日本酒の「原酒」とは、醪(もろみ)を搾ったあとに水を加えていない日本酒のことを指します。

世界中の醸造酒のなかでもアルコール度数が高い日本酒は、原酒で度数が20%を超えるものもあります。そのため、多くの日本酒では加水(割水)を行って、アルコールの割合を下げ、味わいのバランスを調整しています。

この記事では、日本酒と加水の関係について考えてみます。

「原酒」って、どんなお酒?

日本酒は、発酵のスターターとなる酒母と原料(蒸米、米麹、水)を混ぜた、「醪」と呼ばれるどろどろの液体の状態でアルコール発酵を行い、最終的に酒(液体)と酒粕(固体)に分ける「搾り(上槽)」を行います。

搾られたばかりの酒は、でんぷんやタンパク質、清酒酵母などが酒の中に残っているため、白く濁っています。これらは「澱(おり)」と呼ばれ、数日間放置するとタンクの底部に沈殿するので、「澱引き(おりびき)」を行って取り除きます。

一般的な酒は、澱引きしたあと、さらにろ過、火入れ(殺菌)、加水などが行われ、出荷されます。

割り水

澱引きされ、ろ過をしていない酒は、少し黄色がかった色をしていますが、ろ過をすることで無色透明に近い色に変化します。

澱引きをして、ろ過・火入れ・加水を行っていない酒が「無濾過生原酒」。澱引き・ろ過を行って、火入れ・加水を行っていない酒が「生原酒」、澱引き・ろ過・火入れを行って、加水を行っていない酒が「原酒」です。

割り水

水を加えるという意味では、酒造りには「追水(おいみず)」という工程もあります。「追水」とは、アルコール発酵を促進させるために発酵中の醪に水を加えることです。

酵母は発酵中にアルコールの影響でストレスを受けるのですが、ここで水を入れて糖濃度やアルコール濃度を下げてあげると、発酵力を取り戻します。

割水すると、味わいはどう変わる

割水(加水)は、搾りたての原酒に対してアルコール度数や味わいのバランスを調整のために行われます。

それでは、市販の原酒を水で割ってみると、味わいの変化はあるのでしょうか。実験して確かめてみましょう。

割り水

用意するものは、原酒の日本酒、液体を1ml単位で計量できるメスシリンダー、微量の液体を計量して取り分けることができるマイクロピペットやホールピペット、グラスやお猪口です。

日本酒の割水数量は、「個数計算」という方法で行われます。計算式は、以下のとおりです。

  原酒のアルコール度数(%) × 原酒の容量(ml)
+ 水のアルコール度数(%) × 水の容量(ml)
= 割水後のアルコール度数(%) × 割水後の容量(ml)

水のアルコール度数は、当然のことながら0%ですから、上記の計算式は、

 原酒のアルコール度数(%) × 原酒の容量(ml)
= 割水後のアルコール度数(%) ×[原酒の容量+割水の容量](ml)

のように表すことができます。割水の容量を求めたいときは、

  割水の容量(ml)
=[原酒のアルコール度数(%) × 原酒の容量(ml)/割水後のアルコール度数(%)]-原酒の容量(ml)

で、算出することができます。

割り水

今回の実験では、アルコール度数17%の原酒30mlを市販の天然水を使って割り、アルコール度数10~16%に調整してみます。

アルコール17%の原酒30mlを、アルコール度数16度にするには、上記の計算式に倣って以下のように計算します。

 [原酒のアルコール度数(%) × 原酒の容量(ml)/割水後のアルコール度数(%)]-原酒の容量(ml)
=[17% × 30ml/16%]-30ml
=1.875ml

同じように、アルコール17%の原酒30mlを、アルコール度数12度にするには、上記の計算式に倣って以下のように計算します。

 [原酒のアルコール度数(%) × 原酒の容量(ml)/割水後のアルコール度数(%)]-原酒の容量(ml)
=[17% × 30ml/12%]-30ml
=1.25ml

割り水

清酒は液体ですが、アルコールのような比重が小さいものと糖のような比重の大きいものが混ざっているので、水を加えたあとは、よく撹拌します。

調整し終わった酒をアルコール度数が低い順にきき酒してみると、以下のように味わいが変化し、しっかりと違いが表れました。

  • 10%:穀物の香りがついた水のよう。
  • 11%:穀物の香り、甘みあり、酒感は薄い。
  • 12%:軽い、甘い、後口にアルコールを感じる。
  • 13%:軽い。甘い、香味クセのない味。
  • 14%:甘さにコク味が加わる。
  • 15%:甘み、旨味、酸味も感じる。後口にアルコール感。エステル系の香り。
  • 16%:ボディ感あり。旨味強く芋のような穀物の香りに、エステル、イソアミルアルコールを含む。
  • 17%:フルボディ。エステルを強く感じる。

度数11~12%を境にアルコール感が出てきて、度数13~14%を境にコク味と旨味を感じるようになります。ここが私が酒を薄いと感じるか、味を感じるかの境目のように思いました。

15%を超えると、エステルのような揮発性の化合物の香りを感じ、度数16%を超えるとふくらみや重厚さも出てきます。

割り水

こうして比較してみると、割水は単にアルコール度数を下げるだけではなく、他の成分の感じ方にも影響して、日本酒を飲みやすくする効果があるとわかります。加水することで、糖やアミノ酸の割合を薄め、このボリュームを全体的に下げることで料理を邪魔せず飲み飽きない味に整えることができるのです。

燗酒にすると加水の効果がもっと顕著に表れます。日本酒にスプーン1杯分の水を入れて燗にするだけで香味が大きく変わります。

炭酸水や氷を加えて、原酒を飲みやすくアレンジ

近年は、原酒ながらアルコール度数が13%程度の「低アルコール原酒」という商品も出てきています。原酒なのにアルコール度数が低いというのはどういうことなのでしょうか。

1979年発行の「清酒製造技術」(日本醸造協会刊)には、低濃度酒の製法についての記載があります。そのころからアルコール度数が低くて飲みやすい日本酒の需要はあったようで、「ソフト清酒」や「やわ口」などといった名前で開発が進んでいました。

現在主流の「低アルコール原酒」は、醪仕込中に追水を行って、低アルコールを維持しながら造る製法が多いです。この仕込方法のメリットは、清酒酵母へのアルコールによるストレスがかかりにくいという点にあります。

他にも、麹歩合を増やしながら味を増す方法や甘味と酸味でバランスを取るもの、発泡性や濁りで味の不足を補うものなど、蔵ごとに異なるアプローチで造られた低アルコール原酒があります。

原酒は味わいがしっかりしていますが、アルコールが強くて飲みにくいと思ったら、水や氷、炭酸水を加えてみてください。自分で飲みやすくに調整してみると、新たな日本酒の魅力に出会えるかもしれません。

(取材・文:リンゴの魔術師/編集:SAKETIMES)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます