SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、国連が定めた17の持続可能な開発目標のこと。経済合理性や環境負荷への対策など、より良い世界を目指すために必要な普遍的なテーマで、日本でもさまざまな企業や団体でサステナブルな取り組みが積極的に推進されています。

こと日本酒に目を向ければ、数百年の歴史を持つ酒蔵も数多く、地域に根ざし、人のたゆまぬ営みのなかで育まれてきた産業のひとつ。サステナビリティという概念が広がる以前から、その実践を行ってきたともいえるのではないでしょうか。

この連載「日本酒とサステナビリティ」では、日本酒産業における「サステナビリティ(持続可能性)とは何か?」を考えるために、業界内で進んでいるさまざまな活動を紹介していきます。

今回紹介するのは、石川県の能登地方にある数馬酒造です。「酒蔵 SDGs」のキーワードで検索すると上位に表示される酒蔵で、企業として「SDGs」に取り組むことを力強く表明しています。

5代目蔵元で代表取締役の数馬嘉一郎(かずま・かいちろう)さんに、数々の取り組みの背景や経営哲学についてうかがいました。

能登の景観を自分たちで守る

能登半島の北東部、宇出津港を望む石川県鳳珠郡能登町に位置する数馬酒造は、1869年(明治2年)に創業。1951年(昭和26年)に法人化し、酒造りに取り組んできました。

代表銘柄「竹葉(ちくは)」は、2017年に全国新酒鑑評会にて金賞を受賞。2020年には「Kura Master」純米酒部門にて金賞、「IWC 2020」SAKE部門の純米酒カテゴリーにて金賞・リージョナルトロフィー、2021年には「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」にて最高金賞を受賞するなど、近年脚光を浴びています。

数馬酒造の5代目蔵元・数馬嘉一郎さん

数馬酒造の5代目蔵元・数馬嘉一郎さん

2010年、24歳のときに家業である数馬酒造を継いだ数馬嘉一郎さん。

「小さい頃から経営者になりたかったものの、酒蔵を継ぐかどうかは決めていなかった」という数馬さんは、日本酒業界の常識にとらわれず、「起業家が酒蔵を経営する意識で酒造業に取り組むことにした」と振り返ります。

「普通なら、日本酒をより深く勉強しようと考えるべきなのかもしれませんが、僕は酒蔵の外へ出ていって、いろんな異業種の経営者の方と会って、経営哲学やその考え方を学ぼうと思ったんです」

同じ能登で経営に取り組む人々と関わるなか、意気投合したのが、農業を営む株式会社ゆめうららの代表取締役である裏貴大さんです。数馬さんとは高校の同級生で、数馬さんが社長に就任したほぼ同時期に起業し、能登の未来を想う一人でした。

2011年6月、「能登の里山里海」は、新潟県佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」とともに、日本で初めて世界農業遺産に登録されました。けれども、その一方で、能登では農業従事者の高齢化や後継不足により、年々、耕作放棄地が広がってきていることが問題となっていました。

「世界に誇るべき景観が、このままでは失われてしまう」

数馬さんと裏さんは、生まれ育った能登のために何ができるか、熱く議論するなかで、耕作放棄地を活用した「水田づくりからの酒造り」を始めることにします。地主から耕作放棄地を借り受け、開墾し、酒米を育てて日本酒を造る試みです。

2014年からスタートしたこの取り組みでは、協力する地主が年々増え、これまでに約26ヘクタール(東京ドーム約5.5個分)の耕作放棄地を開墾。ゆめうらら以外にもパートナー農家を増やし、2020年に数馬酒造は能登産100%の酒米調達を達成するに至りました。

石川県産の酒造好適米である石川門(いしかわもん)をはじめ、山田錦、五百万石、百万石乃白などの酒米だけでなく、コシヒカリやゆめみづほなどの食用米も使って酒造りを行っています。

能登は「課題先進地」、SDGsは「経営戦略」

そんな数馬酒造がSDGsに取り組むことになったのは、裏さんの言葉がきっかけでした。

「いつものように話しているとき、『SDGsって知ってる?』と教えてくれたんです。ネットで調べてみて、すぐにピンときました。『これは"経営戦略"だ。今まさに僕らがやってることだ』と。まだ国連で発表されて間もないころでしたし、今から意識的に取り組んで、2~3年かけてしっかり環境を整えたタイミングで打ち出せば、自分たちの取り組みをより伝えやすいのではないかと考えたんです」

それまでSDGsという概念は知らなかったものの、数馬さん自身、代表に就任して以来取り組んできたこととSDGsで挙げられている17の目標に共通点を感じていました。

「SDGsのなかにある『働きがいも経済成長も』『海の豊かさを守ろう』『陸の豊かさを守ろう』など、いくつもの項目が自分ごととして考えられたのは、この能登が課題とリアルに直面する場所だからなんです。過疎化も高齢化も進んでいて、あらゆるところで課題が可視化されて、里山と海を守らなければならない。

経営者として、世の中に必要とされる企業であり続けなければならないと考えていました。そのためには、新たな価値を生み出し続けることや、課題を解決し続けることが必要。この能登にいる以上、特に後者が僕らの進むべき道だろうと。SDGsという概念を知って、その方向性がより明確になりました。僕らの取り組みが、世界的に評価される基準ができたと思ったんです」

数馬さんはSDGsをもとに、企業として取り組む3つの目標を定めました。

  • 地域資源を最大限に活用した持続可能な原材料調達100%を実現する
  • 環境負荷に考慮し、社会に貢献するものづくりを行う
  • あらゆる人財が活躍できる多様性のある労働環境を構築する

この取り組みから生まれた象徴的なお酒のひとつが、「竹葉 能登牛(のとうし)純米」です。

米の収穫後に発生する籾殻(もみがら)と牛の排泄物を合わせて堆肥にし、農地に還す。その農地で栽培した米を数馬酒造が精米し、発生した米粉は牛の餌に。「竹葉 能登牛純米」は、そのようなサイクルのなかから生まれる"資源循環型"の日本酒です。

パートナーシップで実現する未来

数馬酒造では、前述のゆめうららを始め、さまざまな企業や団体とパートナーシップを結び、地域資源を中心とした原材料調達と、環境負荷を考慮したものづくりに取り組んできました。とりわけ特徴的なのは、そこで働く人の労働環境にも目を向けていることです。

2015年、数馬酒造は季節雇用の杜氏制度を廃止し、若手の正社員を中心に据えた酒造りを開始しました。泊まり込みの仕込みを辞め、8時半~18時までの勤務時間のなかで回せるような体制に。そのために必要な設備投資や製造工程の見直しを行い、社員と話し合いながら持続可能な労働環境を少しずつ整えていきました。

「自分で自分の職業や職場を選ぶのは良いとして、『職場が人を選ぶ』のはなるべく避けたかったんです。たとえば、お子さんが生まれたばかりなのに、早朝から深夜まで働くとか、泊まり込みで半年ほど家を空けなければならないとか、そういう働き方ができる人は限られています。それに、長時間労働が続いて疲れた状態で仕込むよりも、元気いっぱいでお酒を仕込んだほうが、美味しいお酒が造れるんじゃないかと思うんです」

他にも、時短勤務や在宅勤務を導入し、社員一人ひとり、あるいは部署ごとの事情に合わせて就業時間を取り決めるなど、柔軟な働き方を推進。その結果、女性や20〜30代の社員の割合が大きくなり、多様な人が働く環境を実現しました。

また、「ワークライフバランス企業 知事表彰」に地域内で初めて認定され、「いしかわ男女共同推進宣言企業」に県内第1号として認定されるなど、石川県でも有数の働き方における先進企業となっています。

数馬さんがSDGsに取り組むなかで、もっとも大切にしているのは「パートナーシップで目標を達成しよう」という項目だといいます。

「僕ひとりではお酒も仕込めないし、何もできない。社員さんたちがいてくれるから、やっていけるんです。会社としても、1社だけでできることは限られていても、複数社が連携することによって解決できることがあります。ゆめうららさんとの耕作放棄地の復興からすべてが始まりましたし、やはりパートナーシップがあるからこそ、到達できる未来があるんです」

その言葉のとおり、数馬酒造には、牡蠣の貝殻を水田の土づくりに活用し、その米で仕込んだ、牡蠣に合うお酒「Chikuha Oyster(チクハオイスター)」、東京大学の学生とともに開発した地元の海藻酵母や海洋深層水で仕込んだ「竹葉 いか純米」、石川県内の狩猟団体などと協力し、ジビエの有効利用を推進するため、ジビエ料理に合うお酒として開発された「竹葉 gibier(ジビエ)純米」など、「パートナーシップから生まれたお酒」が数多くあります。

いかにしてその仲間を増やしているのかたずねると、数馬さんはあくまで自然体で答えます。

「若くして社長になったからか、良くも悪くも目立ったのかもしれません。でも、何かを狙ってやるというより、本当に普通の会話のなかで新しい企画が生まれるんですよ。『こういうことに困ってるんですよね』『それならあの人に聞くと良いよ』『これ、僕らだけじゃ無理だから、あの人にも力を借りよう』というふうに。

よく、売り手・買い手・世間の『三方良し』と言いますけど、それに加えて社員・地域・未来の『六方良し』というのが、持続可能なものづくりに必要なんだと思います」

酒蔵の役割は地域のハブとなること

「六方良し」の酒造りに取り組んできた数馬酒造にも、少なからずコロナ禍の影響はありました。けれども数馬さんは「社長になったばかりのときよりはつらくないです」と笑います。

「むしろ、これほどの危機的状況での経営を学べて良かったと思う部分もあります。経営者として成長できる機会になりましたし、良い経営者になるためのステップのひとつでもある。こんなときにも、お客様に喜んでいただけるお酒を造れて良かったなと、自分たちのお酒を飲む。日本酒に救われているんです」

売上が停滞し、生産ペースも落とさざるを得ないなか、数馬酒造では組織としての軸を固めるため、経営理念を再構築する時間を設けました。

社員の方々と話し合って明文化したのが、「能登を醸す」という経営理念と、「『醸しのものづくり』で、能登の魅力を高める」という使命。能登で暮らし、能登で働く人の、決然とした姿勢が見えます。

「やっぱり、地域や社会に貢献できる会社になりたいという思いが強くあります。もちろん、大変なこともありますが、こうして会社を経営していくなかで、ありがたいことに全国から『数馬酒造で働きたい』とお問い合わせをいただき、毎年のように若い人が移住して入社してくれます。それはひとつの成果だと考えています」

数馬さんは「酒蔵だからこそできることがある」と前を見据えます。

「日本のどの地域にも酒蔵があって、他の業種と比べても歴史の長い企業が多いです。地元からの信頼があり、まちづくりにも深く関わり、地域のハブ的な存在となっている酒蔵も多いのではないかと感じています。だからこそ、さまざまな企業を巻き込んで、長期的な視点でSDGsに取り組むことができるのではないでしょうか」

SDGsをこれまでの社会貢献活動やCSRのように捉え、「中小企業にそんな余裕はない」「事業成長とトレードオフになるのでは?」と考える人もいるかもしれません。けれども数馬酒造の取り組みから見えてくるのは、SDGsを自分なりに解釈し、やるべき課題を見いだすことの大切さ。それによって、この酒蔵でしか造れない特色豊かなお酒が生まれ、その味わいや品質につながっていく。

地域に根づいた企業として確固たる軸を持つことが、この困難が続く日本酒業界において、推進力となっているように感じられました。

(取材・文:大矢幸世/編集:SAKETIMES)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます