「七賢」を主力銘柄とする山梨銘醸が、これまでにない新しい製法による、瓶内二次発酵のスパークリング日本酒を発表しました。

スパークリング日本酒「Expression(エクスプレッション) 2018」

「Expression 2018」と名付けられたこのお酒は、蔵に貯蔵された15年熟成の大吟醸酒を仕込み水として使い醸された一品。奥深い味わいと上品な熟成感が、瓶内二次発酵によるエレガントな泡の質感と相まって、かつてない複雑な味わいを生み出すことに成功しました。

スパークリング日本酒の可能性を信じて

日本酒の裾野を広げていくためには、よりわかりやすく飲みやすい、入門となる商品が必要と考えていた山梨銘醸。2015年に、瓶内二次発酵のスパークリング日本酒「山ノ霞(やまのかすみ)」を発売します。甘味を残しつつ、米の旨味とミルキーな爽やかさを前面に出したにごり酒で、ヒット商品になりました。

さらに、翌2016年には、滓(おり)を取り除いた透明なスパークリング日本酒「星ノ輝(ほしのかがやき)」を開発。すっきりとドライな仕上がりで、スパークリングワインの市場でも充分に勝負できるお酒でした。

そして2017年、同じ山梨県にあるサントリー白州蒸留所のウイスキー樽で寝かせたスパークリング日本酒「杜ノ奏(もりのかなで)」を商品化します。

「いずれの商品も評判が良く、スパークリング日本酒が売り上げの25%を占めるほどに育ってきました。既存の日本酒を上回るペースで伸びているんです」と、専務の北原対馬さんが話してくれました。

「Expression(エクスプレッション) 2018」のボトルを持つ山梨銘醸・専務の北原対馬さん

山梨銘醸の専務・北原対馬さん

山梨銘醸は、専務の北原対馬さんが経営の全体をみる一方、弟である常務の亮庫さんが製造の責任者として、酒造りの陣頭指揮をとっています。これまでの新商品については、兄弟で方針を話し合い、亮庫さんが開発を担当。ふたりは、スパークリング日本酒に明るい将来を感じ、ラインアップをさらに増やしていこうと考えました。

そんな折に着目したのが、蔵に貯蔵されていた大吟醸の古酒でした。山梨銘醸では以前から、各年に造った大吟醸の一部を貯蔵していました。年間を通して室温が12℃に保たれた冷暗所で、ゆっくりと熟成が進み、まろやかで優しい味わいに変化するのだそう。

「このお酒を『〇〇年モノの古酒です』という文句で売り出すことも考えました。しかし、日本酒の市場では、まだヴィンテージの考え方が浸透していないため、付加価値を高めるのが難しいのです。そこで、このお酒を瓶内二次発酵のスパークリング日本酒に利用できないかと思いました」と、亮庫さんは開発の始まった2年前を振り返りました。

日本酒で日本酒を造る製法にチャレンジ

熟成された大吟醸酒の奥深い香りと味わいと、スパークリング日本酒の爽快さを兼ね備えたお酒。その理想を実現するために、亮庫さんは思案の日々を重ねます。

「Expression(エクスプレッション) 2018」について説明する山梨銘醸・常務の北原亮庫さん

山梨銘醸・常務の北原亮庫さん

「瓶内二次発酵のスパークリング日本酒に大吟醸古酒をブレンドするという手法も考えましたが、どうにも両者が馴染んでいかないような気がして。そこで、造りの中に大吟醸古酒を取り入れるしかないと結論づけました」

仕込み水の一部を日本酒に置き換えてお酒を造る手法は、「八塩折の酒(やしおりのさけ)」として、古事記などの歴史的な文献にも登場します。実際に製法として確立したのは、1970年代前半のころ。貴醸酒や再仕込み法などとも呼ばれています。

山梨銘醸の貯蔵庫

山梨銘醸としては初めての試みだったため、亮庫さんは文献などを使って造り方を勉強する一方、市販されている貴醸酒をできるかぎり入手してテイスティングし、イメージを練り上げていったのだとか。

「小さいサイズで試験を繰り返してから本番に入るというやり方は、僕の性には合いません。化学的・生物学的な部分を充分に理解して、トライアンドエラーではなく、絶対にエラーをしないところまで計画を突き詰めてから、一発勝負の醸造に入りました」と、亮庫さん。

「Expression 2018」は、山田錦を35%まで磨いた純米大吟醸を、添・仲・留の三段仕込みで造り、最後の留仕込みで水を加える代わりに15年熟成の大吟醸古酒を使用しています。

ワイングラスに注がれた「Expression(エクスプレッション) 2018」

「複雑な味わいを狙いどおりに表現することができました。練られたような甘味と蜂蜜のようなコクがあります。リンゴ酸が多く出るという貴醸酒の特徴を生かして、複雑な甘味とコクをリンゴ酸がエスコートして、テンポを上げながらすいすいと喉を通り過ぎていくような仕上がりになりました。瓶内二次発酵のスパークリング日本酒を、さらに進化させることができたと確信しています」と、亮庫さんは胸を張っていました。

世界を見据えた一本

これまでに発売した3種類のスパークリング日本酒よりも、さらに世界市場を意識しています。

山梨銘醸の近くに、1980年代のアメリカを代表するアーティストであるキース・ヘリング氏の作品を集めた「中村キース・ヘリング美術館」があることから、ラベルには彼の描いたデザインが採用されました。

発売は「日本酒の日」でもある10月1日。限定2000本の希少品です。年末にかけて、パーティーなどの特別なシーンで重宝される魅力的な日本酒になりそうですね。

ワイングラスに注がれたスパークリング日本酒「Expression(エクスプレッション) 2018」

2019年には25年熟成の大吟醸古酒を、東京オリンピックが開催される2020年には40年熟成の大吟醸古酒を使った、瓶内二次発酵のスパークリング日本酒を発表する予定なのだとか。

3本の日本酒を並べて飲み比べることができたら、とても贅沢ですね。

(取材・文/空太郎)

◎商品情報

  • 「Expression(エクスプレッション) 2018」
  • 精米歩合:非公開
  • アルコール度数:12度
  • 配送温度:常温
  • 容量:720ml
  • 発売日:2018年10月1日(9月28日出荷予定)
  • 価格:16,200円(税込)
  • 七賢オンラインストアで予約受付中

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます