長野県の酒蔵後継者5人が結成した酒蔵ユニット「59醸(ごくじょう)」は、毎年テーマを決め、それぞれが独自の造りにチャレンジするという面白い企画を行っています。4季目のオリジナル日本酒が出来上がりましたので、メンバーにその出来栄えを聞いてきました。
ユニット名の由来は、メンバー全員が昭和59年度生まれということから。参加メンバーは以下の5人です。
- 村松裕也さん(飯山市/角口酒造店「北光正宗」)
- 関晋司さん(中野市/丸世酒造店「勢正宗」)
- 沓掛正敏さん(上田市/沓掛酒造「福無量」)
- 飯田淳さん(長野市/東飯田酒造店「本老の松」)
- 飯田一基さん(長野市/西飯田酒造店「積善」)
2018年のテーマは「18金」。その理由とは
4季目となる今年のテーマは「18金」。その趣旨を村松さんが次のように話してくれました。
「これまで59醸では、長野で獲れる酒米の美山錦、ひとごこち、しらかば錦と順番に手がけてきたので、今季は金紋錦を選びました。『2018年』に『金紋錦』で造る酒ということで、テーマを『18金』に決定。火入れの純米吟醸、59%精米、アルコール度数15度という共通のルールのなかで、メンバーがそれぞれ独自に意味を解釈して酒造りを競うことにしました」
各メンバーはどのような酒造りに挑んだのでしょうか。金色のラベルには各蔵の特徴を表すキャッチコピーが書かれています。
北光正宗は「キレッキレで、キラッキラ」
角口酒造店の村松裕也さん(昭和59年7月31日生まれ)の造った59醸酒は、ドライでキレの良い酒質。
「過去3年間はやや奇をてらった酒に挑戦してきたので、今季は北光正宗の酒造りの王道で行くことにしました。『18金』がテーマなので、日本酒度も+18です。
日本酒度が+10を上回ると『超辛口』と表現する酒蔵が多いのですが、59%精米の純米吟醸というスペックで造ると、ただ辛いだけで味わいが薄っぺらいものに陥りがちです。そこをどうやって克服して味わいのある辛口に仕上げるかが課題でした。
あれこれ思案して、搾った後の生酒を火入れするまでの日数を、普段よりも延ばして20日後にしてみました。生酒で貯蔵している間に角が適度に取れてうまみを乗せることに成功。山菜の料理と合わせて呑んでいただきたいです」
勢正宗は「甘いだけじゃないんだぜ」
丸世酒造店の関晋司さん(昭和59年10月21日生まれ)の造った59醸酒は、金紋錦の四段仕込み。
「『18金』の金を菌と置き換えて、麹菌をテーマにできないかと考えました。うちのお酒の特徴は三段仕込みの後に、蒸したもち米を四段目に投入することです。それならばと四段目に金紋錦の麹米を追加することにしました。
蒸したお米は醪の中ですぐに溶けるので、搾りが間近のタイミングで投入しますが、麹米は硬いのですぐ溶けません。どのタイミングで入れるかは悩みました。麹米を余計に入れると糖化酵素が増えて甘口になる傾向がありますが、それを抑えて独特の旨みを表現してみました。
できあがったお酒はふくよかですっきりとした味わいに。カレイの煮付けなどの醤油ベースの魚料理や洋風の白身魚のソテーと合わせて呑んでいただきたいですね」
福無量は「曲名に『金』と入ったクラシックを十八曲聞かせました」
沓掛酒造の沓掛正敏さん(昭和59年11月13日生まれ)の造った59醸酒は、2つの酵母の組み合わせ。
「『18金』の解釈は、協会1801号酵母を使うことに。ただし、1801酵母を単体で使うとフルーティー過ぎてしまうので、酒母造りでは協会9号を使い、三段仕込みの二段目となる仲仕込みの時に1801号酵母を追加投入してみました。
また、醪に音楽を聴かせる音楽醸造に以前から関心があったので採用することに。『18金』がテーマなので、クラシック音楽でタイトルに『金』とつく曲を18曲選んで聴かせてみました。探してみると、ホルストの組曲『惑星』の中の『金星』、チャイコフスキーのくるみ割り人形の中の『金平糖の精の踊り』など、意外と簡単に見つかりましたね。
音楽を流してお酒がよりおいしくなったかどうかはわかりませんが、1801号酵母を添加しても9号酵母の力が優勢で、期待していたほどの華やかな香りは出ませんでした。けれども、できあがったお酒はぶどうの酸味を感じるさわやかな甘さのあるお酒になりました。鶏の照り焼きや焼き鳥と合わせて呑んでほしいですね」
本老の松は「ゴージャス、エロ。ターゲットは○姉妹」
東飯田酒造店の飯田淳さん(昭和59年11月24日生まれ)の59醸酒は、金の輝きのような派手さと繊細さを兼ね備えた酒。
「『18金』からジュエリーを連想し、ゴージャスな酒質を目指すことにしました。甘味を強調するために、種麹にはグルコースをたくさん造る麹を選択。さらに振りかける量も多めにしました。香りも華やかにしたいので、長野県のD酵母と、うちの蔵の十八番(おはこ)である協会901号を併用してみました。
造りの期間、低温が続いて発酵が進まず心配しましたが、後半は徐々にいいペースに落ち着いて無事に搾れました。甘さも香りも目標よりやや少なめになりましたが、吟醸酒らしい仕上がりになったと思います。鯛のカルパッチョと合わせて楽しんでほしいですね」
積善は「酵母ありきだけど主張は俺」
西飯田酒造店の飯田一基さん(昭和59年4月1日生まれ)の59醸酒は、花酵母を使ったキレのよい酒質。
「『18金』を十八番(おはこ)と理解し、うちの本筋である花酵母の酒を造ることにしました。さらに、挑戦する要素として、金(=ゴールド)が名前に入っているマリーゴールドの花酵母をはじめて採用しました。
目指したのは、この酵母の特徴である旨味と酸味が明快でキレのよい味わい。金紋錦は硬くて溶けにくいのが特徴で、搾った後の味乗りに時間がかかるだろうと予想し、他のメンバーよりもはるかに早く、昨年の暮れに造って、クリスマスイブに上槽しました。そのあとは火入れをしてから寒い蔵で貯蔵します。これが功を奏しましたね。魚料理よりも肉料理、特にラムチョップを食べながら呑んでほしいです」
全国に広がる「59醸」の輪
5種類の極上酒を飲み比べてみると、いずれのお酒もそれぞれ明確な個性が出ていて楽しめました。全体としては淡麗な旨味に酸味と渋味が絡まる白ワイン的な仕上がりが多く、ボトルのイメージともぴったりです。
59醸のメンバーは「全国にはまだまだ多くの同級生の酒蔵跡取りがいる。彼らにも声をかけて59醸をさらに盛り上げていこう」と話し合い、全国の知り合いに呼びかけました。それに呼応した千葉県の飯沼本家、東京の小澤酒造、新潟の竹田酒造などが加わり、イベントの開催が決まりました。
昭和59年生まれの酒蔵跡取り総勢11蔵による、38銘柄の日本酒を楽しめるイベント「59醸メッセ」。6月23日に長野市で開催されます。もちろん、今回ご紹介した「18金」の59醸酒の飲み比べもできます。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
(取材・文/空太郎)
◎イベント情報
- イベント情報:「59醸メッセ」
- 日時:2018年6月23日 13:00~19:30
- 会場:againホール(長野市北石堂町1429-1 again 7F)
- 料金:前売2,500円、当日3,500円、お食事プレート500円(数量限定)