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【特別対談】平和酒造 山本典正×SAKETIMES 生駒龍史「どうなる日本酒業界?2016年の振り返りと2017年の展望」─生駒龍史の視点─

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「紀土」で国内外から注目を集める平和酒造・山本典正さんとSAKETIMES・生駒龍史による特別対談。前編の「山本典正の視点」に続き、後編となる今回は山本さんがインタビュアーとなって、生駒の「2016年の振り返りと2017年の展望」が語られました。

日本酒に特化したメディアであるSAKETIMESを立ち上げるまでの道のりは、決して順風満帆だったわけではありません。これまであまり表立って語られてこなかった生駒本人の歩みから、いまの日本酒業界が抱える課題、そして新しい目標に向けての意気込みが語られた「生駒龍史の視点」をお送りします。

「人の可能性を諦めない」大きな挫折から、仕事に誇りを持てるようになるまで

山本典正さん(以下、山本):まずは、生駒さんの経歴を教えていただけますか?

生駒龍史(以下、生駒):日本大学法学部の新聞学科で、広告とジャーナリズムを専攻していました。大学卒業後は、起業するまでに2社経験しています。最初はIT系、次に情報・通信系の企業に入社し、ずっとIT関連の仕事に携わってきました。

山本:IT系の仕事に就こうと思った理由は何でしたか?

生駒:やはり、ベンチャーに対しての意識が強かったからですね。「せっかく就職するなら、自由な空気の中で自分の力を試してみたい」と思っていました。ですが、最初に入った会社にはうまく馴染むことができず、入社から1か月半で辞めてしまったんです 。そのときにすごく大きな敗北感、挫折感を味わいました。大学を出て卒論もバシッと決まって、就活もうまくいったのに「どうして僕はたった1か月半で辞めてしまったんだろう。これは自分が悪いんだ」と思っていたんです。

山本:初めての大きな挫折だったんですね。その後入社した情報・通信系の会社にはどれぐらい勤められたんですか?

生駒:1年半ぐらいですね。知り合いの紹介で、2社目は大手情報・通信系企業の系列会社に入社しました。でも、挫折したという気持ちや自信がないという感情は続いていました。「社会で生きていけないから、もう自分で生きていくしかない」というネガティブな感情から「それなら自分で会社を作るのも"あり"かもしれない」と、起業を考えるようになったんです。

山本:そういう気持ちを抱えた上での、SAKETIMES発足だったんですね。実際に起業したのはいつ頃ですか?

生駒:最初に日本酒の事業を始めたのは2012年の4月で「SAKELIFE(サケライフ)」という通販サービスを立ち上げました。きっかけはおいしい日本酒に出逢ったことでした。僕が起業を考えていた時期に、実家が酒屋さんの同級生から「ネット通販の仕事をいっしょにしないか」と誘われました。そのとき僕はまだ日本酒が好きではなかったのですが、彼が「日本酒は絶対においしい。自信があるから」と熱弁されて、飲んでみたんです。これがびっくりするぐらいおいしかった。そこから日本酒に興味を持ち始めて、いろいろと調べてみたら、日本酒業界全体が若手に代替わりしつつあって、海外を中心に今後市場が伸びる兆しがある。一方で、当時はインターネットやメディアの活用がほぼされていない状態だったので、参入のチャンスがあるんじゃないかと思い、すぐにサービスリリースに向けて準備を始めたんです。

山本:すぐに行動に移したのは、すごいですね。

生駒:「やりたいことを突き詰めよう」というのは以前から考えていましたし、当時25歳でしたが、「大きな挫折をした人生だから、もう失うものはない」とも思っていました。SAKELIFEを始めるまでの間は、ひたすらネット通販の勉強をしました。どういうモデルにするかは全然定まっていなかったので。その中で「北米でコーヒー豆やワインの定期購入モデルが流行っている」ということを知り、このモデルはまさに日本酒に活用できると思ったんです。そこからは早かったですね。2012年の2月にクラウドファンディングで資金を集めて、目標達成。リリースに至ったのが2012年の4月のことです。

山本:クラウドファンディングの活用って、当時ではかなりの先駆けだったのでは?

生駒:そうですね。"クラウドファンディング元年"と呼ばれるのが2013年頃なので。当時は「クラウドファンディング?何それ?」という反応をする人がほとんど。でも、当時ITベンチャーブームだったので、僕のまわりには20代半ばの起業家が結構いましたし、Twitterなどを通してIT業界関係者の知り合いも多かった。スタートアップと呼ばれるような会社を起業した人たちのコミュニティがあったので、彼らには「クラウドファンディングやるんだ、いいね」と応援してもらえました。

山本:素晴らしいコミュニティにいらっしゃったのですね。その後、SAKELIFEの事業はどうなりましたか?

生駒:いろいろあって事業は譲渡しましたが、SAKELIFEは多くのお客様からご好評いただき、結果的に1000人ぐらいのお客様にご利用いただきました。情報の発信はすべてWEBだったので、20~30代のお客様が多かったのも特徴的ですね。

ただ、先程言ったような挫折感・敗北感は残っていて、サービスが軌道に乗って、メディアで紹介されたり売上げが伸びたりしても、心の中では「まぐれだよな」とずっと思っていました。でも、それが1,2年続くと、「たとえこれがまぐれだとしても、まぐれを1,2年続けることができるなら才能じゃないか」と前向きに捉えられるようになった。ここ2,3年の話です。

山本:すごく夢がある話ですよね。頑張って就職活動をした結果、会社とのミスマッチで辞めているわけじゃないですか。でもそこから立ち直って、今こうしてひとつの事業を続けている。生駒さんのお話を聞いて「私もできるんじゃないか」と思う人は、きっといるでしょうね。

生駒:そうですね。大切にしていることの一つに「人の可能性をあきらめない」というのがあります。代表である僕自身が、どん底にいるような存在から、まだまだ先は長いとはいえ、自分の仕事に誇りを持てるようになった。人はそこまで変わることができるんだ、という実感があります。いま勉強ができない人でも仕事ができない人でも、伸びしろはいくらでもあるのだと思っています。

日本酒の入り口に立つ人が増えた。問題は次の一手をどうするか

山本:生駒さんから見て、2016年の日本酒のマーケットではどんなトピックが気になりましたか?

生駒:ひとつは法整備ですね。一昨年の暮れに日本酒に対してGI表記(※)が適用されるようになったり、2023年の酒税一本化に向けて日本酒の酒税が下がることが決まったり、といった動きがありました。特にGI表記に関しては、日本で造られたものしか"日本酒"と名乗ってはいけないということからも、国をあげて「日本酒のブランド価値をつけていこう」という意思を感じました。2020年東京オリンピックに向けて「日本酒をもっと世界に出していこう」という動きが大きくなっているな、と。当然、賛否両論はあると思いますが、僕は何か変化があるならそれを活かしていこうと肯定的に考えています。

※品質や社会的評価などがその産地と結び付いていることが特定できる「地理的表示(Geographical Indication)」の表記。2015年12月に「地理的表示」の対象として日本酒が指定された。

山本:なるほど。他には何かありますか?

生駒:もうひとつ、僕は飲食店の"日本酒飲み放題"がすごい勢いだったなと感じました。SAKETIMESではプレスリリース配信もしているんですが、飲み放題店舗オープンのお知らせが一日に何件も来て、特に都内の勢いは本当に凄まじかった。フォーマットは大体決まっていて、日本酒100種類を2時間飲み放題、料理持ち込みOK。そういう店舗が一気に増えました。

飲み放題って結構意見が分かれるんですね。「品質管理もそんなにできないだろうし、そんなにたくさんあってもお客さんはわからないよ」という否定的な意見も少なくない。でも、それは本質から逸れた批判かなと僕は捉えています。少なくとも現段階において、お店が増えるということはそれだけお客様がいるということ。「日本酒に興味があるけど、何を飲んだらいいかわからない。まずはいろいろ試してみたい」という消費者ニーズがあるということですよね。ですから、まずは安い価格でたくさんの種類を飲んでみて、自分の好みを探り当てる入り口として、飲み放題の意義があると思うんです。新しい消費者像を開拓する試みとして、飲み放題の盛り上がりが顕著になったのが2016年だったのかなと感じています。

山本:生駒さんは、飲み放題が増えているということに対しては好意的なポジションなんですか?

生駒:はい、ある程度好意的に捉えています。ただ、それは"現時点では"ということです。2017年からは「飲み放題の次はどうすればいいのか?」ということに対しての回答を、飲食店は探さなければいけないのではないでしょうか。日本酒をいろいろ飲み比べて自分の好みがわかってきたら、じゃあ次はどこに行くのか?もちろん、消費者によっては「日本酒あんまり好きじゃないからもう飲まない」とか「僕はずっと飲み放題でいいや」という人もいると思います。でも「地酒にこだわっている店に行ってみようかな」という次のステップに進む人も多いはず。人間の味覚とか嗜好って成長するものなので、いつまでも飲み放題だけをやっているのでは長くは続かないと思います。

山本:なるほど。僕は飲食店の飲み放題って、一種のムーブメントでしかないのかなと感じているのですが、生駒さんはどう捉えていらっしゃいますか?

生駒:僕もムーブメントだと思っています。でもムーブメントの結果、日本酒の入り口に立つ消費者が増えたことは是とする、という立ち位置ですね。飲み放題って参入コストも低くて、撤退も簡単だから、どんどん店舗が増えている。それ自体に良い悪いはありませんが、それだけで消費者がついてくる、日本酒を飲む人が増え続けるというのは難しいと思っています。

山本:僕が飲み放題の流行が終わったときに怖いなと思うのは、飲み放題で楽しく飲んだ後、消費者が「これだったら家で飲めばいいや」と思ってしまわないかということです。僕は飲食店で日本酒が提供されるというのは、非日常のハレの日としての酒の楽しみ方、ひとつの酒の文化だと思っていて、自宅で楽しむのが主になってしまうのでは、という不安があります。

生駒:僕は、飲食店で日本酒を飲むシチュエーションも当然素敵だと思いますが、たとえそれが自宅であっても、結果的に飲んでいるのであれば場所にこだわる必要はあまりないと思っています。とにかく"日本酒を知るきっかけをつくる"ことを繰り返していくことが大切だと思うので。でも同じことの繰り返しでは、いずれお客様はいなくなってしまうので、飲食店は次の一手を考えなければいけないでしょうね。

それから、2016年に特徴的だったこととして、日本酒の商品の魅力がますます多様化してきていますね。今までは米をどれだけ磨いたか、価格がどれだけ安くできるかというコストパフォーマンスの面で頑張ってきたものが「日本酒にはいろんな楽しみ方があるんだよ」という幅を見せることができた。これはとてもいいことだと思いますが、反面、魅力を多様化させすぎることが、消費者の「やっぱり日本酒ってよくわからない」という気持ちに繋がってしまうことを危惧しています。どの蔵元もこだわりがあるのはいいのですが、それを理解してもらうために消費者に求めるレベルが高すぎると感じることが増えました。複雑なものを複雑なまま伝えても、理解されなければ意味がないので...。各酒蔵がきちんと伝え方を考えなければいけないと思います。

山本:生駒さんのおっしゃるとおりで、2015年までと比べて日本酒業界が加熱しすぎ・熟れすぎになってきたのが2016年だと思っていて、それは僕自身も悩んでいた部分なんです。イベント、新しい商品、メディアの捉え方、すべてにおいて、より"他にないものを""今までしていないことを"と、造り手や発信元が無理をし始めて、その無理してできたものをみんなが「すごいすごい!」と囃し立てている。でも、そんな曲芸みたいなことやっている人って本当にすごいの?長く続けられるの?という疑問が残ったというのが正直なところで。僕は、2016年は日本酒が袋小路に向かっているように感じることもありました。無理のある状態で登山を続けているけど、そのルートは実は山頂には続いていないんじゃないか、一度ベースキャンプまで戻る必要があるんじゃないか、という雰囲気を感じましたね。

生駒:加熱しすぎていると、消費者に「日本酒ってやっぱり難しそう」と捉えられてしまわないか、という心配があるんですよね。じゃあ、どうすれば「日本酒ってよくわからない」から脱却できるのか?僕は、消費者が理解しやすくするためには、蔵元や商品の持つストーリーや、関わっている人間に対しての親近感といったものはわかりやすい伝え方だと思っています。

たとえば、山本さんって僕たちのまわりでもファンは多くて「紀土」が好きな人もすごく多い。でも、山本さんが「うちの米はね」とか、テクニカルな話をしているところを見たことがないんですよ。そういう話もできるはずなのにしないということは、きっと消費者にどう情報を伝えるべきかを理解していらっしゃるんだと思っていて。難しいことを難しいまま伝えず、きれいにやわらかく、"伝わりやすく伝える"のがうまいから、山本さんは人気が出る。ストーリーや人柄といった、消費者になじみ深いものを通してお酒の魅力を伝えていく、それがブランドになるんじゃないかと思います。僕は、ブランド力って"テクニック"じゃなくて"姿勢"だと思うんです。山本さんのように、企業や携わる人の姿勢を見せていくことが大切だと思いますね。

混ざり合うカルチャーにふれながら、世界に向けて日本酒を発信していく

山本:生駒さんのビジネスとして、2017年にやりたいことは何かありますか?

生駒:はい、まずはメディアを通じて世界中の人とつながりたい、そのための仕組みを作りたいという大きな目標があります。2017年はインバウンドへの取り組みが激化すると思うんです。特に「海外から著名な人を呼んで、日本酒を飲んでもらいましょう、そして発信してもらいましょう」という国内の取り組みがすごく多い。それについてはとても好意的に捉えているんですが、足りていない部分も多いと感じています。来日して飲んでもらうところまでは意識をしているけど、帰国後、現地でどうやって飲んでもらうのか?日本で購入して帰ってもらうのか?通販を利用するのか?"どんな経験を引き続きしてもらうのか"という議論が成熟していない。「来てください、飲んでください、おいしいでしょう?」で終わってしまってはもったいないと思うんです。

この問題を解決するためには2つの条件があると思っていて、ひとつは、物流がより整備されるべきだということ。これは徐々に整備されつつあるので、時間の問題かなと思っています。もうひとつが大きくて、海外の消費者が日本酒の情報にふれる機会をつくること。たとえ日本酒というモノがあっても、情報という接点がないと、きっと"飲んでみたい"とは思いませんよね。そのときに必要になってくるのがメディアだと思うんです。海外に対してアプローチできるメディアを僕たちが整備できれば、いずれ「あなたの街でおいしい日本酒が飲めるのはここですよ」「今度あなたの街で日本の蔵元がイベントをやりますよ」と、伝えられる情報もどんどん豊かになっていって、結果日本酒に興味をもってくれる人が増えるはず。2017年は、そこを事業としてより拡大していきたいと考えています。

山本:たとえばワインで考えたときに、情報の発信拠点ってパリやニューヨークだったりすると思うんですけど、日本酒においては東京が発信拠点になるということですね。東京から日本酒の情報を発信していくことは、世界に対する"東京ブランド"の力も大きく影響しそうですね。

生駒:そうですね。僕らの会社も東京の渋谷エリアに位置しているというのは意識しているところがあります。渋谷のスクランブル交差点って、物質的にも精神的にもあらゆるものが交差していくという非常に象徴的な場所。渋谷のカルチャーを間近で見ることで「文化は混ざり合っていくことで広がるんだな」ということを実感しているので、そのカルチャーを強く受けた会社と言うことで、引き続きいろんなものを織り交ぜながら情報発信していきたいと思っています。

山本:いいですね。2017年って、本当に楽しみな年ですよね。

生駒:はい、より日本酒業界の動きが活発になっていくと思います。僕は、マーケットはどんどんカオスになっていくべきだと思っているので。僕らSAKETIMESも、ほんの1,2年前まではそのカオスの中のひとつで、少しずつ市民権を得て、読者を増やしていくことができましたから。

山本:「こうあってほしい」という日本酒像はすごく教育的なことが多くて、もちろんそれもいいことなんですが、一方で日本酒の広がりや可能性を殺しているかもしれない、という側面もあるじゃないですか。そんな中で、SAKETIMESさんのように新しいチャレンジをしてくれる存在がいるということは、僕としてもすごくうれしいことです。

生駒:ありがとうございます。今まで日本酒のビジネスをする人って、メーカー、問屋、小売、飲食店が基本で、そこにプラスして、"日本酒を愛して、解説してくれるプレイヤー"がいる、というのが基本的な産業構造だったと思うんです。そこでいうと、僕たちのようにお酒を商品として扱わない、しかもフリーランスではなくて企業として入ってきている、という存在は異例だと思います。これからの日本酒業界に必要なのは、僕らのような存在が間に入ることが前提で、愛飲家のプレイヤーたちとメーカーがどれだけ連携していくか、だと思うんですね。たとえば、山本さんは「どういうプレイヤーがいて、どんなことをしているの?どんな力があるの?」と、僕たちも含めてさまざなプレイヤーに積極的に歩み寄ろうとしてくれますよね。そうすると、こちらも「じゃあ、こういうことをしたら面白そうですね」という提案ができる。それだけで新しいファンが確実に増えるじゃないですか。これまでの産業構造を作ってきた既存のプレイヤーたちと、これから入ってくる新規プレイヤーとの融合と連携は、絶対に必要なことだと思っています。

山本: SAKETIMESさんのような存在があると、僕らの産業もより活性化しますし、蔵元もどうやって新しいものへ対処していくかという選択肢が増えるので、すごくいいことだと思っているんです。だから、SAKETIMESさんには成功してほしいし、後追いの人たちがどんどん増えてくれればいいですね。僕も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

新しい日本酒の発信の仕方を模索し続ける、平和酒造とSAKETIMES。そのトップである2人の対談の中には、"既存の概念にとらわれず、物事を多角的に捉える"という共通する視点を見つけることができました。ときに厳しい目線で意見が交わされる場面もありましたが、それも日本酒の魅力をもっと伝えたいという思いの強さからに他なりません。若き2人のリーダーの今後の活躍とともに、日本酒業界がどんな盛り上がりを見せるのか、2017年は大いに期待できる1年になりそうです。

(取材・文/芳賀直美)

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