EXILEの橘ケンチさんがプロデュースする「LDH kitchen IZAKAYA AOBADAI」で、「越前福井フェア」が2019年11月に開催されました。

最終日には、黒龍酒造の蔵元・水野直人さんも参加して「黒龍酒造の会」を開催。福井の食材と黒龍酒造のお酒のペアリング、水野さんと橘さんのトークも大好評だったイベントの模様をお伝えします。

新しい世代へのアプローチとして

黒龍酒造は、福井県・曹洞宗大本山永平寺の近くに位置し、全国でも高い人気を誇る「黒龍」や「九頭龍」を醸す蔵です。1975年から、ワインの熟成方法を応用した大吟醸酒「龍」を発売するなど、高品質な酒造りを追求し続けています。

「LDH kitchen IZAKAYA AOBADAI」でのイベントが実現したのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。

黒龍酒造・水野さん

黒龍酒造の蔵元・水野直人さん

「父は “酒造りは神聖なもの” と言っていました。ですから、蔵人でない人を蔵に招くこともありませんし、黒龍酒造単独のイベントは一切行わず、酒造りのみを誠実にやっていたのです。ですが、自分が蔵元となり、新しいアプローチは必要だと考えていました」

日本酒はコアなファンは多いですが、多くの人が日本酒に触れたり飲んだことがないというのが現状です。しかし「LDH kitchen IZAKAYA AOBADAI」のイベントなら、これまでの日本酒ファンとは違う人にアプローチできる良いチャンスだと、水野さんが語ってくれました。

かつて雑誌の取材で福井県を訪れたのをきっかけに出会った、橘さんと水野さん。一緒に蕎麦屋へ行き、「黒龍 しずく」を呑み続け楽しい夜を過ごしたと話します。一気に距離が縮まり、橘さんは黒龍酒造の蔵へ訪問。

「黒龍のこと、蔵のこと、水野さんのことをもっと多くの方に知ってもらいたい」という思いが強くなり、今回のコラボ開催が実現します。

「黒龍」と福井の食材のペアリング

多くの参加者が集まり、「LDH kitchen WALKABOUT 47. JAPAN 水野直人蔵元を招く〈黒龍酒造の会〉」がはじまりました。

乾杯酒は「黒龍 貴醸酒」のスパークリング。「黒龍」の貴醸酒は、本来スパークリングではないのですが、この乾杯のために炭酸ガスを加えてスパークリング酒にしたという貴重な1杯です。

「甘くて呑みやすい!」「炭酸で乾杯にぴったり!」と、美味しいという声があちらこちらから聞こえてきます。

貴醸酒 スパークリング

全国の酒蔵へ足を運ぶ橘さんは、「日本酒がハブになっている気がしますね。酒蔵、農家、漁師、そして呑み手。日本酒によって多くの人たちが繋がっています」と話します。

橘ケンチさん

まずは「この時期なので、絶対にメニューに加えて欲しかった」と、橘さんも太鼓判を押すのがセイコガニ。越前ガニのメスは、セイコガニと呼ばれ、福井の冬の味覚の代表です。

今年は悪天候により漁に出ることがなかなかできず、収穫量も激減しました。それでもなんとかこの会には揃えたいと苦労したそうです。

先付けは、セイコガニの卵の粒々感と甘みのある身を酸の効いたジュレでまとめたものでした。

越前カニ

前菜は、出汁トマト(越のルビー)、蛍烏賊の沖漬け、甘エビの昆布締め、へしこ生ハムと柿の白和えの4種盛り合わせ。

前菜

生ハムは 「ほろよい黒龍吟醸豚」 を加工したものです。「ほろよい黒龍吟醸豚」 とは、「黒龍 」の酒粕を混ぜた肥料で育った豚のこと。酒粕でほろ酔いになることで代謝が良くなり、ストレスが軽減され、体内環境が整って良質な肉質となるそうです。塩気のしっかりした生ハムは、まさにお酒にぴったり。

出汁をしっかりと吸った福井の名産トマト 「越のルビー」 とねっとりとした食感の甘エビなどの前菜に合わせた日本酒は「黒龍 いっちょらい」。

「いっちょらい」とは、福井の方言で「一張羅」を意味しています。1975年に全国発売されたこのお酒から漂うのは、「よそ行き」という言葉の意味にぴったりな心地よい吟醸香。今では、コストパフォーマンスの高いお酒として定番酒となっています。

黒龍いっちょらい

焼き物は、「若狭牛の炭火焼」と「油揚げ(谷口屋)のはまな味噌焼き」。

若狭牛は、きめ細かい肉質と上品なサシが特徴。谷口屋の油揚げは分厚く歯ごたえがあり、大豆の甘みと菜種油の香ばしさが特徴の名産品です。家庭の味として愛されている、なすやしその実が入った「はまな味噌」で焼き上げました。

肉

あわせるお酒は、冷酒から燗酒まで美味しく呑めるよう研究を重ね、何度も官能検査をしたという「九頭龍 大吟醸」。冷酒、上燗(45度)、とびきり燗(55度)とそれぞれの温度で提供します。

冷酒は牛肉の脂を流す役割をし、上燗は油揚げの香ばしさとよくあいます。

九頭龍

優しい味わいのおでんには、熱めの燗がしっくりきます。おでんにも 「ほろよい黒龍吟醸豚」 が使われていて、とろける脂と柔らかい肉質を十分に感じられる仕上がり。

おでん

天ぷらにあわせるのは、「黒龍 吟風」。北海道産の酒米「吟風」で仕込むのは、黒龍酒造では珍しいこと。杜氏である畑山氏が北海道・松前出身ということや、北海道の篤農家とのご縁で使うことになったといいます。

黒龍吟風

酒米の王様といえば「山田錦」が思い浮かびますが、水野さんは「山田錦は最初から良い米だったわけではなく、年々ブラッシュアップされてきました。今は、それぞれの地域で良い酒米がたくさん開発されていて、これからは、地産地消の酒造りになっていくと思います」と話します。

福井県でも、新しい酒米「さかほまれ」が誕生したばかり。米、水、酵母、すべて福井県産で大吟醸酒を造りたいという酒造組合の願いがあり、開発された酒米です。今期、福井県内で18蔵が「さかほまれ」で酒造りをする予定で、黒龍酒造も仕込みを行います。

初めて扱う米で手探り状態だと言いますが、この酒米を使った大吟醸が仕上がる日が楽しみです。

黒龍会水野さん

参加者から「黒龍は、ラベルに様々な素材が使われています。何かこだわりがあるのですか?」という質問が。

「限定品のラベルは、越前和紙や越前織を使っています。福井は繊維の町であり、和紙は特産品。“九頭龍” のラベルも元々ベルベット素材で、これも福井で作られていました。今は、その風合いを生かした紙のラベルを社員が一枚ずつ貼っているんですよ」との回答。社員一丸となって努力している様子が伝わってきます。

黒龍会水野さん

締めは、福井の在来種でつくった蕎麦が提供されました。蕎麦本来の風味を味わえる「塩そば」、福井名物の大根おろしが添えられた「越前そば」の2種類です。

そば

お酒は、橘さんと水野さんの出会いの酒「黒龍 しずく」。実は日本酒は苦手な印象があったという参加者も「黒龍を呑んで印象が変わりました。これなら呑める!」と満足の様子。

黒龍会しずく

「お客様は、毎年同じものでは納得して貰えません。昨年以上のものを毎年造っていかなければ。畑山杜氏は天才です。常に疑ってかかるのがいい。本当にこれが酒造りに最適な方法なのかといつも考え、それに基づいて作業が進んでいきます」と、水野さんから杜氏への信頼の高さや二人の絆の強さもうかがえました。

福井の文化を牽引する酒蔵へ

トーク最後の話題は、これからの黒龍酒造のあり方ついて。

黒龍会橘さん水野さん

「総合的に幸せになる空間を作りたい。福井の日本酒、福井の食材、福井の全てが活性化するような場所が理想です。たとえば、フランスであればワイナリーが中心となって文化を作っている場所もありますね。そこにヒントがたくさんあると考えています」

日本酒という枠組を超えて福井全体の活性を考えている水野さんの姿をみて、早速、福井を訪れてみたい気持ちになりました。

(取材・文/まゆみ)

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