近年人気を博するスパークリング日本酒の市場を賑わせてきた、松竹梅白壁蔵「澪(みお)」スパークリング清酒(以下、「澪」)。コンビニでも買えるその身近さから、「飲んだことがある」という方も多いのではないでしょうか。
2021年に発売10周年を迎える「澪」はアルコール分5%と低度数で、しゅわしゅわと喉越しがよく、フルーティーで甘い味わいが特徴です。普段日本酒を飲まない若い層を中心に人気となりました。
特徴は味わいだけではなくブルーのオリジナルボトルに、みずみずしさが伝わる「澪」というネーミングも画期的です。
すぐそばにある存在だからこそ見落としてしまっている「澪」の魅力やストーリーを、宝酒造 商品第二部 醸造酒課の田和綾子さんにうかがいました。
日本酒初心者でも楽しめる、甘くて飲みやすい日本酒を
「『澪』は、2001年に神戸の灘に竣工した宝酒造の松竹梅『白壁蔵』で、蔵のコンセプトである高品質な日本酒を造りたい、そして日本酒を飲む人を新しく増やし、市場の裾野を広げていきたいという思いが商品開発のスタートでした」
「新しい日本酒ファン獲得に向けた酒造り」との方向性が定まったころ、世間では若年層を中心に「甘さ」「飲みやすさ」といった嗜好が高まっており、「スイーツ男子」という言葉が生まれるなど、女性だけでなく男性も甘いものが好きと言える風潮ができあがりつつありました。
「甘くて飲みやすい日本酒へのニーズをあらためて感じました」と、田和さんは当時を振り返ります。
「スパークリングにしたのは、爽やかな発泡感が若い世代に受け入れられやすかったからです。スパークリングの日本酒は『澪』以前にもあったのですが、まだあまり知られていないジャンルでした。『澪』で初めてスパークリング清酒を試したお客様が『こんな日本酒があるんだ』と日本酒に目を向けてくれたのはうれしかったです」
味わいはもちろんのこと、見た目も人気の要因のひとつです。
「味わいを想起させ、かつ手に取ってもらいやすいデザインにもこだわりました。日本酒ではめずらしいブルーの瓶色は、澪の爽やかな味わいを表現しており、水の流れをイメージした独自のボトルの形も特徴的です。
ネーミングについてもかなり考えましたね。『澪』というのは浅瀬の水の流れ、船の通った泡の跡という意味です。浅さを低アルコール、泡の跡を発泡酒にたとえ、日本酒の新しい流れをつくるという思いを込めて澪と名付けました。そして"MIO"はイタリア語で"私の"という意味。私のお酒と感じてもらえるよう、願いを込めています。
今までになかった新しいタイプのお酒なので、酒質開発については構想段階から完成までに6年ほどかかりました」
世界で認められた味わい
「澪」シリーズは、青い瓶が特徴的なスタンダード商品の「澪」に加えて、2015年にすっきりとした味わいの「澪 DRY」が加わりました。そのほか、凍らせて楽しむ「澪 FROZEN」、年末年始の限定商品として販売している金箔入りの「澪 GOLD」などがあります。
「『澪 GOLD』は、クリスマスパーティや新年の集まりなどで飲んでいただけることが多いですね。これから年末に向けて、需要が高まってきます」
「澪は国内だけではなく、アメリカやアジア、ヨーロッパなど約25ヶ国に輸出もしています。甘いお酒は敬遠されるかもしれないと不安もありましたが好評です」
「澪」の味わいは、米由来の甘みと酸味
いままでの日本酒とは違う味わいで人気を掴んだ「澪」は、甘いお酒であることは確かですが、決して甘ったるくはありません。米と米麹で造られ、糖類や甘味料は使われておらず、米由来のふくよかな甘みと酸味が特徴です。
田和さんは「『澪』は日本酒であることにこだわりました」と、自信を持った表情で答えてくれました。
「糖類などを使い単に甘いお酒を造るだけなら、簡単に商品化できていたと思います。しかし、日本酒を普段飲まない層に向けて、日本酒の新しい可能性を見つけてもらうためのお酒が日本酒じゃなかったら、まったく意味がありません。当初からこだわっていたのは『日本酒であること』でした。
2013年に一般発売が始まり、たくさんの方に飲んでいただきました。日本酒は飲めないけど『澪』だけは飲めるという方も多いのですが、ほかの日本酒も飲んでみようという気持ちになったという声も聞きます。そのような方が増えてくれたらいいですね」
そんな「澪」の味わいについて、スタンダードな「澪」は、マスカットを思わせるさわやかな風味が広がります。甘さ控えめの「澪 DRY」はりんごを思わせる風味が特徴です。
「澪」の技術を引き継いで開発された澪「一果(いちか)」は、それぞれイチゴやバナナのような香りが特徴です。こちらも香料は不使用。酵母のチカラでフルーツのような香りを生み出しています。
原点回帰で「澪」の魅力をあらためて伝えたい
2021年に発売10周年を迎える「澪」。記念すべきアニバーサリーを目前にして、「ブランドの原点回帰を目指します」と田和さんは話します。
「発売当初、『スパークリング日本酒』という新しいジャンルのお酒なので、きちんとお客様に説明できる場所でのみ販売しようと、販売ルートを飲食店やデパートなどに絞っていました。お店の方々に丁寧に案内していただいたおかげで、2013年の一般販売が開始されたときは、多くのお客様が手に取ってくださいました。また、バレンタインの時期にはチョコレート売場の横に商品を並べるなど、ターゲットに合わせた独自の販売もしてきました。
さらに、『日本酒で乾杯条例』がさまざまな自治体で施行されたこと、また『家飲み』や『おうち居酒屋』など、自宅でお酒を楽しむムーブメントが起こったこともあり、『澪』は予想を超えた勢いで多くの小売店に並びました。
いろんなパズルのピースがうまく噛み合って拡大したのはうれしいことですが、あらためてしっかりと伝えていかなければならないことがあるのではと立ち返りました」
予想以上の拡大は、造り手にとってはポジティブなことである一方、造り手が大切にしてきた想いやこだわりが末端にまで行き届かなくなるデメリットも内包しています。田和さんは、10周年となる2021年のテーマを「原点回帰」という言葉で表現してくれました。
「販売した当初のキャッチコピーは『これが、私の新しい日本酒』。今までにない低アルコールで、日本酒にこだわり、原材料は米と米麹のみ。フルーティーな香りも酵母のチカラで実現させています。
『澪』は"新しい日本酒"であることをあらためてお客様にきちんと伝えていく。この10周年というタイミングで、ブランドの再認識と再構築をしていきたいなと思っています」
田和さんの言葉からは、「日本酒であること」に対する強い意識、そして、ブランド価値への強いこだわりを感じました。
身近に買える商品だからこそ、知らなかったことがたくさんあります。スーパーやコンビニで「澪」を見かけたら、ぜひ手に取って飲んでみてください。愛らしいボトルの中には、宝酒造の日本酒へのこだわりがたっぷりと詰まっています。
(取材・文/ヒラヤマヤスコ)
sponsored by 宝酒造株式会社