こんにちは、日本酒指導師範&酒伝道師の空太郎です。
今回はフランス料理と日本酒のマリアージュ(相性の良さ)を多くの人に伝えていこうと頑張っているフレンチシェフと酒販店店主のお2人を紹介したいと思います。
銀座7丁目のフランス料理店「ロドラント」の今帰仁実(なきじん・みのる)シェフと、新橋で地酒販売店「朧酒店」を経営する大熊潤(おおくま・じゅん)さんのお2人です。
お2人は6年前から、自分たちが選ぶその季節に飲んでおいしい日本酒と食材との組み合わせの「妙」を楽しんでいただく
「フレンチ×日本酒 マリアージュ」会をロドラントで開いています。
季節開催の年4回(季節に合った日本酒と旬の食材を使い)開いており、現在28回目を終え、来年1月に30回目を迎えます。
最初は定員割れのときもあったそうですが、10回目ぐらいからは毎回すぐに定員に達してしまうほどの人気です。
洋食を食べるときにも日本酒で合わせてみる人を増やしています。
6割程度が女性だそうです。
今帰仁さんはフランスに渡って修業をされています。
その際、フランスの人たちから日本の食文化などについて聞かれることがあり、将来、日本に帰って店を出す時には日本のDNAの香りがある店にしたい、と考えたそうです。
2008年にお店を開く際にお酒のメニューに日本酒を加えました。
同時にお客様にフレンチと日本酒の相性の良さを伝えていきたいと考えました。
そこで、より日本酒に造詣が深い人と組みたいと、伝手を頼って紹介されたのが大熊さんだったのです。
大熊さんは、
「面白い試みだなと思いました。僕は安易なイベントは余り好きではないんですが、今帰仁さんの提案の内容に賛同しましたし、なによりも誠実で真摯な態度に惹かれました」
と振り返っています。
そして、初めての開催。
マリアージュ(相性抜群)というよりは今帰仁さんと大熊さんのそれぞれの個性がぶつかり合い、主張の重なり合いでした。
今帰仁さんの料理は正統派というよりは、素材に寄り添い、日本の旬を取り入れたフランス料理で、ソースもしっかりと作ります。それにマリアージュする日本酒を一発で決めることには無理があったようです。
でも、お2人は、「スタートラインがここだと考えれば、繰り返していくと、どんどんマリアージュの精度が上がっていくに違いない」
と確信したのです。
ただし、自分の料理を日本酒に合うようにすり寄らせていくことはしない、と今帰仁さんは決めていました。
「お客様からも、『日本酒に寄り添うのではなく、フランス料理として完結したものを出してほしい。フランス料理の源流を踏まえてくれ』と言われました。だから、日本の旬な食材は使いますが僕が考えるフランス料理のゾーンから逸脱しない、と改めて確認したのです。」と今帰仁さん。
一方の大熊さんは、語ってくださいます。
「シェフの料理を食べさせていただきながら、あとは本能的に選んでいきました。結果として、フレンチに合う日本酒とは、骨格がはっきりしているタイプです。
酸味も重要だし、エッジがいかに効いているか。軽いお酒は物足りないかもしれません。アルコールも17度以上の原酒の方がいい。
毎回6~8銘柄を選びますがものすごくエキサイティングな気分です。8本を選ぶのに3時間以上、熱く議論することも。お燗もあります。
最近ではお店に入荷したお酒を試飲するときには、ロドラントのどの料理と合うかを、無意識に考えるようになりました。食中酒といった場合、料理の邪魔をしないことを言うこともありますが、マリアージュは違います。
相互により高みに昇りあい、単独で食べたり飲んだりするよりももっとおいしくなることを言うんです。お互いが10をもっていれば、足せば20ですが、かければ100になるように。」
こうして試行錯誤を重ねてマリアージュの精度はどんどん上がってきているそうです。
通常の会は着席ですが、先日はよりカジュアルに楽しんでもらおうと、立食形式での会が催されたので、取材させていただきました。
この日の乾杯酒は長野県の「澤の花 純米 Michelle」でした。
軟らかで明朗な酸味が甘味と一緒に独特な甘酸っぱい世界を育んでおり、乾杯酒にはぴったりでした。
続いて前菜が8種類。
「カプレーゼ」
「サーモンマリネ ボナシエンヌ風」
「豚のリエット」
「真ダラのブランダード」
「テリーヌ・ド・フォアグラ」
「ジビエのパテ」
「グージェール」
「ブルーチーズとクルミのマカロン」
これらに合わせるよう出てきたのは、
秋田県の「春霞 栗ラベル・白 酒こまち」
秋田県の「一白水成 純米吟醸 雄町」
愛媛県の「石鎚 初“うぶ”袋吊斗瓶囲い」
でした。
前菜は、それぞれが凝縮された小宇宙のような逸品たちで、味わいもいろいろですが、すっきり軽快な石鎚はライトなカプレーゼやサーモンマリネとのカップリングが素晴らしい。
特に少しずつ温度が上がってくると石鎚の表情が微妙に変化して、カプレーゼとのやりとりはさらに高貴なものに昇華していきました。
ほんわかとした優しい春霞は真ダラのブランダードやジビエのパテと相性がばっちり。
そして、味わいがしっかりありながらも、シャープな切れ味の一白水成は、重厚でむっちりとした味わいの豚のリエットやフォアグラとのマリアージュが秀逸でした。
次に魚料理が2品出ました。
「スズキのポワレ レモン風味のリゾット」
「ヤリイカのイカ墨煮 バスク風」
提案されたお酒は
「大那 RACINES スパークリング」(栃木県)
「七本槍 純米 山田錦 生原酒」(滋賀県)
大那はその名の通り、発泡しているので気泡の破裂が合うのかなと心配しましたが、
むしろ料理の露払い役となりスズキとの味わいが心配になりましたが、発砲感を味わったのちスズキのうまみが前面に出てきて、それに大那の濃密でいて渋味もある爽快な味わいが申し分のない絡み合いをしていました。
七本槍は生原酒を大熊さんのお店の冷蔵庫で半年寝かせたものを持ってきていただいたこともあって、
香りがよく、まろやかになった太めの味わいがイカ墨の味付けと穏やかなハーモニーを奏でてくれました。
そしてメインはこれです。
「リー・ド・ヴォー ソテー ヴァン・ジョーヌ風味」
子牛肉のソテーに合わせてと提案されたお酒はこれです。
「而今 純米吟醸 酒未来 生」(三重県)
お酒は赤ワインを飲む大きなグラスで出してもらい、而今の品のいい香りをたっぷりと楽しんだ後、口に含むと、健やかで唾液腺を刺激する優しくてまるみのある甘旨味を、適量の酸渋が輪郭をつけて、全体がバランスよく華麗に踊るお酒で、これが気持ち中濃なソテーのソースと交互に経糸と横糸を紡ぐようにして味わいをより高みへと導くのでした。
最後はチーズです。
「フロマージュ プティ・アグール&ウ・ベル・フィゥリツ」
濃厚なチーズに合わせるのは「不老泉 山廃仕込 特別純米原酒 参年熟成」(滋賀県)
チーズは迫力満点のこってこてのタイプでしたので、これに合わせる不老泉も3年寝かせて、ただでさえ味わいも濃く酸味も太いのですが、それがさらに円熟味を増しており、チーズとはガチンコ勝負で味わいが融合して新境地を拓くような組み合わせ。
とても楽しいものでした!
近年、日本酒の酒質も多様化しており、味わいの多彩なフレンチにもぴったりくるお酒がたくさんあることを改めて知る機会になりました。
お2人の努力で洋食と日本酒を組み合わせて楽しむ人が増えていますが、是非、参加した人たちはさらに友人にその魅力を伝えてほしいです。
そして、波紋のようにこの流れが広がっていくことを願います。
◎ Ginza l'odorant par Minoru Nakijin (ギンザ ロドラント ミノルナキジン)
住所:東京都 中央区7-7-19 ニューセンタービルB1F
TEL:03-5537-7635
アクセス:地下鉄線銀座駅から徒歩5分・JR線新橋駅から徒歩5分・銀座駅から305m
営業時間:12:00~13:30(L.O.)/18:00~20:30(L.O.) ランチ営業、日曜営業
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