上杉謙信が過ごした栃尾の銘醸蔵

弘化2(1845)年、新潟県中部の栃尾(現長岡市)に創業した越銘醸。主要銘柄「越の鶴」は県外の方でも名前を聞いたことがあるかもしれません。この地域は、雪深い新潟のなかでも有数の豪雪地帯として知られてきました。

蔵の裏には、あの上杉謙信が幼少期から青年期までを過ごしたと言われ、その初陣の地となった栃尾城跡があります。1960年に新潟県の指定史跡にも認定されました。謙信も飲んでいたらしい軟水の伏流水「城山金銘水」を仕込みに使用しています。

平成26年に県外用ブランドとして誕生

「山城屋」は平成26(2014)年、新潟県外用の限定ブランドとして誕生。銘柄名は創業当時の屋号からきているそう。基本的には無濾過生原酒か原酒のどちらか。新潟らしい淡麗辛口酒とは逆の芳醇旨口酒として、年々人気が上昇しています。

今回選んだお酒は「一本〆」を使った無濾過生原酒です。原料の「一本〆」、日本酒好きの方でもあまり聞いたことがないかもしれません。母に五百万石、父に豊盃を掛け合わせて、平成5(1993)年に誕生した、新潟県オリジナルの酒造好適米です。主に吟醸酒用として開発され、デビュー当初は香りとキレのバランスが良い米として評価されていました。

しかしその後は、多収量を狙い、それほど品質の高くない米が大量生産されるパターンが頻発。次第に酒米としての価値を落としていき、比較的新しい酒造好適米ながら、新潟県内でも姿を見ることはなくなってしまいました。

幻になりかけた「一本〆」を地元で復活

そのなかで同蔵は、地元栃尾の農業集団「栃尾サスカッチ」の協力を得て、幻の米となりかけていた一本〆を生産することに成功しました。蔵としても思い入れのある酒造好適米なんですね。

本商品は「一本〆」を55%まで磨いています。香りは爽やかなマスカットやリンゴを思わせ、新酒らしい渋みや苦みも感じられました。サラッとした口当たりのあとにやってくる、芳醇な米の旨みとジューシーな酸味。雑味のない、透明感のある味わい。軽快で、2杯、3杯と呑み続けたくなる美酒ですね。バランス良く万人に受けるお酒でしょう。

食中酒としても優秀で、地元名産の栃尾揚げ、だだちゃ豆、むかごの串焼きなどに合うと思いました。ボディもしっかりしているので、鳥のタタキなど、肉料理にも合うかもしれません。現在、新潟は味乗りの良い「越淡麗」という酒造好適米を売り出していますが、このお酒を飲むと「一本〆」の優秀さもきっとわかりますよ。

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