寒い冬を越え、ようやく暖かい季節になってきました。
しかし油断すると、急な冷え込みに寒さが身にしみる日もありますよね。
そんなこの時期にぴったりの燗酒を落語の世界から紹介します。

落語『上燗屋』のあらすじ

落語の世界に出てくる酒呑みは、陽気で、お茶目で、わかりやすい酔っぱらい方をする人が多いものです。このお話に登場する主人公も例外ではありません。

『上燗屋』

暖簾をくぐるとそこは人のよさそうな、まじめな店主の切り盛りする居酒屋。
さあここから、酔っぱらったこの男が店主をからかったり、いたずらしたり、いわゆる絡み酒をして、話は盛り上がるわけですが、ここではこのお店の看板「上燗屋」に注目したいと思います。

まるで呪文!?「あつなし、ぬるなし、ころ加減で上燗」とは?

男と店主の間でこんな掛け合いが出てきます。

男「『上燗屋』とはどういうことや?」

店主「へい。あつなし、ぬるなし、ころ加減で上燗屋でございます」

男「なるほど!あつなし、ぬるなし、ころ加減で上燗屋か。気に入った」

これだけ聞いても「なんのこっちゃ?」と思う方も多いかもしれません。
そんな方のために、ここで日本酒の温度帯について簡単に説明しましょう。

情緒ある日本酒の温度帯と名称

日本酒はお酒の中でも飲用温度帯の広いお酒として有名ですが、約5℃刻みで温度帯の名称も細かく決まっており、燗酒だけでも以下のような名前がついています。

日向燗・・・30℃
人肌燗・・・35℃
ぬる燗・・・40℃
上燗・・・45℃
あつ燗・・・50℃
とびきり燗・・・55℃~

季節を二十四節気で区切る日本人らしい繊細な表現だと思いませんか?
日向よりも人肌のほうが温かいと表した昔の日本人の感覚に情緒を感じずにはいられません。

ではお店の看板にかかっていた「上燗」がどこにあるか上の表から探してみてください。
もうわかりましたよね?
「上燗」は約45℃、ぬる燗とあつ燗のちょうど間。なので「あつなし、ぬるなし、ころ加減で上燗」となるわけです。
うまい具合に上燗で提供しますよというのが、お店の看板だったわけです。

さて、この『上燗屋』のお話の中の季節は定かではありませんが、あつ燗で飲むには暖かく、ぬる燗で飲むには少し温もりが頼りない、上燗で飲むには今の季節がピッタリではないかと思います。

皆さんも少し肌寒い日には「あつなし、ぬるなし、ころ加減で上燗」と注文してみてはいかがでしょうか?
いつもより、粋な気分で飲めること請け合いですよ。ぜひお試しあれ!

さて落語『上燗屋』ではどんな盛り上がりがあったのか、確かめたい方は下記の落語をお聞きいただければと思います。

桂枝雀『上燗屋』

(文/久野惣司)

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