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蔵人が愛する1本。 40年変わらない味わいの定番酒「菊水の辛口」の知られざるストーリー

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堂々たる筆文字のラベルが印象的な「菊水の辛口」。「ふなぐち菊水一番しぼり」や「無冠帝」などの人気商品で知られる新潟・菊水酒造の主力商品であり、"定番酒"として、愛され続けている1本です。きっと、スーパーやコンビニなどの身近な場所で目にしたことのある方が多いでしょう。

発売から40年近く経つ現在でも、「菊水の辛口」の味わいはまったく変わっていません。この商品の大きな魅力は「いつもそこにあって、変わらない」という安心感。

定番商品であるがゆえにこれまであまり語られてこなかった、「菊水の辛口」の魅力をたっぷりお伝えします。

40年近く酒飲みに愛され続けてきた「菊水の辛口」

「冴えわたる辛口のキレ。飲みごたえのある旨さ」

この言葉が、「菊水の辛口」の特長を端的に表しています。スッキリした味わいはどんな料理ともよく合うので、食中酒にぴったり。ただ、単に”引き立て役”と表現するのはもったいないほどの旨味も感じられ、ついつい「もう一杯...」と杯を重ねてしまうでしょう。冬は熱燗で、夏は冷やして。1年中楽しむことのできる万能選手です。

商品の誕生からおよそ40年。長きに渡って酒飲みたちに愛されてきたこの商品は、造り手である菊水酒造のみなさんも「毎日飲みたい酒だ」と口を揃えます。蔵人にも惚れ込まれている「菊水の辛口」とは、どんな酒なのでしょう。その誕生秘話から紐解いていきます。

"甘口全盛期"に誕生した辛口酒

「菊水の辛口」は、1978年に生まれました。当時は、"甘い酒が良い酒"といわれるほど、甘口全盛の時代。海外から食文化の輸入が進み、濃い味の食べ物が主流だったため、料理にマッチするのが濃厚な甘口の酒だったことや、きつい肉体労働の疲れを癒すために甘みを求める人が多かったことなどが、その要因だといわれています。

しかし、この流れに迎合しなかったのが「菊水の辛口」。あえて時流に逆らうような"辛口"の商品を打ち出していきました。

「ブームに乗るのではなく、時代の先を読んで生まれた商品が『菊水の辛口』です」
と教えてくださったのは、菊水酒造 取締役の菊地秀一さん。営業として長らく菊水酒造を支えてきた方です。

「『菊水の辛口』の開発をはじめたとき、食文化は少しずつ変わっていくだろうと考えていました。濃い味は、もともと寒さが厳しい地方の味付けです。生活設備が整うにつれて寒さに凍えることもなくなり、暖かい地方の薄味調理が少しずつ広まっていました。薄味の料理に合わせるなら、当時の甘口酒はくどく感じるはずだと。また、高度経済成長も終わり、激しい肉体労働も減っていましたから、甘みを抑えても良いのではないかと読んでいました。そして何より、お客様の好みがもっと多様化して、甘口一辺倒という市場ではなくなるだろうと考えていたんです」

一過性のブームに惑わされることなく、市場は、お客様は何を求めているのか、ということだけを見つめていたことがわかります。商品ありきのプロダクトアウトではなく、マーケットインの発想が当時から根付いていたのですね。加えて、全盛期を過ぎたと言われていた日本酒業界で、「今と同じことをしていても生き残れない」という強い危機感もあったといいます。

こうして、辛口酒を造ることは決まりました。では、商品を形にしていく過程はどのように進んだのでしょうか?

構想から3年余り。繊細な辛口酒が生まれるまで

味わいのポイントとなったのは「キレ」「旨味」「飲み飽きない」の3つでした。薄味の料理にはすっと溶け込み、濃い味の料理も引き立たせる味わい。食事とともに味わう酒として設計されました。

(菊水の辛口)発売以前の昭和40年代までは、酒は食事が終わった後に飲むもので、そもそも”家で飲む”ということもあまりなかったのだそう。その後、「菊水の辛口」が発売される昭和50年代には、「食中酒」という概念が生まれ、酒と食事を同時に楽しむようになってきていたのです。そのなかで「“酒飲み”が毎日飲んでも満足できる1本を」というコンセプトは開発当初から一貫していました。

「『菊水の辛口』は大衆のための酒です。日々の生活が少し楽しくなるようにという想いは今も変わっていません」

こうして商品のイメージは固まりましたが、それを形にしていくのは並大抵のことではありませんでした。当時、甘口に比べ、辛口の製造はとても難しいものだったのです。酒が出来上がった後に甘みを足すことはできますが、辛くすることは困難でした。つまり、搾り上がったものをそのまま完成品として出荷しなければなりません。そのため、厳選した原料を使い、高い技術をもって製造にあたる必要がありました。当時の資料には、「生れたまゝの姿で『よいもの』でなければならぬ」「きびしい求道から生れた酒」という強い言葉が並んでいます。一切の妥協をせずにコツコツ造り上げていった「菊水の辛口」は、完成までに3年を費やしました。

こだわったのは味わいだけではありません。「大衆のための酒」を名乗るなら、誰でもどこでも買えなくてはいけないと、とにかく流通網を広げるように営業活動を続けました。また、価格も手頃に抑え、極端な値上げは行っていません。今日、どこのスーパーにも「菊水の辛口」が置かれていて、気軽に買うことができるのは、当時から続く営業努力のおかげなのです。

こうして誕生した「菊水の辛口」は、狙い通り、発売当初から“酒飲み”の人に愛される1本となりました。毎日飲み続けるお客様はちょっとした味の違いにも敏感で、誤差の範囲でも「ちょっと味が違うんじゃない?」と言われることさえあったのだそう。ラベルや容器はリニューアルしていますが、味は発売当初からまったく変わっていません。

「毎日飲みたい」日本酒ファンを惹きつける魅力

「『特別に美味しい酒』ではないんですよ」と菊地さん。"美味しい酒じゃない"とは、どういう意味なのでしょう。

「個人的には、白米、ご飯のような存在だと思っています。毎日食べるご飯を、その都度『これは美味しい!』とはあまり思いませんよね。でも、3食続いても飽きることがない。本当に美味しいものは、いつでも食べられるもの。『菊水の辛口』はご飯のように、毎日にそっと寄り添ってくれる存在だと思います」

その言葉の通り、「菊水の辛口」には長年愛飲しているファンがとても多いのだそうです。菊水酒造の方々が飲み会をする時にも、気づくとみなさん「菊水の辛口」に手を伸ばしているのだとか。

「私たちが一番造り慣れている酒ですし、だからこそ自信もあります。菊水酒造にとって、かけがえのない1本ですよ」

“酒飲み”のために生まれた酒ですから、酒の楽しみ方を知っている人に飲んでほしいとのこと。蕎麦に合わせるのが通の食べ合わせだそう。出汁に合わせるのも粋ですが、一方で濃い味の料理にもフィットします。

「日本酒の入口ではなく、行き着く先でありたいですね。日本酒を飲み始めて、年数を重ねた人が『ああ、旨いなぁ』とじっくり味わってもらえるような。そのためにも、この先もずっと変わらない味であり続けることが『菊水の辛口』の使命です」

高級料亭で、20年以上も愛され続ける理由

「菊水の辛口」に惚れ込んでいる飲食店は数多くありますが、いわゆる"大衆酒場"だけでなく"高級料亭"にも、長らく愛用し続けているお店があります。

そのひとつが、東京・八王子の京懐石「鶯啼庵(おうていあん)」。創業20年余りの高級料亭です。

桜、新緑、紅葉、雪景色と、四季折々の美しさを楽しむことができる見事な日本庭園は、どの部屋からも見ることができて、何度訪れても飽きることがありません。敷地内のあらゆるところで日本文化を感じられるしつらえとなっており、結婚前の両家顔合わせや、絶対に成功させたい宴席など、とっておきの日に選ばれる料亭です。


そんなお店で創業当初から置いてある唯一の日本酒が、「菊水の辛口」だといいます。支配人の森田健太郎さんにお話をうかがいました。

「『菊水の辛口』は、とても万能な酒だと思います。スター選手ではないけれど、しっかり実力のある中堅、といったイメージでしょうか。主張が強すぎると好みが分かれてしまいますが、『菊水の辛口』はその心配がなく、良い意味で"とりあえずの酒"として安心して提供することができるんです」

創業当初は他の銘柄も置いていましたが、最後まで残った定番酒が「菊水の辛口」なのだそうです。料理との相性はどうなのでしょうか?「菊水の辛口」に合う料理をつくっていただきました。

ガラスの皿には前菜の盛り合わせ。刺身はカンパチ、ハモ、マグロの3点。ハモはあらい、焼き、湯引きの3つの食べ方で。長芋のそうめんとタコには土佐酢のジュレソース。初夏をイメージした涼しげな料理です。

「私たちがご提供している京料理は、素材の味わいを生かした繊細な味つけが特徴です。ですから、あまり主張が強いと料理の味が消えてしまいます。その点、『菊水の辛口』は、料理をそっと引き立ててくれるのです。酒を楽しむのではなく、あくまで『料理を楽しむ』ためのサポート役をしてくれる、とてもありがたい存在です」

鶯啼庵は、特別な日に選ばれる料亭。接客、料理、そして酒、すべてにおいて不備は許されません。その緊張感の中で20年以上も選ばれ続けている「菊水の辛口」の安定感は、底知れないものがあります。

「老若男女、みなさんに愛されてきた銘柄です。これからもずっとお付き合いしていく銘柄だと思っていますよ」

ブームにとらわれず、世のニーズを見つめて生まれたお酒

世は甘口ブームだというのに、あえて辛口で勝負する──。先見の明にも驚きですが、そのアイデアを実行に移すこともなかなか出来ることではありません。プロダクトアウトではなくマーケットインの発想をするというのは、40年前から現在まで、菊水酒造が変わることなく持ち続けている姿勢です。よく見かける、ありふれた1本にこそ、企業の力が結集しているのかもしれません。長年に渡って、"酒飲み"をうならせてきた「菊水の辛口」。今日の晩酌酒にいかがですか?

(取材・文/藪内久美子)

sponsored by 菊水酒造株式会社

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