SAKETIMESライターの片桐新之介(利酒師・焼酎利酒師)です。

今日は、若手の酒蔵経営者として非常に評価の高い、和歌山県平和酒造代表取締役専務山本典正さんが昨年12月に出版した、「ものづくりの理想郷」~日本酒業界で今起こっていること~を紹介したいと思います。

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北新地の日本酒バー「山吹」にて、山本さんと片桐のトークショー。この日山本さんは東京マラソンを完走してからの大阪入り(さらにこのあと車運転して和歌山まで帰られました、、、すごい体力です)

1.斜陽からの「夜明け」

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山本さんが稼業を継ぐべく実家に帰ってきたのは、10数年前。まだ日本酒の消費量は下がる一方の「斜陽産業」だった時です。しかし、山本さんはそこに可能性を感じていました。

長い引用になりますが「日本酒に限らず、日本人の生活に長く寄り添ってきたにもかかわらず、斜陽となってしまったのは、当然のことながら、かつての顧客が高齢化し、取って代わるべき新規の顧客が増えていないということだ。新規の顧客を得られない理由は、そこで生み出されているものに魅力がないか、魅力あるものが生み出されているのに消費者に伝わっていないか、そのどちらかである。」と指摘します。
この問題提議から、山本さんは「魅力的な商品を消費者に届ける努力」をしなければならないと感じて、さまざまな取り組みを行います。もちろん、核となる日本酒自体が質の高いものであることは大前提として取り組みます。

そして、日本中の小さな酒蔵で活動する若い酒蔵の仲間たちと「若手の夜明け」という試飲会を継続的に主催するようになり、毎回1000人から3000人の集客を得るイベントまで成長してきました。日本酒に魅力がないからでなく、魅力的な商品であることを伝える努力があれば、日本を代表する産業になれるという可能性を自ら実践することで示してきたのです。

2.伝統を守ることと旧モデルからの脱却の両立

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山本さんが取り組んだことは、「伝統を残しつつ」「閉鎖的な環境は変える」という、非常に難しい経営革新でした。もちろん日本酒は人がつくります。伝承された技術が必須です。

旧来の日本酒の生産体制は、酒蔵のオーナー(酒造会社の社長)がいて、杜氏さんが「蔵」に関する一切を取り仕切る、という形でした。経営者でさえも立ち入ることのできない状態であると言っておられます。

山本さんはそこに変えるべきものを見出しました。そこには非常に多くの苦労がありました。紙パック重視の酒づくりからの脱却、試行錯誤のマーケティング、、、多くの苦労がうかがい知れます。

そして一方、若い蔵人の採用を、地元だけでなく全国の若い人から行っていきます。いまでは、大卒の若者がどんどんこの蔵に就職をしたいと集まってきています。それを可能にしたのはなんでしょうか。

もちろん詳しくはこの本に書いてありますが、ひとつだけお話するとすれば、それは「社会全体の硬直化」を、本能的に感じている若者が増えているのではないかと思うのです。大企業はどうしても均質的な人材を求める。しかし、そうではないと感じる若者が増えてきています。

その1つの形として、平和酒造に優秀な学生が全国からエントリーシートを送付するという事態につながっているのだと私は見ています。

3.これからの日本酒業界

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日本酒業界は今どんどん若い人が注目されつつあります。伝統的なものづくりの技法を継承しながら、かつてのような徒弟制度、階層組織などとは違った組織を作りながら、海外の市場も見据えた新しい商品へのチャレンジがどんどん生まれています。山本さんはその流れの中で、「新しいものづくりの成功モデル(=理想郷)」を作ろうとされています。そのために、「働くことの価値を蔵人たちと共有する」ことを大切にされています。

まだまだ「これだ!」というモデルには至っていないと山本さんはいいます。しかし私には、これから先に平和酒造はじめ多くの酒蔵が、そのモデルにどんどん近づいていくように感じます。なぜなら、多くの若い未来を担う世代が育ちつつあるからです。これは生産側だけでなく、若い大学生が日本酒をたのしもうという活動を積極的に行っていることも私は見ているからです。

この本は、よくある日本酒本の「おいしい酒とは?」「この酒蔵の特徴とは?」ということはほとんど語られていません。むしろ、書店で言えば経営学のコーナーに並ぶべきものでしょう。もしあなたが、これから先の世の中について、あまり明るくない見通しを持っているのであれば、「古い体質を変えて新しい企業になるなんて難しい」と思っているのであれば、ぜひこれを読んで欲しいと思っております。

もちろん、変えること、変わることは一筋縄ではいきません。でも、この本はそんなあなたに勇気を与えてくれます。「夜明け」を見せてくれます。

 

「ものづくりの理想郷」 アマゾンで絶賛発売中!
発行:ZERO 発売:インプレス
ISBN978-4-8443-7666-8

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