると米が溶けやすくなるという傾向もあります。
小池:酒米の品質が良くない場合でも精米でリカバリーできるのは、酒蔵としてはありがたいことですよね。気候変動によって、酒米の栽培が難しい状況はこれからも続いていくかもしれないので。
今田:他にも、真吟精米を使うとマスカットのような香りが出やすくなるなど、実際に造ってみてわかったこともあります。
酵母の発酵が旺盛になるという傾向もあるのですが、例えば「発酵力の弱い酵母と組み合わせてみたらどんなお酒になるだろう」という新しいアイディアも出てくるんですよ。
真吟精米で、日本酒はもっとおいしくなる。
小池:「SAKE COMPETITION 2024」では、真吟精米の日本酒が純米酒部門の第1位・第2位に輝きました。発表を聞いた時は、どのような心境でしたか。
新澤:表彰式が終わってすぐに、サタケさんに連絡しましたよ。「第1位と第2位が真吟精米だって、もっとアピールしたほうがいいよ!」って(笑)。
今田:私はその時、仕事で海外にいたんです。まさか入賞するとは思っていなかったので、驚きましたよ。
小池:第1位となった「富久長 新橋の男達の酒」は、初めから真吟精米をしていたお酒なんでしょうか。
今田:2008年に発売した商品なんですが、2年前に真吟精米を委託できるようになって、そのタイミングで切り替えました。定番商品のほとんどを真吟精米にしましたが、どれも品質が上がりましたね。
新澤:うちは真吟精米のおかげでコンテストに入賞できるようになったので、受賞を聞いて「試しに精米してみたい」と連絡してくれる酒蔵さんが増えました。
小池:おふたりは、真吟精米が日本酒にどのような影響を与えていくと考えていますか。
今田:麹菌や酵母と同じくらい、精米方法が酒質に与える影響は大きいと思っています。
海外では、ワインとの違いを説明するときに精米の話をします。原料である米とブドウの違いをより意識していただくことで、「ワインとはまったく違うものなんだ」と納得してもらいやすいんです。精米した酒米を実際に見せて触っていただくのも効果的です。
新澤:単純に日本酒がもっと美味しくなると思います。
近年、クラフトサケ(※)などの新しいお酒も登場し、米以外の原料を使ったお酒が楽しまれている中で、精米歩合をわざわざ確認しながら飲んでいる人は少なくなってきています。もちろん、造り手としては精米歩合の細かい違いにこだわっていますが、お客さんにとってはあまり意味がない数字だとも思います。
今田:新澤さんの言うとおりですね。お客さんはとにかく美味しいものをなるべくリーズナブルに飲みたいはず。その要求に応えるためのひとつの手段として、真吟精米があるのだと思います。
精米機器メーカーのサタケが、日本酒の新しい精米技術として生み出した「真吟精米」。今田酒造本店と新澤醸造店のおふたりの話からは、日本酒造りにおける精米の重要性と、真吟精米の大きな可能性を感じました。
真吟精米の日本酒を飲んで、進化を続ける日本酒のおいしさを体験してみてください。
(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)
※この記事における「クラフトサケ」は、クラフトサケブリュワリー協会の定義をもとにした、「日本酒の製造技術をベースにしながら、従来の日本酒にはない味や香りが楽しめる醸造酒」という意味です。フルーツやハーブなどの副原料を発酵過程で取り入れた「ボタニカルSAKE」や、もろみを搾る工程を経ない「どぶろく」の一部などが、それにあたります。酒税法上では「清酒」ではなく、「その他の醸造酒」や「雑酒」などに区分されます。
◎真吟精米の日本酒のラインナップ
- 今田酒造本店(2024年10月現在)
- 富久長 八反草 純米 ハイブリッド生酛 特別栽培米R3 2022BY
- 富久長 八反草 純米 ハイブリッド生酛 特別栽培米R4 2022BY
- 富久長 八反草 サタケシリーズ GENKEI
- 富久長 八反草 サタケシリーズ HENPEI
- 富久長 八反草 純米吟醸
- 富久長 辛口純米
- 富久長 辛口純米 夏
- 富久長 秋櫻 純米 ひやおろし
- 富久長 Bon Time Style:B
- 富久長 新橋の男達(おやじ)の酒
- 新澤醸造店(2024年10月現在)
- 愛宕の松 本醸造
- 愛宕の松 別仕込 本醸造
- あたごのまつ 鮮烈辛口
- あたごのまつ 特別純米
- あたごのまつ 純米吟醸 ささら
- 伯楽星 特別純米
- 伯楽星 純米吟醸
- 伯楽星 純米吟醸 雄町
- もえ姫 純米大吟醸
- 他の酒蔵のラインナップについては、サタケの公式サイトをご覧ください。
Sponsored by 株式会社サタケ