酒造りには水をたくさん使います。

当然きれいな水でないといけませんが、同時に“水の量”というのも重要です。なぜなら、酒造りには仕込み水のほかにも、精米、米研ぎ、瓶洗い、タンク洗いなどに大量に水を使うからです。その水源は川からそのまま引っ張ってきて使うのではなく、湧水や井戸水、伏流水を汲み上げて使ったり、場合によっては水道水を使うところもあるようです。

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水道水は、実は酒造りには不向きです。

水道水は我々が安全に飲めるように塩素が含まれていますが、この塩素の臭いがお酒につくのを杜氏は嫌います。また、水に鉄分が含まれていると、麹との反応でお酒に色がついてしまうことがあります。

では、蒸留水のようなきれいな水であればよいかといえば、酵母や麹が健全な生育をするためにはマグネシウムやカルシウムといった無機成分が必要なので、きれい過ぎてもうまくいきません。また、生酛造りに使う水には硝酸還元菌が一定以上含まれていることが条件になります。

水の硬度も大事な要素で、酵母の発酵とお酒の出来に関わります。灘五郷を代表とする硬水は発酵が旺盛でシャープな味わいの酒に、伏見を代表とする軟水は発酵が穏やかに進み口あたりのやわらかいお酒になりやすいと言われています。

目指す酒質に合った水を確保できない場合は、水の加工を行うことも。水道の蛇口に浄水器をつけるような方法で濾過したり、限外濾過という方法で目に見えない粒子や菌を除去したり、UV灯を使って殺菌する例もあるそうです。不足している無機成分があれば、適切量の薬品を使って補う場合もあります。

水の循環を考えるのも蔵人の役目

大量の米研ぎ汁、もろみタンクを洗った水、瓶を洗った水。それらの水はどこに行くのでしょう?

使用済みの水の処理については、水質汚濁防止法や浄化槽法、下水道法、自治体の条例などで処理方法が定められています。一般的な生活廃水同様に下水管に流す場合もありますが、山奥で公共下水道が完備されていないところもあるわけです、そのような小規模な蔵の場合、法令に準じて川などに流してもよいことになっています。

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河川に棲む生き物の自浄作用が働いているならばこれでよいのです。ですが、問題はみんながそれをやっていると河川や海はどうなるかということ。せっかく酒造りのための引いてくる水にはこだわっているのに。

そこで、近年では酒造りで使った水の処理の研究が進みました。ここでも活躍するのは酵母をはじめとする微生物です。酒類総合研究所では、廃水に含まれるデンプンを分解するのが得意な酵母や、繊維質を分解する微生物を開発しています。酒蔵でも、廃水をきれいにして河川に返すために、大きな処理場を設置しているところもあります。

日本酒造りで重視されるのは仕込水。その水が手に入るのは、豊富な水源がある日本ならではでしょう。

ならば、その水を自然にお返しするときは、きれいにしてから返したいものです。めぐりめぐって水源を汚してしまいますから。登山や釣り人、キャンパーの標語「来た時よりも美しく!」これはこれからの酒蔵のテーマになっていくのではないでしょうか。

(文/リンゴの魔術師)

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