江戸中期からの歴史を誇る伝統蔵
創業明和2(1765)年。笹の川酒造は、江戸中期から酒造りを行っている老舗蔵です。さらに50年以上前の宝永7(1710)年、猪苗代湖南の舟津にあった山口家に、酒札の記録が残っていたそう。大正9年には早くも株式会社化し、山口酒造店となりました。
同蔵は、清酒だけでなく、多角的な経営を行なっており、太平洋戦争終了後まもなくの昭和21(1946)年にウイスキー製造免許、同23(1948)年に焼酎・アルコール製造免許、同35(1960)年にはジン・ウォッカ・リキュールなどの洋酒類製造免許を取得しています。現在の、笹の川酒造株式会社となったのは昭和41(1966)年でした。
地ウイスキーやリキュール類も製造
清酒のほか合成酒、甲類・乙類焼酎、ウイスキー、スピリッツ、リキュールなど製造販売しています。しかし、主力として取り組んできたのはやはり清酒。また、大手の蒸留所を除けば東北唯一の地ウイスキーメーカー(スコッチタイプとモルト使用タイプ )として人気を集めてきました。40代以上のオールドファンなら"チェリーウィスキー"を聞いたことがある方も多いかもしれません。
清酒造りは、麹に重点をおいています。平成6(1994)年には手造り麹専用の麹室を造るなど、酒質の向上にも余念がありません。現在の杜氏は常務取締役を務める山口敏子さん。女性らしい、やさしく丸みのある味わいをもつ酒に定評があるようですね。
女性杜氏が醸した飯米清酒の逸品
今回の「米岡日照田 純米酒原酒」は、有機JAS認証肥料を使った「健康米」100%の新商品。4月11日に1500本限定で発売されました。
この健康米は、福島県喜多方市熱塩加納町の篤農家・上野篤幸さんが、日当たりの良い南面傾斜の田んぼで栽培したコシヒカリのこと。なんと、東京の高級料亭でも使用されている米だそう。精米歩合は68%。香りはほとんど感じられず、炊いた米のような匂いがかすかにある程度。口に含むと、蒸した米のような甘味とふくらみ、そしてしっかりした酸を感じました。
驚くべきは、原料が飯米なのにゴツゴツした雑味が一切なく、綺麗な透明感があること。後口の切れ味もちょうど良いですね。どんな食事やおつまみにも相性の良い晩酌酒でしょう。和食なら刺身やしゃぶしゃぶ、塩系の焼き鳥、野菜のお浸し、煮物、煮魚、なんにでも合いますよ。
丹精こめて造った米の結晶
燗にすると、炊いた米を食べているようなふくよかさがより強まり、同時に酸の輪郭もハッキリしました。切れ味はよりシャープな印象になりますね。ホッと一息つける、さばけの良い酒です。冷やしても良いですが、典型的な燗上がりをする酒。飯米でこれほど綺麗な酒が造れるとは、驚きでした。
ある蔵人から「日本酒は米と水。原料の質を越えた酒は造れない」と聞いたことがあり、まさにこの酒で実感。備前焼や唐津焼など陶器の器で飲めば、味の幅広さや奥深さをより一層感じられるでしょう。このコシヒカリはぜひご飯でも食べてみたいですね。滋味深く、飯米で造った酒の常識を覆す逸品でした。