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かけつけ三杯に百薬の長 落語の中の『お酒』たち

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こんにちは、SAKETIMESライター梅山紗季です。

「酒は百薬の長」。 日本酒が好きな皆さまの中には、1度はこの言葉、耳にしたり使ったことがあるのではないでしょうか。この言葉を、よく耳にする場所のひとつに、「寄席」があります。噺家さん達が語る落語を聞くことができる寄席では、落語の本題に入る前、まくらとして、この「酒は百薬の長」と申しますが、という言葉がよく使われています。

これを読んでくださっている皆さまは、「落語」と聴いて、何を思い浮かべますか? 幼い頃、呪文のように覚えた「寿限無」、「さんまは目黒に限る」という言葉が有名な「目黒のさんま」。

落語の噺というのは、思った以上に私たちの生活の端々に息づいているものです。そして、そんな落語の中で語られる「酒」は、その時代の人々の暮らしぶりや人情を映す役割を担っています。今回は、SAKETIMESライター梅山紗季が、数ある落語の噺の中でも、「日本酒の活きた落語の噺」を、ご紹介して参ります!

シュールさと秀逸なオチ「らくだ」

「らくだの葬礼」とも言われていた噺である「らくだ」は、「らくだ」というあだ名の男の死をめぐり、その「兄貴分」と、偶然らくだの長屋を通った「くず屋の久六」とが、弔いをするためのお金やお酒を集めに奔走していく噺になっています。

注目したいのは、この「兄貴分」が大家から弔いで届いたお酒を、「くず屋の久六」に勧めていく様子です。「くず屋の久六」は最初こそ丁寧にお酒を断るのですが、兄貴分が「なんだっ、おめえ、1ぺえぐれえの酒、つきあえねえのか?」と勧め1杯、次に「もう1ぺえやんねえ。1ぺえきりというなあ心持がわりいや。もう1ぺえこころよく飲んでいきねえ。」と言われ2杯、「かけつけ3べえてことがある。なあ、もう1ぺえだけきゅーっとひっかけていきねえ。」と言われ3杯飲むと、ぐっと酔いが回って、今までと打って変わった様子で兄貴分に酒を注がせるようになってしまうのです。現代でもよく見かけるこの光景、人はお酒の前でついつい「もう1杯」と飲んでしまうのは、江戸時代から変わっていないようです。

この「らくだ」は、終わりまでもが秀逸かつお酒に関わってくるものとなっているため、こんな風に始まります。

酒というものは、下戸に言わせると、命をけずるかんなだといい、上戸にいわせると、百薬の長だといい、どちらへ軍配をあげていいのかよくわかりませんが、むかしから、俗に、酒を気ちがい水と申しまして、ふだんとがらりと気質がかわるかたがございます。ふだんらんぼうな人が、酔いますと、かならずおとなしくなり、ふだんぼーっとした人にかぎって、お酒を飲むと、がらりと反対になって、刃物三昧をしたり、あるいは、目がすわってきて、いいこと、悪いことを問わず、喧嘩をふっかけたりすることがございます。」

この始まりの言葉が、最後のオチに効いてくる「らくだ」は、最初から最後までじっくりと楽しんでいただきたい噺になっています。

夫婦の思いにほろり 「芝浜」

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次にご紹介する古典落語のひとつ、「芝浜」は、こんなふうに始まります。

「酒は百薬の長なんてことを申しますが、飲みすぎるとよいことはございません。からだをこわす、商売をおろそかにするということになったりしますからな。しかし、お好きなかたというものは、どうもこのところからだのぐあいがわるいから、もう酒をやめてしまおうなんておもっても、なかなかやめられるもんじゃありません。3日坊主で、すぐ飲んでしまいます。こんなことじゃあしょうがないから、神さまへ断っちまおうてんで、願をかけて、「やれ、これで安心だ」なんておもってますと、すぐ飲み友だちがさそいにきます。」

お酒が好きな人間にとっては、何とも耳が痛い始まりです。この「芝浜」に登場するのは、お酒が大好きな亭主と、しっかりものの女房。この亭主、腕のいい魚屋なのですが酒を飲むと商売をなまけてしまう人で、この女房が噺の中で、亭主にまっとうに商売をしてもらうために、苦心をしていく様を描いています。

ある理由から酒をやめ、商売に精を出した亭主が、噺の最後に女房から出されるお酒に対し、

「ああ、やっぱり、かかあは古くなっちゃいけねえなあ。ずいぶん長えこと飲まねえのに、よくおれの好きなものをおぼえていてくれたなあ……うん、ありがてえ、ありがてえ……じゃあ、おことばに甘えで、ひさしぶりに1ぱいやらせてもらおうか」

と、幸せそうに向き合う様子が、なんとも微笑ましいのです。久しぶりのお酒というのは、もちろんそれだけでもおいしく感じられますが、大切な人に注いでもらったその一杯を、格別なものとして亭主が味わっていたことが伝わってきます。

そして、亭主の好きな酒を覚えていた女房、商売に精を出せたことを女房に感謝した亭主、夫婦の愛情の深さが感じられる人情味あふれる噺でもあります。

江戸時代から変わらない「日本酒」を愉しむ日本人を映す

酒で人がかわってしまう「らくだ」、そして夫婦の人情を描いた「芝浜」、2つの噺をご紹介して参りましたが、いかがでしたでしょうか?落語の中には他にも、日本酒を味わう噺が多くあります。古くから伝わってきた落語に登場するお酒は、当時の人々の生活や情を映しているように思われます

「落語」はわからなくても「お酒が好き」という気持ちがわかれば、その当時の様子を想像して、噺を味わうことができる。もしこの記事を読んで「落語」にも興味が出てきたら、ぜひ1度、寄席に行ってみることをお勧めいたします。そしてぜひ帰り道、SAKETIMESでご紹介した日本酒のお店に立ち寄って「駆けつけ3杯」、味わってみてくださいね。

 

※今回参考文献を引用・参照するにあたり、現代では不適切と思われる表現もありましたが、時代背景を考慮し、そのまま掲載をいたしました。

【参考文献・引用】

・「昭和戦前傑作落語選集」鈴木哲 編 2013年 講談社
・「古典落語」興津要 編 2002年 講談社

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鈴木紗雪

大学で日本文学を専攻。「お酒が飲みたくなる3冊」という日本酒と文学作品を絡めた記事をはじめ、映画、落語、音楽などの文化的な要素と日本酒とを扱った記事をご紹介しています。お菓子づくりも好きで、日本酒や酒粕を使ったスイーツのレシピも公開しています。