長野県上田市にある5軒の酒蔵が足並みを揃えて、長野県が開発した酒造好適米「山恵錦(さんけいにしき)」を使った純米の日本酒を4月17日に一斉発売しました。それぞれの蔵による違いを楽しんでもらう取り組みです。

地元の大学生がデザインした首掛けで一体感を出すと同時に、上田の魅力もアピールします。それぞれの蔵がどのようなお酒に仕上げたのか。活動のねらいと合わせてお伝えします。

上田の地酒を盛り上げる「上田切磋琢磨の会」

上田切磋琢磨の会が醸した挑戦のお酒

参加したのは上田市の岡崎酒造沓掛酒造信州銘醸若林醸造和田龍酒造の5蔵。

同じ上田市内に蔵を構えており、商圏が重なることから以前は連携が少なかったそうですが、近年は蔵元の代替わりもあって「上田の地酒を盛り上げるために、力を合わせよう」と2015年に「上田切磋琢磨の会」を結成しました。

5蔵は月に1回会合を開いて情報交換を行い、さまざまなイベントでも協力しています。

月に1回交流会が開かれる

そんな会の事務局になっている岡崎酒造の岡崎謙一社長のもとに、上田市から「長野県が開発した酒造好適米である山恵錦を市内の農家が作っている。地産地消の意味でも、よかったら切磋琢磨の会のメンバーで使いませんか?」との問い合わせが飛び込んできました。

岡崎さんがメンバーに連絡すると、みんなが前向きに考えていたので「それぞれの蔵で造り、同じタイミングで発売することで、5つのお酒を飲み比べてもらう機会にしよう」と誘いを受けることにしたそうです。

首掛けには「挑~challenge~信州上田の五蔵は挑戦します」

各蔵の個性が発揮できるお酒を目指して、精米歩合などのスペックは自由に。また、そのお酒が共通企画で醸されたことを示すシンボルは、長野大学の学生からデザインを募集した「挑~challenge~信州上田の五蔵は挑戦します」とのメッセージが書かれている首掛けを採用しました。

蔵の個性が光る!蔵元インタビュー

それでは、5蔵はどのような酒造りに挑み、どのようなお酒になったのでしょうか。蔵元に伺いました。

「信州亀齢」岡崎酒造

「信州亀齢」を醸した岡崎酒造の岡崎謙一社長。

岡崎酒造・岡崎謙一社長

「55%精米の純米吟醸です。麹が予想以上に造りづらく、苦戦しました。また、仕込みの初期で米がとても溶けたので糖分が先行して増え、これには驚きました。経過を見て、味の多い酒に仕上がるのではと予想しましたが、意外にもすっきりとしたきれいな味わいに落ち着きました」

「互」沓掛酒造

「互」を醸した沓掛酒造の沓掛浩之杜氏。

沓掛酒造・沓掛浩之杜氏

「55%精米の純米吟醸です。山恵錦は初めて扱う米なので、手探りで造ることになると思っていました。それならば酵母も新しいものに挑戦しようと決め、協会6号酵母を採用しました。実際に麹造りに取り掛かると、ほかの酒米に比べて水気があり、少しべたつくような印象を受けました。

目指した酒質は、山恵錦の名前から山の恵みに合うお酒。山の恵みには山菜など癖のある味わいが多いので、酸味と旨味がしっかりと表現されているお酒にして、相性のよいものに仕上げることができました」

「明峰喜久盛」信州銘醸

「明峰喜久盛」を醸した信州銘醸の滝澤恭次社長。

信州銘醸・滝澤恭次社長

「数年前、長野県が山恵錦を開発中の段階で依頼を受け、試験醸造をしたことがあります。その時はお米を磨いて純米吟醸を造ったのですが、個性がいまひとつ少ない印象でした。

そこで、今回はあまり磨かない70%精米の純米酒に挑戦しました。ほかの酒米の新酒に比べると、丸みがある印象。熟成によって味がどう乗ってくるのかが楽しみです」

「つきよしの」若林醸造

「つきよしの」を醸す若林醸造の若林真実杜氏。

若林醸造・若林真実杜氏

「長野県にあるほかの酒蔵からの情報では、搾った直後は味がすっきりしすぎる傾向があるとのことでした。なので早めに仕込みを行い、一定期間寝かせてから出荷することに決め、昨年12月に搾りました。実際に造ってみるとお米はすごく溶けて、香りも強い。搾ってみると、香りはバナナそのもの。しかし、味はすっきりとしていて薄い印象でした。

そこで、予定通りに瓶詰めをしてから冷蔵庫で3ヶ月以上寝かせたところ、味も乗ってきているし、香りも適度な吟醸香にまとまっていて安心しました。55%精米の純米吟醸ですが、山恵錦の味の特徴をうまく表現できていると思います」

「和田龍 登水」和田龍酒造

「和田龍 登水」を醸す和田龍酒造の和田澄夫社長。

和田龍酒造・和田澄夫社長

「先行して造った蔵の情報をもらいましたが、基本的には従来通りの麹造りと醪管理をしました。55%精米の純米吟醸を造った結果、好ましい香りと透明感があって、きれいな酸味もある予想以上の出来になりました。登水が使う定番の酒米は山田錦と美山錦、ひとごこちの3種類ですが、そのいずれにも似ていない個性がある酒米なので、4つ目の定番にしようかなと思っています。

私は石橋を何回も叩いて渡る慎重な性格なので、今回のような機会がなければ、山恵錦を使うことはなかったと思います。そういう意味でも、5蔵共同の企画はよかったですね」

山恵錦を使った上田切磋琢磨の会の挑戦

5蔵はそれぞれ取引している酒販店が異なり、5銘柄をすべて取り扱う酒販店が少ないこともあって、各地で行われるイベントには5銘柄を揃えて出品していくそうです。

「上田産の山恵錦で醸した日本酒を楽しんでもらうことで、上田市の宣伝にもなれば嬉しいです。評判がよければ、来年以降もさまざまな企画を考えていきたい」と岡崎社長は今後の意欲も見せていました。これからの「上田切磋琢磨の会」に期待が高まります。

(取材・文/空太郎)

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