こんにちは、SAKETIMESライターの山口直樹です。
普段は北陸・新潟の日本酒と食材にこだわりぬいたお店「方舟」にて飲食店の現場に立っています。

甘口の日本酒、というと一般的には「初心者向き」というイメージを持たれがちですが、今回はそんな印象を変えられるような、甘口日本酒の奥深さを書いてみました。

1. 甘口のお酒は飲みやすい?

甘口のお酒であるほど、誰にとっても飲みやすいことは確かです。

これは甘味=糖分は体にとって必ず必要なエネルギーとなるものであって、ゆえに本能的に誰にとっても好ましいものだからなのです。同じように旨味成分には生きていくために必要なアミノ酸が含まれるため、誰にとって本能的においしいのです。

一方で本能的には「酸味=腐敗」のシグナル、「苦味=毒性」のシグナルと捉えるように人間の体はできています。
そう考えると、いわゆる、大人っぽい味がおいしいと感じるようになるのは味覚が成長しているとも言えますが、見方によっては感覚が麻痺しているとも取れるので面白いですよね。

 

2. 販売戦略での甘口のお酒

このような本能的な部分というのは、当然の事ながら大手企業の販売戦略にも活かされます。

NHK連続テレビ小説「マッサン」の中でも主人公は自分が目指す「本物の味わい」と「ウイスキーを飲みなれない日本人が飲みやすい味」の狭間で苦悩し、葛藤します。

同じように、酸味と渋味が特徴という本能的に受入れ難いお酒であるはずのワインを飲みなれない日本人に紹介するために、最初に受け入れられたワインは赤玉ポートワインでした(現在は赤玉スイートワインという名前で発売されています)。
たしかにこのように、販売戦略の中で本当の「ワイン」とは言いがたい甘口のお酒が台頭したことも事実です。
※ワインが果実酒であることに対して、赤玉ポートワインは味わいを甘口になるよう調整した甘味果実酒になり、正式にはワインとは異なります。

しかし、それによってすべての甘口酒をひとくくりに初心者向きと思われてしまうことは残念でなりません。

 

3. さいごは甘口に戻る…レストランで上手に甘口のお酒を頼む人は格好いい。

いちソムリエとして断言します。甘口のお酒をレストランで頼むことは格好悪いことではありません。むしろ、相当な上級のお客様である場合が多いです。

何といっても、お酒の知識に精通している人であればあるほど、「本物の甘口」を造り出すことがいかに難しいことか、価値があることかを知っています。
たしかに甘口酒には、初心者向きの一面もあるかもしれません。でも、本当のツウならばさいごは甘口に戻ってくると言っても過言ではないと思います。

本能的においしい…自らのDNAを喜ばしてくれるようなお酒に出会ってみたくはありませんか?

 

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