2024年7月、世界でもっとも影響力のあるワインコンテストと言われている「International Wine Challenge(インターナショナル・ワイン・チャレンジ/以下「IWC」)」のSAKE部門における最高賞「チャンピオン・サケ」が発表されました。

今年の頂点に輝いたのは、兵庫県南あわじ市にある都美人酒造の「都美人 太陽」。2007年に設立されたSAKE部門の歴史のなかで、兵庫県の日本酒が「チャンピオン・サケ」に選ばれるのは初めてのことです。

淡路島に残る数少ない酒蔵として、約80年の歴史をもつ都美人酒造。実際に南あわじ市を訪問し、蔵元と杜氏に話を伺いました。

兵庫県南あわじ市にある都美人酒造の酒蔵

兵庫県南あわじ市にある都美人酒造の酒蔵

食事に合わせやすい、山廃仕込みの「都美人」

かつては50軒もの酒蔵があったという淡路島。都美人酒造は、1945年(昭和20年)に島南部の10軒の酒蔵が合併して誕生しました。

全国的にも珍しい「天秤搾り」という製法を2001年に復活させるなど、近年は、量ではなく質を求める酒造りに方針転換。日本酒の伝統を大事にしながらも、新しい技術も取り入れて酒造りをしています。

そんな都美人酒造が創業当初からこだわっているのが「山廃仕込み」の酒造りです。

山廃仕込みとは、日本酒の一般的な製法である、人工的につくられた乳酸を加える「速醸酛」ではなく、自然の乳酸菌を取り入れる「生酛(きもと)」から派生した製法です。

「現在でも、製造量全体の約6割は山廃仕込みです。すっきりとした淡麗辛口の日本酒が流行した時代もありましたが、それでも、山廃仕込みならではの奥行きのある深い味を守り続けてきました」

そう話してくれたのは、代表取締役社長の久田浩嗣(ひさだ・ひろつぐ)さんです。久田さんは、山廃仕込みの日本酒の魅力は、食事に合わせやすいところだと言います。

都美人酒造の代表取締役社長 久田浩嗣さん

都美人酒造の代表取締役社長 久田浩嗣さん

「淡路島は、昔から『御食国(みけつくに)』と呼ばれ、京都の宮廷に海の幸や山の幸を納める役割を果たしていました。山廃仕込みの日本酒には深みがあるので、燗にしても熟成させても美味しく、まるで白ごはんのように食事に合わせることができます」

淡路島は玉ねぎの産地として有名ですが、都美人酒造のある南あわじ市は、農林水産省の発表(2022年)によると近畿地方で第1位の農業産出額を誇ります。野菜だけでなく、夏は鱧(ハモ)、冬はトラフグといった魚介類にも恵まれているほか、近年はチーズやスイーツなどの乳製品も注目されています。

能登杜氏の魂を継ぐ

現在、都美人酒造の杜氏を務めるのは、家修(いえ・おさむ)さん。約40年の酒造経験をもつベテランの能登杜氏で、過去には「黒龍」「喜楽長」「萬歳楽」などの酒蔵で杜氏を担ってきました。酒造りのシーズンが始まると、石川県穴水町の自宅から単身で淡路島にやってきて、酒造りをしています。

能登杜氏とは、石川県の能登半島を発祥とする、酒造りの職人集団のこと。山廃仕込みによる、しっかりとした芯のある味わいの酒造りを得意としています。

家さんの前々任までは、同じ兵庫県の丹波杜氏を採用していましたが、病気で酒造りができなくなってしまい、新しい杜氏を探すことになりました。「山廃仕込みができること」を条件に探した結果、能登杜氏組合から、前任の杜氏を紹介してもらったのだとか。その縁で、能登杜氏との関係が続いているといいます。

都美人酒造の杜氏 家修さん

都美人酒造の杜氏 家修さん

実は、家さんが都美人酒造で酒造りをするのは、2023年秋から2024年春にかけての昨シーズンが初めて。最初のシーズンから「チャンピオン・サケ」を受賞したことについて、久田さんは「まさかと思いましたよ。感謝感激ですね」と顔をほころばせます。

「海外の日本酒コンテストのなかで出品しているのは『IWC』だけなんですが、過去の実績はゴールドメダルが最高で、何も受賞できない年もあったほどです。賞をいただけるだけでもありがたいという気持ちだったので、いきなり『チャンピオン・サケ』を取ってくれたことには、本当に驚きました」(久田さん)

家さんは、都美人酒造の環境について、「創業当初から山廃仕込みをしてきた酒蔵なので、蔵内に住み着いている菌などが、山廃仕込みに向いていると感じます。杜氏として7軒の酒蔵を回りましたが、そのなかでいちばん造りやすいですね」と、相性の良さを語ります。

「私は、酒造りを大変だと思ったことはありません。60歳くらいまで30年ほど、米作りをしていましたが、酒造りも米作りも、太陽をいっぱいに浴びたお米と真摯に向き合うだけだと思っています」(家さん)

都美人酒造の酒蔵

今年の1月1日に能登半島を襲った大地震。酒造りの最中に地元の石川県穴水町から電話を受けた家さんは、家族に「逃げろ」と伝えながらも、自身は地元に帰ることなく、淡路島で酒造りを続けました。

「杜氏は酒蔵の財産を預かる仕事なので、どんなことがあっても酒造りを休んではいけないという、昔からの教えがあります。能登半島地震があったからこそ、昨シーズンの酒造りには強い思い入れがありましたし、そのぶん上手くできたという手応えも感じていました」(家さん)

ロンドンで開催された「IWC」の授賞式には、都美人酒造を代表して、家さん夫婦が参加しました。それでも、家さんは「『チャンピオン・サケ』に選ばれるとはまったく思っていなかった」と、当時の衝撃を振り返ります。

爽やかで優しい味わいの「都美人 太陽」

都美人酒造は、約3年前に特約店限定シリーズのコンセプトを一新しました。

淡路島にゆかりのある「古事記」に基づき、「花鳥風月」の各文字をテーマにラインナップを整理。花は「革新の酒」として、新しい製法や酒質に挑戦。鳥は「伝統の酒」として、定番の純米酒や本醸造酒がそろいます。風は「季節の酒」として、四季をイメージ。月は「技と粋の酒」として、純米吟醸クラスが並びます。

今回「チャンピオン・サケ」を受賞した「都美人 太陽」は、月シリーズの一本。特A地区である兵庫県吉川産の山田錦を55%まで精米して醸した山廃仕込みの純米吟醸酒です。

都美人酒造「都美人 太陽」

都美人酒造「都美人 太陽」

「都美人」を取り扱う酒販店や飲食店は、兵庫県や大阪府などの関西地方が中心。全国の取扱店はそれほど多くないため、今回の受賞によって一躍、その名を馳せることになりました。

「『花鳥風月』シリーズは特約店にしか流通していないので、製造量が少なく、全国の一般のお客様にはほとんど知られていません。それだけに、受賞の反響は本当にすごかったですね。現在もたくさんのお問い合わせをいただいていますが、もうほとんど在庫がないので、ひたすら謝ってばかりです」(久田さん)

「都美人 太陽」は、金沢酵母による爽やかな甘みをもった吟醸香と、米の旨味がしっかりと引き出されたやさしい味わいが特徴。山廃仕込みの日本酒というと、どっしりとした味わいをイメージする人もいるかもしれませんが、穏やかな飲み心地の一本です。

久田さんいわく、家さんの酒造りは「基本に忠実。きれいな味わいでキレが良い」とのこと。家さんも、「これまで学んできた能登杜氏の酒造りを継承していくのが自分の仕事。先人の教えをしっかりと守るだけで、変わったことは何もしていません」と言い切ります。

“美食の島”を支える地酒

淡路島では、1947年をピークに、人口が年々減少し続けています。

そんななか、今回の都美人酒造の受賞は、淡路島を盛り上げたいという地元の人々にとって、地域おこしへの期待を高めてくれるものでした。南あわじ市の市長・守本憲弘(もりもと・かずひろ)さんは、以下のように話します。

「都美人酒造さんは、地元に根を下ろした酒蔵です。特に今回は、数万円の高級品ではなく、2,000円台のリーズナブルな日常酒が『チャンピオン・サケ』に選ばれたことを、とてもうれしく思っています。『都美人』が評価されたということは、淡路島の水が評価されたということでもあり、これに勝る喜びはありません」

都美人酒造の酒蔵

「淡路島では、スペインのサンセバスチャンをモデルに、4〜5年前から“世界一の美食の島”を目指してさまざまな取り組みを行っています。おいしい食材だけでなく、世界のプロフェッショナルが認めた世界一の地酒があるというのは、淡路島のより大きな魅力になってくれるはずです」(守本さん)

久田さんも、今回の受賞を通して、淡路島全体や南あわじ市がさらに注目されることを期待しています。その一方で、「とにかく売れればいいとは思っていません。まずはこれまで育てていただいたお客様に感謝し、従来のお取引先を大事にしていきたいです」と、今後の方針を話します。

都美人酒造「都美人 太陽」

「『都美人』の魅力は、五感で感じていただくのがいちばん。『チャンピオン・サケ』の受賞を通して、たくさんの方々においしいと思っていただけることが、酒蔵としていちばんありがたいことですね」(久田さん)

都美人酒造では、毎年の10月下旬に酒造りが始まりますが、来シーズンは「都美人 太陽」の製造量を増やすことを検討しているそうです。世界に評価された淡路島の地酒を見かけたら、ぜひ飲んでみてください。

(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)

「IWC 2024」受賞酒を楽しめるイベントが、11/2に開催!

「チャンピオン・サケ」に輝いた「都美人」をはじめ、「IWC 2024」のSAKE部門の受賞酒を楽しめる日本酒イベント「プレミアム日本酒試飲会」が、野村不動産の主催で、11月2日(土)に開催されることになりました。このイベントは、今年で通算11回目の開催となります。

当日は各部門のトロフィー受賞酒を中心に、全国の24蔵から25点の銘酒が集結します。この機会に、世界が評価した最高峰の日本酒を飲み比べてみてください。

◎イベント概要

  • 名称:プレミアム日本酒試飲会
  • 日時:2024年11月2日(土)
    ・日本酒トークセッション 12:45〜14:00
    ・第1部 14:00〜15:30
    ・第2部 16:30〜18:00
    ※各部入れ替え制。開始時間の30分前から受付。
  • 会場:YUITO 日本橋室町野村ビル 野村コンファレンスプラザ日本橋 6階
    ※受付は5階。
  • チケット種類(料金)
    日本酒トークセッション&第1部(3,500円)
    第1部のみ(3,500円)
    第2部のみ(3,500円)
    ※前売券のみの販売となります。当日券の販売の予定はありません。
    ※定員に達し次第、締切となります。
  • チケット販売ページ
    ・e+(イープラス):日本酒トークセッション&第1部第1部のみ第2部のみ
  • 注意事項:
    ・20歳未満の方はご参加いただけません。
    ・車でのご来場はご遠慮ください。
    ・出展銘柄など、イベントの内容は変更になる場合がございます。
    ・新型コロナウィルスの感染状況によっては、イベントを急遽または予告なく中止・変更させていただく場合があります。
    ・体調のすぐれない方のご参加はご遠慮ください。
  • 主催:野村不動産株式会社
  • お問い合わせ:03-3277-8200(YUITO運営事務局

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