長野県北部の若手蔵元後継者5人が結成した酒蔵ユニット「59醸(ごくじょう)」。3年目のお酒が完成したとのことで、お話を聞いてきました。

テーマは「3年目のうわき」!遊び心を加えた日本酒

5人が全員、昭和59年度生まれということから「59醸」と名付けられたこのユニット。

5蔵の将来を担う、30代前半の後継者たちにより誕生しました。毎年テーマを決めて、各蔵がそれぞれ思いを込めて造る。そうして出来た酒を、多くの人に呑み比べてほしいというのが「59醸」の趣旨です。

1年目は長野県産美山錦を使った59%精米の純米吟醸酒。2年目は酒米を変え、長野県産ひとごこちを使った59%精米の純米吟醸酒でした。3年目の今季は長野県産しらかば錦を使った59%精米の純米吟醸です。

今年のコンセプトは「3年目のうわき」。
1,2年目は各蔵とも"お家芸的な手法"で酒造りに挑みましたが、3年目は蔵のスタンダードな造りからちょっぴり浮気をしてみましょう、という遊び心の提案です。

メンバーはそれぞれ蔵で酒質設計を考え、それに基づいて酒造りに臨んだそう。完成したお酒の出来栄えを、各蔵にうかがいました。

目指した酒は嫌いな酒?それぞれの浮気とは

沓掛酒造 十八代目蔵元・沓掛正敏さん

沓掛正敏さんは昭和59年11月13日生まれ。
高校卒業後、音楽教師を目指して音大に進学。家業は弟が継いでいたので、自身が蔵に戻る必要はなかったそうですが、業界の不振を耳にし、"自らも関与しなければ"と帰蔵。現在は弟が造りを、正敏さんは経営を担当しています。

「普段の酒質は、呑み飽きしない優しい味わい。この特徴は堅持しつつ、ちょっとだけ浮気をすることにしました」

酵母は10年ぐらい前まで付き合っていた長野C酵母(アルプス酵母)を採用。造りについては、酒母に使う麹は突き破精型に、仕込みに使う麹は総破精型にこだわったそうです。

「造りに入ると、仕込み初期は思ったよりも発酵が進んで心配になりましたが、その後は落ち着いてくれました。

甘口と中口が多い"いつものうちの酒"から浮気して、ほんの少し辛口に仕上げました。 搾った直後はちょっと味が少ないかなと感じましたが、2ヵ月経って、味乗りしてきたので安心しました」

角口酒造店 六代目蔵元・村松裕也さん

昭和59年7月31日生まれの村松裕也さん。杜氏に就任以来、酒質を大幅に向上させるとともに、ラベルデザインを一新させ、多彩な商品企画を展開するなど、アイデア豊かな方。ユニットの活動を引っ張る役割も担っています。

「本気にならない程度の浮気をしようと酒質を設計しました。ドライな酒がうちの特徴なので、それをあえてスイートに置き換えてみることに。甘さを出すための方法として、3段仕込みではなく4段仕込みにしました。香りが高く、甘さもあるものの、後半のキレは残すことを目指しました。

また、男気のある酒がうちの売りですが、今回は色気を出すように心がけました。結果はほぼ狙い通り。知人に『エロい酒を造ったね』と言われて、うれしかったですね」

丸世酒造店 五代目蔵元・関晋司さん

関晋司さんは昭和59年10月21日生まれ。
大学では畜産学を学び、その後東京で営業職に就いていましたが、「自分の造ったものを売りたい」という思いが募って家業を継ぎました。実質、父と2人での造りで、4段仕込みを得意としています。

「今までやっていない味わいを出したかったので、長野県が14年前に開発した、リンゴ酸をたくさん出す酵母を採用しました。さらに、うちの十八番である4段仕込みは封印して、3段仕込みにしました。3段仕込みといっても、3段目に蒸米を入れるのではなく、甘酒を入れる方法で。1段目に投入する米の量が多いので、踊りを2日にして、発酵もあえてゆっくり進むようにしました。

ですが、思った以上に発酵が進まず、アルコール度数も上がらなかったため、仕込みの期間がとても長くなってしまいましたね。さらに搾った直後は、かなり酸っぱかったんです。尖りすぎていて、このままじゃ呑みづらいと思ったので、瓶詰めしてから火入れ処理するまでの日数を伸ばしました。その結果、イメージ通りの味わいになったと納得しています」

西飯田酒造店 九代目蔵元・飯田一基さん

飯田一基さんは昭和60年4月1日生まれ。
東京農業大学で花酵母を研究し、卒業後は花酵母で有名な茨城・来福酒造で修業。その後、蔵に戻って多彩な花酵母を使ったお酒を造っています。年々腕を上げており、修業先の来福酒造に迫る勢いとも。

「浮気ということで、自分の苦手な酒質にしようと即決しました。

僕は花酵母に全力を投じているので、花酵母以外に浮気するというのも手でしたが、それでは芸がない。東京農大はたくさんの花酵母を開発していて、まだ使っていない酵母もたくさんあります。なので、その中から僕が苦手なカプロン酸エチルの香りをたくさん産生する酵母を探し、あじさいの花酵母を採用しました。あじさいの花言葉が『移り気』なので、今回の企画にぴったりでしたね。

麹造りについても、米の旨味を出したかったので、来福酒造の修業時代を思い出しながらがんばりました。搾った後の印象はやっぱり香りが強く、僕としては好みではありません。ただ、酸もしっかり出すことができたので、バランスのいい酒に仕上がりました。作品としては満足です」

東飯田酒造店 蔵元六代目・飯田淳さん

飯田淳さんは昭和59年11月24日生まれ。
元々家業を継ぐ気はなかったそうですが、繁忙期に頼まれて手伝っているうちに、だんだんと酒造りにのめり込み、気が付いたら後継者になっていたそう。妹も酒造りに参加するようになり、ふたりの若いセンスが商品開発にも反映されつつあります。

「1年目も2年目も浮気的な挑戦をしてきたので、今回はほんの少しの浮気にしようと。まず酵母は、通常のきょうかい901号に加えて、明利系のM-310を追加して仕込みました。

最初の10日間は順調でしたが、寒気のせいもあって、醪が冷え込んで発酵が低調に。焦って温度を上げようとしたもののうまくいかず困りました。『これはひょっとすると酵母に浮気されているのでは?』『僕がもてあそばれているのかな?』とも思いましたね。

仕込み日数は大幅に伸びてしまいましたが、搾ったお酒は綺麗で、口当たりが甘くありながら、スっと切れる。我ながら美味い!とほくそ笑みました」

酒蔵ユニット「59醸」は活動期間を10年に区切っているそう。
10年間、5人でお互いを刺激し合い、酒質レベルも売り上げも向上させ、全員が蔵の堂々たる後継者になることを目指しています。

5月13日(土)には長野市内で、20日(土)には銀座NAGANOで「59醸」の試飲イベントがあるので、興味のある方はぜひ、足を運んでみてください。

彼らのこれからのがんばりを応援しましょう。

(取材・文/空太郎)

◎イベント概要
59醸酒 2017リリースイベント

  • 日時:5月13日(土)
    第1部 17:00-19:30
    第2部 20:00-22:30
    第3部 23:00-26:00
  • 参加費:前売2,200円、当日2,500円
    2部通し 前売3,900円、当日4,500円
    3部通し 前売5,600円、当日6,500円
  • 会場:meal records(長野県長野市鶴賀上千歳町1370)
  • 申込:チケット購入はこちらから

「3年目のうわき」は大目に見られる範囲ですか?

  • 日時:5月20日(土)
    第1部 11:30-13:00
    第2部 13:30-15:00
  • 参加費:1,500円(税込) 59醸酒5杯+料理
  • 会場:銀座NAGANO(東京都中央区銀座5丁目6-5 NOCOビル1F、2F、4F
  • 申込:チケット購入はこちらから

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