西宮市では「西宮の日本酒」振興プロジェクトの一環として、酒蔵地域一帯をキャンパスに見立て「西宮日本酒学校2016」を開講しました。第1回日本盛、第2回白鷹、第3回大関と行われ、いよいよ最終の講義は「白鹿」を醸す辰馬本家酒造株式会社をキャンパスに行われました。
震災を乗り越え創業355年の歴史
辰馬本家酒造株式会社は、1662年、第4代将軍・徳川家綱の時代に創業しました。
1995年の阪神淡路大震災では、1894年に建設され最後の煉瓦蔵として残っていた「新田十番蔵」が倒壊するなど大きな被害を受けました。しかし、1993年に完成した近代的な設備を備えた「六光蔵」が無事であったため、震災から1か月足らずで生産を再開しています。
白鹿記念酒造博物館酒蔵館「震災の記憶コーナー」のパネル
今回の講義会場となるのは、宜春苑(ぎしゅんえん)。1917年に本社事務所として建築された建物です。震災時にも1枚のガラスも割れることなく残ったそうで、現在は多目的ホールとして利用されています。
講義のテーマは「日本酒のあるちょっと贅沢な暮らしセミナー」
白鹿の酒造りのこだわりは「旨味」、甘口でも辛口でもない旨口の酒です。きれいで料理との相性が良い食中酒を目指して造られているのだとか。酒造りの主役は自然の恵みと微生物の力という考えのもと、愛情をこめて麹や酵母の成長を見守るのが白鹿の酒造り。「酒は造るものではなく育てるもの」が信念だそうです。
大正時代に杜氏の梅田多三郎が開発した新しい醸造方法「もち四段仕込み」は、今でもその技が受け継がれています。通常の三段仕込みに加えて、四段目にもち米を掛けることで旨味が加わり、ふくらみのある深い味わいになるそうです。四段目の作業は手作業で行っています。
白鹿の酒造りを学んだあとは、いよいよ実践を交えた講義。酒を飲む酒器によって楽しみが変わることを体験します。
・椹(サワラ)の酒器
ヒノキによく似た木で強い香りのないのが特徴です。手に取ると見た目よりもはるかに軽く、やわらかい感じがします。木の香りが少しはしますが、酒の風味の邪魔をするようなことはありません。(この酒器は辰馬本家酒造が運営するオンラインショップ「おづ」で購入することができます)
・竹の酒器
見ているだけで涼しげな感じで、温泉旅館に似合いそうな佇まい。冷酒を注いで飲みたくなります。
・マティーニグラス
グラスを口元に持ってくると酒の華やかな香りが漂います。この酒器に酒を注がれると、ちょっと飲んでみようかなと思うのと同時に背筋が少し伸びるような気持ちになるそうです。
3つの酒器で飲み比べをして、それぞれ味や香りに違いがあったように感じたのですが、実はすべて同じ酒が注がれていたのだと。酒器によっての日本酒の味わい方が変わるのはとてもおもしろいです。
吟醸酒・本醸造酒・純米酒の飲み比べとペアリングを体験
続いて3種類の酒のきき酒です。
吟醸酒、本醸造酒、純米酒の3種類が入った猪口が配られました。簡単な酒の説明を聞いてから、どの猪口にどの種類の酒が入っているかを当てていきます。全問正解の方には白鹿ビンズがプレゼントされます。
配られた猪口の酒をそのまま利用して、料理との相性をみていきます。本醸造酒には奈良漬、純米酒にはタレ味の焼き鳥、吟醸酒にはチョコレートを合わせて、それぞれの相性を確かめてみます。
本醸造酒は、あっさりした軽めの料理に合わせるのがよいのですが、濃厚な味の料理でもすっきりとした本醸造酒が濃い味を引き立ててくれます。いわばオールマイティの酒だそうです。純米酒は、しっかりとした味付けの料理がおすすめ。醤油や味噌などの濃い味付けによく合います。
吟醸酒は、素材の味に近いあっさりとした味付けのものがいいそうです。特に海鮮や白身魚との相性がぴったり。チョコレートのほどよい苦みもよく合います。大吟醸入りのショコラやチョコレートが数多く販売されているのもうなずけます。
同じテーブルの参加者の間で感想を話し合ったり、意見を述べ合ったりしながらワイワイと楽しくあっという間にお開きの時間。もっともっと続けたいとの声があちらこちらで聞かれました。
帰りには日本酒(「黒松白鹿 ひとめぼれ 純米」)と枡のお土産もありました。
「西宮日本酒学校2016」の講座は今回が最終回。「日本盛」「白鷹」「大関」「白鹿」と、灘を代表する各蔵がキャンパスとなって行われたこの企画。とても充実した内容ですので、次の機会にぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
(文/天田知之)