酒処・南会津の銘醸蔵

花泉酒造が蔵を構える南会津町の旧南郷地区は、福島県有数の豪雪地帯。人口は2万人弱ですが、花泉酒造をはじめ、会津酒造株式会社国権酒造株式会社開当男山酒造の4蔵が良酒を醸しています。

花泉酒造合名会社の創業は大正9年(1920年)。当時は、南会醸造株式会社として設立しました。昭和12年、業績不振によって倒産の憂き目に遭いますが、同年、南会醸造合名会社として再建します。創業当時の銘柄は「富田正宗」でしたが、第2次世界大戦後は「伊南川(いながわ)」、昭和25年以降は蔵の裏山に咲くヒメサユリや桜をイメージした「花泉」に変更しました。「花泉」は、現在も地元での主要銘柄です。平成元年(1989年)には、社名を花泉酒造に改名しました。

名水・高清水と四段仕込みの酒造り

南会津は分水嶺で、異なる水系の分岐点になっています。一方は南の利根川へ、もう一方は福島県と新潟県を貫く阿賀野川へとつながっていきます。同蔵の仕込み水は、蔵の近くにある"高清水"という超軟水の湧水を使用。林野庁の「水源の森百選」に選ばれた名水です。

しもふりロ万 純米吟醸うすにごり原酒(花泉酒造合名会社/福島県南会津郡南会津町)のラベルの写真

主要銘柄「花泉」のほとんどが地元や県内で消費されているなか、平成19年に全国の特約店限定で誕生したのが「ロ万」シリーズ。同シリーズの特徴は、酒米には自家製米した会津産の「五百万石」と「夢の香」を、酵母には「うつくしま夢酵母」を使い、さらに地元・南会津南郷地区の蔵人が醸したという"会津づくし"であることです。

しもふりロ万 純米吟醸うすにごり原酒(花泉酒造合名会社/福島県南会津郡南会津町)の裏ラベル

そして伝統の「四段仕込み」も大きな特徴のひとつ。清酒の仕込みは、初添え・仲添え・留添えと、3回に分けて蒸米・麹・水を合わせていく「三段仕込み」が一般的です。花泉酒造の四段仕込みでは、最後にもち米を入れる作業が加わります。これによって、もち米由来の深みや甘味、コクが出ると言われています。全量を四段仕込みで醸す蔵は全国的にも珍しいでしょう。

新酒を寝かせた上質の甘口酒

「しもふりロ万」は、会津産の五百万石と夢の香、そして「ヒメノモチ」というもち米を60%まで磨いた純米吟醸酒です。冬の新酒として出荷されるうすにごりの酒「かすみロ万」の半分が、1回火入れの後、蔵でゆっくりと熟成され、秋が深まり大地に霜が降りる頃に発売されます。

しもふりロ万 純米吟醸うすにごり原酒(花泉酒造合名会社/福島県南会津郡南会津町)のボトルとグラスの写真

もち米由来の甘い香りが印象的です。口当たりもまろやかで、熟したバナナや桃のような濃厚な甘味とジューシーさだけでなく、1年寝かせた深みやコクが顕著に感じられます。滓(おり)がしっかりと混ざっているので、上澄みを飲んでから滓を混ぜると、甘味や深みが増していく変化を楽しむことができますよ。

しもふりロ万 純米吟醸うすにごり原酒(花泉酒造合名会社/福島県南会津郡南会津町)をグラスに注いだ写真

ふくらみのある甘口ですが、きれいな味わいで嫌味な感じがありません。若い飲み手から評価の高いお酒です。燗にすると、意外にも眠っていた酸が引き出され、キリッとした味わいを楽しめます。食事に合わせるなら、肉や魚の濃い煮付けやもつ煮込みなどに合いそうです。

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