長野県松本市といえば、四方を山々に囲まれた街。東には美ヶ原高原、西には北アルプス、街の至るところから美しい山々を眺めることができます。

そんな松本市で「第一回 日本酒唎き酒世界選手権」が8月に行われ、全国からたくさんの日本酒ファンが集まりました。事前に用意された200枚のチケットは見事完売という盛況ぶりです。

「世界から日本酒好きが集まる大会にしたい!」

「この大会は、アマチュアだけでなく、プロや酒造りに携わる人たちも参加できる、"本気の勝負"というのがコンセプトです」と語るのは、イベントを主催する長野県酒造組合 若葉会 会長の黒河内貴さん。イベント名に「世界選手権」と付けられている点からも、その意気込みが感じられます。

長野県酒造組合 若葉会 会長の黒河内貴さん

長野県酒造組合 若葉会 会長の黒河内貴さん

「日本酒の本場は日本です。その日本で行われる唎き酒の大会なら、それは日本一であり、世界一だということです」

また、黒河内さんは海外からの参加者も視野に入れていると話します。

「海外からの参加者が、日本で開催される唎き酒選手権で優勝したら『すごい!』となりますよね。それだけ価値のある大会だと考えています。だからこそ、世界中から参加者が集まってほしいですね」

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

会場は、2018年にオープンしたばかりの複合施設「信毎メディアガーデン」。大分県や愛知県、山梨県など県外からも多くの参加者が集まりました。

参加理由を尋ねてみると、「日本酒が好きだから」という答えがほとんど。胸に貼ったコメントからは、それぞれの意気込みが感じられます。

10種類の日本酒を唎き酒

唎き酒のルールは簡単。10種類の日本酒でマッチング形式です。

まずはイ~ヌの印のついた10種類のお酒を試飲。2分間のインターバルの後、1~10の印のついたお酒を試飲し、同じ銘柄だと思う番号を用紙に記入していきます。制限時間は10分。自分の舌だけが頼りです。

「できるだけシンプルな形式にしたかったんです。たとえば、日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)が開催している『世界唎酒師コンクール』は、プレゼンテーションも含めて語学力が必要です。しかし、今回の大会は、日本語がわからなくても誰でも参加することができ、五感だけの勝負。仕組みと結果が明瞭です」と、黒河内さんは話します。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

「スタート」という合図で予選が始まりました。スポイトを使ってお猪口にお酒を移し、唎き酒をしていきます。次々に飲んではメモを取り、気がつくと5分が経過。あっと言う間に時間が過ぎていきます。

唎き酒中の私語は厳禁です。お猪口をテーブルに置く音と、メモを取るペンの音が会場内に響き渡ります。

「残り10秒」とカウントが始まり、唎き酒は終了。参加者は緊張から解かれたように息を吐きます。みなさんに感想を伺うと、全員が「すごく難しかったです」という第一声でした。

難関は、10種類という日本酒の多さ。「10種類の味を記憶できない」と苦笑いしている方が多く見受けられました。「時間が短く感じられました」という声も多く、楽しもうと気軽に参加された方も、実際にはかなり真剣に唎き酒をしたようです。

友人同士で参加したグループは、「味の印象のメモはみんな似たようなことを書いているのに、なんで選んだ番号はバラバラなんだろう?」と、マッチングの難しさを話し合っていました。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

結果発表を待っている間は、甘酒の唎き酒を体験することもできました。こちらもマッチング形式ですが、甘酒は全5種類と少なめ。日本酒に比べて味の違いがわかりやすいということもあり、正解者は多かったようです。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

甘酒はノンアルコールなので、選手権には参加しない同伴者の方も唎き酒に挑戦。「香り、甘さ、つぶつぶ感で選んでみました」と、唎き酒を楽しんでいる様子でした。

会場には、甘酒の発酵経路などを説明するパネルも設置されていました。甘酒をきっかけとして、日本酒や発酵食品に興味を持ってくれるとうれしいですね。

目指すは、長野を代表する日本酒イベントへ

さて、いよいよ予選の結果発表です。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

参加者全員がメモを見ながら、自分の解答と照らし合わせていきます。6問以上の正解で決勝戦へ進出が確定。なかには8問正解という強者も。最終的に、9名が決勝戦へ進むことになりました。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

予選と同じく、決勝戦も10種類のマッチング形式です。決勝戦へ進めなかった方も、出題されるお酒の唎き酒を同じようにすることができました。緊張感が漂う雰囲気のなか、首を傾げながら唎き酒をしている方も。さらに難易度が上がっていることがわかります。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

「終了!」というアナウンスとともに、決勝進出者は険しい表情。対照的に、出題酒を飲んでいた観覧者は「あのお酒がおいしかったね」と、感想を話し合っていました。

マッチング結果を1本ずつ発表していくと、歓声を上げながら会場が一体となって盛り上がっていきます。

「長野県唎き酒世界選手権」の様子

採点結果は、なんと一着が2名。同点の場合は予選の結果で判断されるため、優勝者は神奈川県から参加した早川サトルさんに決定しました。天下無双の法被を着た早川さんに、盛大な拍手が贈られます。

「長野県唎き酒世界選手権」の優勝者・早川サトルさん

見事優勝を飾った早川さんは、「10種類の唎き酒はやっぱり多かったです」と話します。やはり、数の多さが唎き酒の難易度を上げていたようです。

「日本酒をブラインドで飲むのが好きなんです。家でもお店でも、飲んで銘柄を当てるのが楽しくて」と、日頃から唎き酒をしているのだとか。そんな早川さんは、「次回も参加して、もちろん連覇をねらいます!」と、熱く語ってくれました。

「長野県唎き酒世界選手権」の集合写真

大成功で幕を閉じた「第一回 日本酒唎き酒世界選手権」。主催の黒河内さんは「参加者1万人が目標です」と、今後への意気込みも十分です。

世界中から人が集まる大きな大会となり、松本だけでなく、長野県の日本酒産業を盛り上げてくれることでしょう。次回の開催が待ち遠しいですね。

(文/まゆみ)

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