新潟最北の地・村上の銘醸蔵

新潟県最北の村上市にある大洋酒造。蔵のそばには新潟の代表的な酒蔵、〆張鶴の宮尾酒造もあり、その名前に隠れてはいますが、確かな歴史と美酒を醸し続けています。

村上地域一体の14の古い酒蔵が、戦前の政府の発令による統廃合の波に飲み込まれます。その後1945年、戦後の苦境を乗り切るために、14蔵が合併して創業したのが大洋酒造株式会社です。当時の会社名は下越銘醸株式会社で、酒名は「越の魂(こしのたま)」でした。5年後に現在の社名に改名し、銘柄「大洋盛」となりました。現在は約2000石を生産しています。

蔵の営業マンが副杜氏として初めての責任醸造

この「無想」は蔵人が栽培した県産米「越淡麗」を57%まで磨いた純米吟醸酒で、今年6月に登場した新しいブランドです。醸造責任者は、もともと営業担当だった平田州さん。27BYから副杜氏として造りに入ってから、責任醸造として初めて醸した無濾過生原酒です。「無想」のコンセプトは造りに入る前からあったのだそう。

大洋酒造の販売は問屋経由が中心でしたが、「無想」では東京の有力酒販店を中心に営業をかけ、特約店との直取引の形を取りました。27BYは村上、東京、札幌の10店舗で販売しています。

大きな可能性を感じさせるフルボディ酒

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開栓すると、麹香のほかバナナやメロン香がほのかに漂います。口に含むとピチピチした躍動感があり、きれいかつ太い酸が舌にドカンとぶち当たってきます。そのあとに越淡麗由来の甘味、旨みが弾けるようにおどります。正直、まとまりに欠ける感もありますが、元気いっぱいの呑んでてワクワクするような勢いがあります。荒削りで完成されていない、しかし大きな可能性を感じるお酒です。また、これを呑んで"新潟のお酒”と感じる方は少ないのではないでしょうか。「今は酸を出すタイプが多いですが、乳酸系や白麹などのクエン酸系の酸味ではなく、新潟酒らしい、しっかりした米の発酵からくるリンゴ酸系の味を出せた」と平田さんは語ります。

越淡麗を山田錦と並ぶ酒米の王様に

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地元消費や郷土料理(村上は鮭料理が有名)に合わせるなら、同蔵の従来のレギュラー酒で良いのに、どうしてこのような、新しいアプローチのお酒を出したのでしょうか。

実は、 蔵のある村上市に、京都などで修業した若手料理人が戻ってきているといいます。次の世代が新しい郷土料理を生み出す、そこに「次世代の地元酒で刺激を与えたい」というのが第一。さらに平田さんは「越淡麗という新潟のお米を全国に知らしめたい」とも話します。越淡麗の開発にも同蔵が深く関わっていて、従来の県産米と比較してジューシーな旨みが出るという越淡麗を、山田錦や雄町に並ぶ酒米にしたいという夢もあるのだそう。

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また、「無想」は平田さんの兄・大さん(現・朝日酒造勤務)開発に携わった新潟酵母を使用、さらにラベルは姉・星(せい)さんが揮毫という、平田家の結晶でもあります。文字のドットがすべて星になっているところが粋ですね。「無心で酒を造る」という意味が込められたこのチャレンジ酒。今回はタンク1本分で一升瓶換算約1500本の販売でしたが、28BYはタンク2本以上を計画し、直汲み・無濾過生原酒・一回火入れなどのバリエーションを発売予定だそう。

現状では賛否両論ある酒質かもしれませんが、それは平田さんも承知の上。「まだまだ未完成ですが、3年をめどに完成形に持っていきたいです」と平田さん。呑み逃した皆さん、28BYに期待しましょう。

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