アルコールが飲めるようになったばかりの20歳にとって、はじめて飲むお酒の印象はとても大切なものです。

そこで、成人してまもない学生たちに先入観なく日本酒のおいしさを体感してもらい、日本酒ファンになってもらおうという大学生限定の日本酒イベント「SAKE Fes in 上田」が開かれました。企画したのは、長野県上田市の大学生有志たちです。

彼らは、自分たちが住む上田市においしい日本酒を醸す酒蔵があることを知り、地場産業として頑張る酒蔵を応援していこうと考えました。その想いに地元の5蔵が賛同し、日本酒を無償で提供してくれたそうです。

イベント当日は230人もの大学生が集結。大盛況に終わったイベントの様子をお伝えします。

「上田の酒蔵を応援したい!」

学生団体「miU3(ミューシー)」のメンバー

学生団体「miU3(ミューシー)」のメンバー

大学生が日本酒を楽しむイベント「SAKE Fes in 上田」。企画したのは長野大学の学生団体「miU3(ミューシー)」です。代表の中村春斗さんは、イベント開催までの経緯について、次のように話してくれました。

学生団体「miU3(ミューシー)」の代表、中村春斗さん

学生団体「miU3(ミューシー)」の代表・中村春斗さん

「ミューシーは地域のために何かをしようという想いで、昨年12月に結成した団体です。具体的に何をやろうかと考えているうちに、たどりついたのが日本酒でした。調べてみると、上田市内にも酒蔵が何軒もあったんです。そんな酒蔵を応援することはできないか、成人になりたての大学生が日本酒と出会える機会をつくるのはどうか。このようにして、話は進んでいきました」。

中村さんたちは、上田市内にある岡崎酒造を訪れ、蔵元社長の岡崎謙一さんにイベントの趣旨を説明します。

それを聞いた岡崎さんは「最近は日本酒イベントに若い人達もたくさん来るようにはなったが、大学生はまだ少ない。日本酒の魅力を若い人にアピールする絶好のチャンス」と感じ、支援に動きます。働きかけの結果、長野県酒造組合上田支部としての後援が決まり、日本酒を無償で提供できることになりました。

「SAKE Fes in 上田」の酒蔵ブースのようす

「日本酒に興味を持つ大学生は多いのですが、イベントの参加費が高ければ二の足を踏みます。そこで参加費をワンコインの500円に設定。会場設営などは自分たちの手作りでやることにしました」と、中村さん。

ただ、前例のないイベントだったせいか学生の反応は鈍く、200人以上の集客目標に対して、告知当初は30人程度で頭打ちになるピンチに陥りました。

「イベントに誘っても、『日本酒はおじさんたちの酒でしょう』という反応が多くて。それを、昔の日本酒とは違うと説明するのが大変でした。でも、参加費を500円としたことで『それなら試しに行ってみようかな』と、参加者を増やすことにつなげることができました。」(中村さん)。

その後、メンバーたちの努力でイベントの知名度をあげ、開催にこぎつけることができたそうです。

日本酒のおいしさに目覚めた大学生たち

「SAKE Fes in 上田」の参加者と参加酒蔵メンバー

当日、イベントに参加したのは上田市内の長野大学、信州大学、上田女子短期大学の大学生など230人。男女の比率は、ほぼ半々。受付では学生証などを提示してもらい、成年か未成年かを確認。お酒が飲めない未成年の参加者には赤いストラップを首に掛けてもらうようにしました。あわせて、車で来場していないかも確認します。

「SAKE Fes in 上田」の受付のようす

また、お酒を飲み慣れていない学生に向けて、イベントの最初には未成年飲酒や飲酒運転の禁止、お酒の強要や一気飲みなどをしないよう、マナー喚起を含めたビデオが流されました。

そして、ついに乾杯の時間です。成年168人は日本酒を、未成年62人は甘酒のグラスを持って、パーティーが始まりました。

お酒を提供してくれたのは、上田市内の岡崎酒造、信州銘醸、沓掛酒造、和田龍酒造、若林醸造の5つの蔵です。各蔵はそれぞれ3種類の日本酒を用意。蔵元と杜氏も参加して、ブースにやってくる大学生に日本酒の説明をしながら、クリア枡にお酒を注いでいました。

「SAKE Fes in 上田」の酒蔵ブースのようす

イベント中盤には、蔵の紹介ビデオの放映も。その後、トークセッションや日本酒が当たる抽選会などが行われました。

参加者に感想を聞くと、「日本酒を飲むのは初めてです。こんなに飲みやすくておいしいとはびっくりしました。機会があれば、これからも日本酒は飲んでみたい。もっと上田の地酒のことを知りたくなりました」「日本酒は前から好きでしたが、蔵によってこんなに味わいが違うとは驚きました。奥が深いんですね」などの声。

「SAKE Fes in 上田」の酒蔵ブースのようす

イベント終盤になっても、酒蔵ブースを訪れて日本酒を求める参加者が途絶えることはなく、日本酒は次々と空っぽになっていきました。

帰り際には、「500円でこんなにおいしいお酒が存分にいただけて幸せでした」「上田に住んでいるのだから、上田のお酒を優先して飲むことにします」「親といっしょに上田のお酒を飲みたい」といった感想も聞けました。

「SAKE Fes in 上田」の参加酒蔵のみなさん

参加した5蔵は、「日本酒に対する先入観がまったくない若い人たちにたくさん飲んでもらえてよかった。反応も上々で、日本酒の未来に明るさを感じました。こうした20代前半を対象とした日本酒イベントが全国各地に広がるといいですね」と、この日の手応えを話してくれました。

今回のイベントではじめて日本酒を味わった大学生は、日本酒とどのように関わっていくのか。彼らの今後が楽しみです。

(取材・文/空太郎)

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